軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春目前の力仕事

「モングレル、一つ仕事を頼まれてくれるか」

ギルドでクラゲの酢の物を食べていると、ジェルトナ副長が笑顔で声をかけてきた。肩まで叩かれた。間違いない。面倒事だろう。

「嫌な予感がするなぁジェルトナさん。なんですか仕事ってのは」

「良く聞いてくれた。まあ、難しい仕事ではない。大人数でやる力仕事でね、ちょっとばかし人数が必要になるんだ」

「……個室で話したほうが?」

「いや、それほどの仕事じゃない。詳しく話そう」

本当かぁ? いや疑っても良いことはないんだけどさ。

なんか最初の笑顔が胡散臭いんだよな。ただの力仕事なのかよ。

俺の気も知らず、ジェルトナさんは穏やかに微笑みながらテーブルの対面席に座った。

「任務は高級家具用の材木回収だ。バロアの森の指定地点まで行って、人力で街道まで運び出してもらう。後は荷車の仕事になるだろう」

「あー……森に潜って、材木を拾ってきて街道にポイして終わり? そりゃ簡単な仕事だなぁ……」

アイアンランクの連中に斡旋したい任務だぜ。もしくは林業やってる人らに任せたほうが良いかもな。その方が不思議なくらい効率的にやってくれるだろう。まるでギルドマンの仕事じゃないみたいにな。

「なんでそんな仕事をわざわざ俺に、って顔をしているな、モングレル」

「ははは、してないっすよ」

「さっきも言ったがその材木というのが高級家具用のものでね。大きな家財を一つの材木から削り出して作る関係上、通常のものではない極めて大きな樹木を伐採する必要があるわけだ」

「……デカい樹木……それって」

「まあ、バロアの大樹だな」

なるほど、それは確かに大仕事だ。疑問が氷解した。

「バロアの大樹を必要としているわけですか」

「そうだ。モングレルも知っての通り、バロアの大樹ともなるとなかなか近場にはない。いや、以前はそういった需要のために残していたのだがね、近年の急激な木材の需要と開拓のおかげで色々あり……」

「切っちゃったわけだ」

「ま、そうなる。……バロアの木も成長が早いとはいえ、近年のレゴールでは材木などどれだけあっても足りない。炭焼き小屋も幾つも増設したし、郊外の木工所まで出来ている。近場の目ぼしい木は全て伐採済み。……残念だが大樹ともなると、少々森の奥まった所へ行くしかないのだ。何より、バロアの木は森の主にある程度近くなければ成長速度も著しく落ちる」

バロアの木は成長が早い。年輪が冬ごとに節ができるのではなく、ひと月ごとに年輪が生成される。月輪っていうとまた違う言葉になるからなんて呼んだら良いのかわからんけど、まあ年輪でいいだろう。

つまり成長速度が単純に普通の樹木の十倍以上。それがバロアの木だ。レゴールがこの樹木をありがたく活用しているのも頷けるというものである。

まあそんなに成長の早い樹木なもんだから、バロアの森の奥地に行くと立派な大樹がそこらへんに聳え立っている。確かに、あれほど化け物みたいなサイズの大樹があれば良い感じの家具も作れるだろう。

しかしバロアの木は他の樹木よりも重めであり、それが大樹サイズともなればそりゃもうとんでもない重量になるわけで。

それを森の奥から人力で運ぶとなると……うん、力自慢が必要だな。

「春が近いから、魔物の姿が見えてもおかしくはない。というより、林業をやっている連中は多少は出ると言っていた。大木を運んでいる途中で魔物に襲われてはひとたまりもないだろう」

「で、俺かい」

「ああそうだ。襲われても撥ね除けられる実力者が欲しいんだ。……本当はもっと早めにやりたかったんだが、冬は色々と事情があってね。この時期までもつれ込んでしまったのだ。だが、ギリギリ今の時期ならどうにかなる。報酬は弾むから、モングレルも是非参加してくれ」

「そういうことなら喜んでだぜ、ジェルトナさん」

護衛とかそこらへんの退屈な仕事は気が進まないが、力仕事ならありがたい。春のザヒア湖旅行に備えて金も欲しいし、受けてやろう。まぁジェルトナさん直々に頼まれたらそもそもやるしかないんだけどな。良い返事をしてやるか、ブーたれながらやるかの違いでしかない。

「よしよし。既に大樹の伐採は完了しているから、あとは力自慢で運ぶだけだ。モングレルの他にはディックバルト、アレクトラ、ルラルテ、マシュバル、ロレンツォ、ゴリリアーナ、イーダ……まあ、色々声をかけている。他にも豪華な面々がいらっしゃるぞ。魔物も出るとさっきは言ったが、これだけのメンバーなら心配はいらないだろう」

