軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

流れのない湖でどんぶらこ

釣りやったりサウナやったり、まぁほどほどに楽しんで初日は終わった。

俺としても初っ端から色々やりたいって気分ではなかったので、久々にまったり休めたような気がする。

ドライデンでザヒア湖方面の馬車を探すので大分手間取ったせいで、そもそもスタートが遅れたのもちょっと痛かったな。あれがなければもうちょい狩りだの釣りだの腰据えてできただろうに。

まあ、それもまた今日からやっていけばいいさ。

「本当にこうするといいんですか……? あっ」

目が覚めると、すぐ目の前にモモがいた。

寝起きなのかよくわからない細目を俺に向け、少し驚いたような顔をしている。

「はいはいデイリーボーナス」

「え? え? なになになに、ひゃぁー!?」

なのでとりあえず、ラグマットでモモを簀巻きにしておくことにした。

よし、いっちょあがり。

「どっスかモモちゃん」

「結構暖かくて落ち着くでしょーそれ」

「なんなんですか!? これやるためにモングレルの横で寝とけって言ったんですか!?」

モモがキャンキャン抗議している。どうやらライナとウルリカにそそのかされて俺の横で寝ていたらしい。……前も何度かこいつら簀巻きにしたけど、なにそれ。恒例行事にすんの? そんな楽しい? どっちかというと俺がちょっとやってみたいんだけど。

「はい、ラグマットの枕っス」

「……うーん……頭側はなかなか快適ですけど……足の方に隙間があるので寒いですね!」

「モモちゃんわがままっスね……じゃあこっちにも詰め込んでおこう」

「うん、良い感じです」

「レオあれやってみようよー」

「ええ……僕は別に良いよ……」

しかし湖の近くで簀巻きになってる人間がいるってのも、なかなか緊張感のある絵面だな……。

朝食は余りの食材を使った適当なスープとパンだ。

どうもレオはパン食が好みのようで、ドライデンでも結構まとまった量を買ってきたらしい。俺もこの世界のパンの味は嫌いではないし、サッと一食を済ませたい時はアリだと思っている。

ま、朝食はなんだって良いんだ。今日は昼以降の飯を豪華にするために頑張るんだしな。

「私とウルリカ先輩が組んで撃つ感じで……向こうの浜になってるところが狙い目かもしんないっスね」

「良いね良いね。じゃあ久々に二人でやってみよっかー」

ライナとウルリカはペアで水鳥撃ちだ。鳥相手となると弓使いに任せるしかないので、二人には是非とも頑張っていただきたい。俺は鳥肉が食いてえんだ……。

「じゃあ私は新しい水泳用の道具を試してみます!」

「おー……え、マジでこの湖で泳ぐの?」

「……道具持ってきちゃったし……」

どうやらモモはまた自分の発明品を試してみたいようである。

だが冬も終わったとはいえ、まだまだ流れる水はキンと冷たい。正直この湖に入るのは結構厳しいんだが……。

「……あっ。モングレル、新しい道具使ってみますか?」

「いやいやいや、お前が作ったんだろ。自分で使い心地確かめろよ!」

「ぐっ……!」

「も、モモさん。あまり無理しない方が良いと思います……冷たい水に入ると、身体を壊すこともありますから……」

まぁけどせっかく湖に来たのなら試してみたいよなぁ。気持ちはわかるが……。

「試しにそこの水に足とか手とか浸けてみたらどうだよ」

「……それもそうですね」

モモが湖の縁まで歩いていって、そっと水の中に手を突っ込んだ。

しばらくそうした後、なんともいえない顔をしながら戻ってくる。

「あれは死にます」

「死ぬか……」

「あ、朝の水は冷たいですからね……」

「うん、モモ。あまり無理しない方がいいよ。入るにしても、それこそモングレルさんの建てたサウナで十分に暖まってからの方がいいかもね」

「サウナで暖まって……なるほど! サウナがあるとわかっていれば少しは我慢できそうです……!」

どうも俺の設置したサウナがキーアイテムになるらしい。

まぁ今日くらいの水温だと相当なもんだろうからな……出た直後にサウナか温室がなけりゃ厳しかろうよ。ただの焚き火じゃ濡れて冷えた身体は暖まらないからな……。

「それにしたって、一人で水に潜ったりするのは危ないな。俺が付き添っておくか」

「じゃあ僕は釣りでもしようかな。ゴリリアーナさんはどうする? 一緒に釣りする?」

「は、はい。私も釣りたいです……」

「うーん、釣りも魅力的ではあるのですが……ひとまず明るいうちに、泳ぎを試してみたいところですね」

そんなわけで、俺達の朝からの活動が決定した。

良い感じにそれぞれやることがバラけてて良いんじゃないだろうか。俺だけはちょっと無目的ではあるが……まあ良いのさ。今日はモモに付き合ってやるとしよう。個人的に、こいつの発明品とやらに興味もあるからな。

