軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

愛の証明

どうやら俺は家持ちになったらしい。

一国一城の主である。なんてこった。

……いや、確かに今まで努力は続けてきたよ?

この街で縁の下の力持ち的な存在として働いてきて、公にはできないけど色々発展に寄与してはきたよ。

けどこれ別にそういうのが報われたってわけじゃなくてさ……棚からぼた餅っていうか……こう、正当な評価とちょっと違うっていうか……!

そもそも家とか土地を得るのって、いや俺もすげぇ調べた時期あったけどよ、こんなトントンでいくもんじゃねえんだよ! なんで人生最大の買い物になるであろうこの手続きが前の演奏会参加手続きよりもスムーズに終わるんだよ! もうちっとお役所仕事しろ! 新たな街の住人として不安になるわ!

「けどモングレル先輩、サインはしたんスよね」

「したが……」

「じゃあ良いじゃないスか。別に減るもんじゃないスよね?」

「……熟考したけど、宿住みのギルドマンって思ってた以上に失うもんがなくてな……」

色々と脳内シミュレーションもしたけど、なんてことはない。現状より悪くなることはないからとりあえず乗っかってみるだけの価値はあるという結論に至った。

後から“ごめんやっぱ無しで”と言われる可能性は正直……こういう世界だし全然あるとは思っているのだが、仮にそうなったとしても俺の落ち度はないんで、最悪でも元に戻るだけの話だ。まあ、俺の方で根回ししておけば後から理不尽にキャンセルされるようなこともないとは思うけどさ……。ついさっきも敷地内の工事について質問して、別の窓口で色々と今後に使えそうな情報を貰ったりもしたし。

「……けどまさか、モングレル先輩がレゴールにおうちを持つなんて思ってなかったっス……私よりお金持ちじゃないスか」

「おいおい……俺は意外と金持ってるギルドマンだぜ。いや、まあ……俺も家を持つことになるとは思ってなかったけどさ」

少なくとも今日の朝起きた時には全く考えてもいなかったことである。

朝の俺に伝えてえよ……“お前は今日家と土地を手に入れるよ”ってな。そうしたら“ええ……なんで……?”ってなると思う。今の俺もなったままだが。

「さて……とりあえずまたここに戻ってきたが……」

「中見てみたいっスね!」

役所から離れ、家に戻ってきた。

ここはもう爺さんの家ではない。俺の家ということになっている。役所が勝手に言ってるだけかもしれないけどな。いや、役所が勝手に言ってたらそれはもう公的に俺のものなんだけども……。

「ほれライナ、中どうぞ」

「お、おじゃましまーっス……わあ、なんもないっスね……けど思ってた以上に綺麗っスよこれ」

「だよな。……結局俺が前に掃除に入ってから、なんも使ってないんだな」

家に入ると、内装は綺麗に空っぽのままであった。ブレーク爺さんの持ち物だったとは思えないほど小綺麗で、……中央にあるテーブルの上にぽつんと置かれた岩塩以外は物らしい物もない。見覚えあるわこの岩塩……前に爺さんがつまみ代わりに齧ってたやつだろこれ。

腐らんもので良かったけどちゃんと片付けてくれ……。

「二階もあるんスね……あっ、上は部屋が三つもあるんスか」

「部屋多いの良いよな。用途別にできそうだ」

一階は広いキッチンを含むリビングの一室で、二階が三部屋。ちまちまと収納もあって、住み心地は良さそうに見える。

「小さい家族が暮らしていくには快適な広さだろうな」

「はえー……小さい家族、っスか……」

二階の寝室に据え付けられた動かせないベッドの土台を見ながら、ライナがもじもじしている。

「……情勢は安定してきてるし、そこそこの稼ぎもある。……今回はだいぶ急なことだし、俺としてもまだびっくりしてるんだが……なあ、ライナ。お前が良ければ……一緒に暮らさないか」

「!」

すごい顔してこっち見てる。真っ赤だぞ。

「きゅ、急……っスね……」

「いやまあ、急だよな。俺だって急だと思ってるけどさ……ほら、こうして実際に家もらっちまったし……」

「っス、ね……」

「あーなんていうのかな……俺の中ではこう、責任ってのがあるだろ。地盤を完璧に整えてからじゃないとって気持ちがあって……だからまあ、今の今まで先送りにしてたんだが……ここまで条件が整ってるのに、それでも躊躇するようじゃ男というか、人としてどうかと思うっていうか」

木材がむき出しの寝台に座り、すぐ隣にライナを座らせる。

今の俺もちょっと、真正面から顔を見て話すのがちょっと難しい顔色をしているかもしれない。横並びの方が都合が良かった。

「だからほら、ライナ……俺と一緒に暮らさないか」

「……それだけ?」

隣に座るライナが、真っ赤な顔のまま俺を見つめている。

小柄でありながら美人系の目つきをしているライナにこうして上目遣いで見られると、正直嫌でも異性として意識してしまう。この世界の人間は本当に、顔が整いすぎている……。