「おお……すげぇメンバーだ。……戦争に行くわけじゃないよね?」

「馬鹿、そんなことするわけないだろう」

いやなんかもう近距離パワータイプばかり集めるから何事かと……。

しかしメンツがやべーよ。ていうかゴールドランクもそんなに動かしちゃって大丈夫なのか。高級家具のための材料っつっても人件費で足出ないかそれ。それとも俺の想像する家具よりずっと高級なのか……。

「とにかく、仕事は明日からだ。東門の馬車駅で待っていれば、現地行きの専用馬車が待っている。頼んだぞ、モングレル」

「……やっぱりなんかその笑顔、引っかかるんだよな……」

「頼んだぞ?」

「わ、わかった。わかりましたっての。なんか怖いからやめてくれ、その念押し」

実際のところ、俺の勘は当たっていたようで……。

翌朝、東門近くの馬車駅に顔を出したら全てを理解した。

「やぁ」

「……アーレントさん、なんでこんなところにいるんだい……?」

デカい荷馬車に寄り掛かるようにして、アーレントさんがスタイリッシュに立って待っていたのである。

あんた外交官なのに良いのかよって思ったが、隣にはまた知っている顔が付き添いのように立っているので、きっと大丈夫なのだろう。……本音を言えば全力で知らんぷりしたい相手なのだが、さっきから向こうが嬉しそうな顔で手を振ったり頭を下げたりしてくるので無視もできない……。

「それに、あー……何年か前に見た覚えのある人がいらっしゃいますね……」

「うむ、覚えていてくれたか。嬉しいな。だが、今回は私の名も覚えておいて欲しい。私の名はブリジット。サムセリア男爵家のブリジットである」

いやはい存じております、忘れてないです貴女のことは。

よく手入れされた長い黒髪、高価そうな全身鎧、そして武器屋に置いてなさそうなくらい誂えの良いロングソード……。

二年ほど前に“アルテミス”と一緒に冬の森を探索した……ちょっと風変わりな貴族令嬢だ。

「隠し立てしてすまなかったな。よもやこの私が貴族だとは思わなかっただろう」

「……はい。驚きました……」

「そうだろうそうだろう。だが、今日は同じ職務に携わる仲だ。貴族令嬢などとは思わず、また一人のブリジットとして扱ってくれて構わないぞ」

そう言って、ブリジットはポケットからアイアンランクの認識票を取り出してみせた。ああ、まだそれ持ってたのね……でもブリジットさんよ、あんたもうそれいらんでしょ。レゴール伯爵夫人の護衛になったって聞いたぜ。そこから何がどう人生トチ狂ったらギルドマンに転落するんだよ。多分そのくらいのやらかしをしたら首が飛んでるんじゃねえかな……。

「ええと、なんでブリジット様とアーレントさんがここに……?」

「私のことはブリジットでよい。……ふむ、まあ色々と事情があるらしいのだが、私も詳しいことは知らんのだ。ハルペリアとサングレールの共同……とかだった気がするのだが」

なんかふわっとしてるぞブリジット。さては良くわかってないなお前!

「そう、そんな感じだよ。今回の仕事は様々な立場、人種、身分の者を抜擢して行う、パフォーマンスに近いものだ。立場の異なる人々が共に手を携えて大木を運び出し、そこから一つのモニュメントを作り出す。これもまた、和睦のためのアピールの一つだね」

「俺高級家具を作るって聞いたんだけどなぁ……ジェルトナさんめ。嘘は良くねえぞ、嘘は……」

「私はサングレールの外交官として。そしてこちらのブリジットさんは、今回は私の護衛として来てくれている。必要ないとは言ったのだが……」

「そういうわけにもいきません、アーレント様。あなたに万が一があってはまた国家間で不和の種が芽吹いてしまうでしょう。私の命に代えても守らせていただきますよ」

「……そういうことだよ、モングレルさん」

「そっちもそっちで大変だなぁ……」

要するに、これはお偉いさん参加型の御柱祭ってわけだ。

いやー頭空っぽにして雑に参加しても良いのかなーとか思ったけど、そうはいかなかったか……随分と緊張感のある仕事になっちまったぜ。

「――ほう、今回はモングレルがいるのか……――面白い。滾ってきたぞ……!」

「お、アーレントさんじゃないの。私らと一緒に仕事するんだ。良いね!」

「おーモングレルもいるのか。力あるもんな、そりゃ選ばれるかぁ」

「あ……ど、どうもモングレルさん、お久しぶりです……」

それから続々と近距離パワータイプな人々が集まってくる。このまま天下一を決める武道会が開けそうな錚々たる面々ではあるが、始まるのはバトルではなく材木運びだ。

……うん。どいつもこいつも暑苦しくはあるが……さすがに今回はアーレントさんのそばにいるのはやめておこう。近くにブリジットもいるし。というより、向こうは向こうで兵士出身の連中で固められてるし近づきたくても近づけないし。

俺はギルドマンらしく、ギルドマン連中と一緒につるんで仕事するとしますかね……。