焚き火にぶっとい薪をいくつも放り込み、丸石と一緒に盛大に燃やしておいた。

これでいつでもサウナを稼働できるだろう。モモが凍えて死にそうになっても大丈夫だ。

舟も出してそれなりの水深の所に来たし、あとは実際に湖にドボンするだけだが……元々こういうことを想定してただけあって、モモはしっかりと水着に着替えていた。

「さ、寒いですね……こんな格好でいるだけでも……!」

「そりゃそうよ。本来なら夏にやるべき実験だぜこれ」

「で、でででも夏まで待てないですし! “アルテミス”がこの時期に行くって言うから……!」

「健気な奴だ……」

モモの水着は、黒のビキニタイプだった。普段は野暮ったいローブを着てることが多いから、こうして露出度が一気に上がると誰だかわからなくなりそうだ。

布面積が少ないのはハルペリアではそもそも文化的に珍しくもなんともないが、素材的な理由もあるだろう。エナメルっぽい光沢があるので、おそらくキシキシゲッコーの皮か何かを使っているのだとは思うが。同じ素材で仮に競泳水着とか作ろうとしたらかなり高くつくだろうな……。

「必要な物は用意してあります……まずこちら、改良した足ヒレです!」

「おー……素材から何から色々変わったな?」

「モングレルの言う撓りを意識して作り直しました! 今回はそのテストもありますが……主役は足ヒレではなくこちらなんですよね」

「お、おお……? これは」

「水中呼吸管です!」

モモが新たに取り出したのは、J字型のホースであった。

そう、まるでシュノーケルのような……顔をちょっと水中に突っ込んでも呼吸ができるという、あの道具である。

……ただし、水中メガネは無し。顔を浸けておけるけど、視界は悪い。うーん、このミスマッチ感。

「これをこうやってですね、こふふればこひゅうがでひるのでふ」

「……けどまぁそれだけでも思いついたのは凄いな。足ヒレでゆっくり泳ぎながら水中をじっと見てられるってわけだ」

「ふんふん」

得意げにふんふん言ってるけどやっぱゴーグルなりメガネなり欲しかったな。

あったら俺もちょっと潜ってみたかったんだが。

「じゃー、俺は舟の上で見てるからな。危険を感じたらすぐに上がってこいよ」

「はい! 大丈夫です! 私は水魔法使いですから、水に親しむ訓練は欠かしていませんので!」

「あ、魔法使いってそういうのあるの」

「私が何のために水辺用の道具を発明したと思ってるんですか……」

いやまさかそこで魔法とかが関わってくるとは思わなくて……。

「とにかく、いきますよ! もごもご……ふんっ」

モモは待ち切れないとばかりにホースを咥えると、勢いよくドボンと飛び込んでいった。

……うん、別に溺れてはいない。モモはそれなりに泳げるタイプのようだ。

足ヒレの調子を確かめるようにゆらゆらとバタ足したり、顔を水につけっぱなしにしてふらふらと漂ったり……は別にいいんだが、舟から見ている分にはうつ伏せで浮いているようにしか見えないのでちょっと怖い。水死体そっくりなんよ。

「こういう時にマーマンが襲いかかってきたらマジで最悪だろうな……一応全く居ないってことにはなってるはずだが、実際のとこどうなんだか……」

ザヒア湖は水質が綺麗なのでかなり深くまで見通せるが、マーマンの気配は感じられない。いたとしても、接近するまでに十分に気付けるだけの距離はあるだろう。

とはいえやっぱり目を離しておくわけにはいかないので、モモが泳いでいる間はずっと水の中を警戒している他なかった。

舟にいる間の暇つぶしにレオから借りたカリンバでも練習しようと思っていたが、他所様のお子さんを預かっといて危険な目に遭わせるわけにもいかねえ。

「どうせ眺めるならもうちょい良い尻が良かったな……」

水面に浮くモモのさほどありがたくないケツを眺めつつ、かなり最低なことを呟く俺であった。

これ聞かれてたらモモの過去最高の怒りが見られそうな気がする。見たくはないけど。