軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

国を背負う歌い手

サングレールとの本格的な和睦が結ばれようとしている。

次に攻め込むための一時休戦ではなく、これからは仲良くやっていきましょうという流れが来ているのだ。

はっきりいってハルペリア王国とサングレール聖王国の関係は最悪である。

しかし、両者ともに厭戦感情が高まっているのも事実。ハルペリアからすればもうちょっかいかけるのはやめてくれって感じだし、サングレールの方もきっと攻め込むだけの体力はほとんどないのだろう。少なくとも、偉い人はともかく、俺たち庶民からすればさっさと平和な暮らしをさせてくれってのが偽らざる本音だ。

だから仲良くしなければならない……ならないのだが……。

数年前までバチバチに殺し合いしてた連中とそう簡単に手を結べるかっていうと……まぁそれもなかなか難しい話だ。

けど、少しずつでも相手を理解し、歩み寄っていかなければならない。

それが多分、今この時代を生きている民衆の責務なのだろう。

だからそのために一歩ずつ、お互いの文化や考え方に触れていくというのは、俺は悪くないと思っている。

「おのれサングレール人め……」

「連中が来てからというもの、商売上がったりだ……」

「ハルペリア独自の文化が失われていく……」

しかし光あるところに必ず影は差す。

サングレールの文化がハルペリアに持ち込まれていくにつれ、ある文化の摩擦が起こるようになってしまった。

相手の良いところを輸入しようとすれば……当然、それまで自分たちが抱えていた悪いものが浮き彫りになってしまうわけで。

ともすればそれは、国内の業種をまるごと駆逐してしまいかねない劇薬なのである。

彼らもまた、新たな文化の波に攫われかけた、弱き人々であった。

「どうしてサングレールの曲はどれもこれも人気なのだ……!」

「ハルペリアの曲が……歌が……まるで太刀打ちできない……っ!」

「俺の曲が……この俺の曲が古臭いだとぉ……!」

……まあ、うん。そうな。

この森の恵み亭の隅に集まって慎ましく飲み交わしているのは、吟遊詩人たち。

楽器を弾いて歌ってを生業とする、ハルペリアじゃ結構よく見かけるタイプの大道芸人なのだが……これがまぁウケていない。

何故か。大きな声じゃ言えないしそれを言ったらおしまいっていう話になってしまうのだが、これはもうハルペリアの音楽文化がショボいのが悪かった。

ハルペリアの音楽はなんていうかこう、どれもこれも陰気というか暗いというか、大人しいというかこう……楽しくないんだよな。

反面サングレールの音楽は明るい曲が多めで、音楽としてもそもそも質が高い。聞いてて眠くならないしあくびも出ない。

俺はサングレール聖王国という国があまり好きじゃないが、それでも音楽で言えば完全にサングレール側に立っても良いレベルで差があると思っている。逆に言えばハルペリアの音楽はカスなのである。いやカスは言いすぎだな。ごめん。微妙なのである。

「今年の精霊祭はいつも以上の大舞台が作られ、そこで演奏できるとのことだったが……このままでは我々の出番が……」

「なんでもサングレールの技術者によって、音がよく響く劇場が作られるそうだな……そんな場所で演奏できればどれほど良いか……くっ、何をするにしてもサングレールがつきまとう……!」

「嘆くな。最近の若者には伝統あるハルペリアの曲の良さがわからぬのさ……我々がハルペリアの曲の良さを受け継いでいけば良い……」

「だが歴史を振り返るとハルペリアの曲の方が浅――」

「黙れィ!」

「すまない……」

まぁ……そうだな。

サングレールという国は、芸術方面に秀でている。特に歌劇なんかでは飛び抜けていると言っても良いだろう。

サングレールには聖堂の他に劇場も数多くあり、人々はそこで歌や踊り、劇なんかに親しんでいるそうだ。特に贅沢ってほどのものでもない、彼らにとっての日常のひとつとして、そういった芸術があるのだろう。向こうは音響学なんかも発展していそうだ。

それに引き換えハルペリアは……地味である。

劇はあるっちゃあるが、ショボい。お遊戯的な感じがする。歌も地味。貴族は詩の朗読とかやってるらしいが、まぁ大衆向けではないよな……親しめないタイプの芸術だ。

俺にわからないだけで、あっちの隅で固まっている吟遊詩人たちの音楽にも、独自の良さはあるのかもしれない。

けど俺にはよくわからんのだ……。

「モングレルよぉ。お前もリュートは弾けただろ。祭りの時とか演奏してみたらどうだ? お貴族様の目に留まればお抱えにしてもらえるかもしれねえぞ?」

俺と一緒に話を盗み聞きしてたのか、隣の席のバルガーが軽く提案をしてくる。

いつも適当なことばっか言いやがって……。

「それを言うならバルガーだってリュート始めただろ。そっちこそ引退したらどうなんだ」

「俺は武勇伝を作って曲にしてもらう方がいいな……」

「その歳で変な夢見るなよ……」

「変じゃないだろう別に! 男だったら誰しも曲の一つや二つ作ってもらいたいだろうが」

どうもバルガーは数年前に“収穫の剣”が討伐したハーベストマンティスの一件が忘れられないらしい。

本来いるはずのない場所で遭遇した強大な魔物、ハーベストマンティス。それを辛くも討伐した“収穫の剣”は、一時期吟遊詩人によって歌われたものである。最近はもう忘れられたのか飽きられたのか、聞かなくなっちまったけどな。バルガーはあの頃の興奮をもう一度、とでも思っているのかもしれない。