「いや、それだけっていうか、本旨っていうか……」

「……モングレル先輩。私は家がなくたって、宿屋暮らしだって……別にどっちでも良いんスよ。モングレル先輩と一緒なら……なんだって」

「お、おお……」

「ねえ先輩……一緒に暮らすだけ?」

あー……駄目だな。

可愛いわ。

「結婚して……一緒に暮らしてくれ。ライナ」

「……はい!」

観念して俺がそう言うと、ライナはとびっきりの笑顔を見せて抱きついてきた。軽い。軽いけど、熱い。

「えへへ、結婚……! モングレル先輩、私……嬉しい……!」

「……言わされたなぁ……いや、言わなきゃいけなかったやつだけど……待たせて悪かったな、ライナ。というか、俺で良いのかよ、ライナ。俺もう三十二のおじさんだぜ……」

「モングレル先輩じゃないとやだ」

「おいおい……」

「ずっと……ずっと、最初に会って、いろんなこと教えられてから……ずっと好きだったもん……」

背中に回した腕に遠慮なく力が込められている。胸元に押し付けられたライナの頭が、なんか良い匂いがする……気がする。

うおお……やめてくれライナ……俺はこういう真っ直ぐで純粋な好意に前世含めて全く耐性がないんだ……。

けど……どういう返しをしたらいいのかとか、そこらへんは知ってる。伊達に無駄に長く生きちゃいない。

「俺も好きだよ、ライナ」

「! ……えへへ……」

その頭グリグリしてくるの結構痛いぜ……心地良い痛さだが……。

「い、いつから好き……?」

「……まあ、常に薄っすらとは好きだったけどな」

「薄っすら……」

「いやいや悪い意味じゃねえって。……一緒に酒飲んだり、遊んだり、狩りをしたり……この街で俺も友達って呼べる相手も色々できたし、女友達もそこそこいるけどさ。やっぱり一緒に居て一番心地の良い相手っていうのは、ライナなんだよ。歳こそ離れてるけどさ」

これ言わされるのすげぇ恥ずかしいんだけど……ライナは続きを催促するように上目遣いしている。はい、最後まで白状しますね……。

「……ライナから告白されて意識するようになってからは、そこから更に……って感じだ」

「えへへ……あの時、勢いだったっスけど……言って良かったぁ」

「勢いのまま押し負けたよ、俺は」

「モングレル先輩に勝っちゃったっス。むふっ……」

布の一枚も敷いていない寝台の上で二人横並びに座って、互いに見つめ合う。

俺はライナの頬に手を添え、そっと髪を撫でた。

「俺にこんな可愛いお嫁さんができるなんてなぁ……」

「……お、お嫁さん……えへへ」

「必ず幸せにしてやるよ。俺が生きている限り、絶対にライナを……不幸にさせないからな」

「……じゃあ、その……今すぐ、幸せにして……」

恥ずかしそうにそうおねだりするライナに、俺はすかさず顔を寄せた。

「任せろ」

「あっ……」

顎を寄せ、口づける。

「んっ……」

驚いたようなライナの吐息をそのまま逃さないように、長く。

俺の気持ちと誓いを証明するように、ライナにわからせるように、じっくりと。

「……ぷぁ」

そんなファーストキスを終えると、ライナはぼーっとした顔で俺を見つめている。

彼女から溢れた涙を指で拭いてやると、色っぽく大人びた顔で微笑んだ。

「……幸せになったっス」

「俺は嫁さんを満足させられたかい?」

「……もっと、欲しいな……」

「……ちょうど俺も、同じ気分だった」

「んっ!?」

二度目のキスは、ちょっと強めだった。

ライナは入り込んでくる舌に少しだけ驚いたが、すぐに受け入れ、自分からもおずおずと絡めてくる。

……まあ、俺には前世の経験もある。でも今世は綺麗な身体だから、上手いのは気にするなよ。愛故にと思ってくれ。

「んっ……はぁ……先輩、もっと強く抱きしめて……? あっ……」

「甘えんぼだな」

「嫌い……?」

「好きだよ」

「わ、私も……んっ、……」

それから数分、じっくりと深いキスを交わし……俺たちはたっぷりと、お互いの愛を確認しあったのであった。

寝台はあるがベッドはない。なので、行為はここまでである。まさかの全年齢版展開だ。

空っぽの家で、まだ俺のというには色々足りてなさすぎるんでね……盛り上がるだけ盛り上がってしまったが、その先は一旦お預けということになった。

俺のモングレルはコンフリクトが暴発寸前だというのに行為に及べない。あまりにも地獄すぎる。仕方ないが生殺しもいいところである。このリベンジは……近々果たすとしよう。それまでは過酷な自主練に励むぜ……具体的には今夜にでも……。

「それでだ……俺と一緒に暮らすライナには、色々と言っておかなきゃいけないことがある」

「っス。なんでも相談してほしいっス。お、お嫁さんだし……えへ」

「じゃあまずはですね……この家に氷室と風呂を増設したいんだけど、まずはそのご相談から……」

「それ本気で言ってたんスか!?」

そりゃ本気に決まってるだろライナ。

俺はお前と一緒に幸せになりてえんだ。だからとりあえず、俺の幸せを叶える方向で色々やらせてくれませんかね……?