つっても犠牲者が出るレベルの死闘だったんだろ……? それをもう一回ってのは気軽に言えるもんじゃないぜ……。

「しばらくは戦争もなさそうだしよ、そっちで名を上げるのは難しくなった。じゃあどこで名を上げるかって言ったらもう魔物しかねえだろ、モングレル」

「街を襲いにやってきた強大な魔物を討伐しようってか? 自分で曲作った方が早いぜそれは」

「そうかぁ? ……レゴールを襲うサンライズキマイラに一人の勇者が立ち向かい、見事討ち果たす……! その名はバルガー……ダメだな、ちょっと盛りすぎた」

「ちょっとどころじゃねえんだよな」

ていうかサンライズキマイラ討伐するなよ。バロアの森の生態系狂っちまうだろ。

「だがよぉ、せっかくの精霊祭だぜ? たまにはそういう時に目立ってみたいもんだよなぁ」

「バルガーはいつも明るいうちに酔っ払ってるだろ。それじゃ駄目なのか」

「いやー……それも捨てがたいけどな。今年は酔っ払う前にどうにか目立ちたいもんだな」

ノリがもう飲む前の一発芸とかそのレベルだろ……。

「けど俺はな、モングレル。お前だったらほらあの楽器……リュートで弾き語りしてやればよ。結構良い線行くと思うんだよなぁー。変な歌は多いけど、曲自体は結構良いからなお前の」

「おいおいバルガーお前な……酒奢ってやるよ。すいませーん、エールふたつ!」

「しめしめ」

いやまぁ俺の弾く曲はそりゃ良いだろうさ。前世の曲ばっかりだからな。

完成されたメロディライン。黄金のコード進行。そりゃ曲だけでも戦えるってもんだぜ。

けど今年の精霊祭は忙しくなりそうだからなぁ……仮に舞台に立てるとしても、そんな時間があるかどうか。

俺自身が色々と見て回る時間も確保したいし……。

「モングレルの弾き語りだったら、向こうにいる吟遊詩人よりも人気出そうだよな。ハハハ」

「おいバルガー、そういうことをあまり大声で……」

「……! ハルペリアの弾き語りは不滅……そう、我々が育んできた独自の芸術は決して! 決して最近のものに劣りはしない……!」

「うわっ、なんか語り始めた」

吟遊詩人の一人が立ち上がり、おもむろにリュートを弾き始めた。

カラフルな生地を用いたローブにつばの広い帽子を目深に被った、年齢不詳の詩人である。

「ハルペリアが受け継いできた伝統ある曲……それこそ、我らの原点にして頂点……流行りに背くものだとしても、我らが語らねば誰が語れましょう……!?」

「……! ああ、そうだエドさん!」

「俺達は俺達の、ハルペリアの歌を歌うんだ……! 流行りとか、そんなもの関係ねえ!」

「一曲頼むよエドさん!」

「よろしいでしょう……それでは皆様お聞きください……ネクタールの馬追歌」

そうして満を持して始まった曲は……うん、悪くはない……悪くはないけどやっぱりこう、牧歌的なやつなんだよな……。

しかも演奏もちょい下手で歌声が妙にキザっぽくて鼻につく……!

あれ? 普通に評価低いぞこれ!

「盛り上がらねえなあ。もっと最近の曲にしてくれよ!」

「そうだそうだ!」

案の定、酒場の酔っぱらい達から投げかけられるブーイング。

良い曲を聞いて耳の肥えた観衆たちは、伝統あるハルペリアの吟遊詩人に厳しかった……。

「え、エドさん……」

「……“沈む夕日を追いかけて、馬と共に旅をして”~♪」

「あっ、エドさん続行だ! しれっとそのまま続行したぞ!」

いや、この吟遊詩人折れてねえ! 心臓強いな!

「その意気だエドさん! センスのない聴衆に負けちゃられねえよな!」

「いいぞ! そのまま七番まで歌いきっちまえ!」

「な、なんだこの吟遊詩人ども……!?」

「マスターどういうことだよ! こいつら客の言う事聞かないぞ!」

「うちは最低限の額しか払ってないからね。何を演るかは芸人さん任せだよ」

「相変わらずひでえ店だ……!」

……演者の心意気は伝わったけど、うん。

……はい。やっぱり音楽はサングレールの方が良いです……。