軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

乗馬体験スープ付き

「モングレル、絶対に手綱を離すなよ」

「離さねーって」

「絶対だぞ!」

「その駄馬が俺に噛みつこうとしなけりゃな」

「駄馬って言うな! ダブルヒットだ!」

今日、俺はバルガーに付き合って軍馬……いや、元競走馬であるダブルヒットの調教に付き合っている。

元軍馬の競走馬、ダブルヒットは気性難故に戦績が振るわず、そのくせ大食らいなものだから安値で売りに出されていた。その時、酔っ払ったバルガーがたまたまちょっとした金を持っていて買われたという、まあ……成り行きにしたって全体的にろくでもない買われ方をした馬である。

色々と話し合った結果“収穫の剣”の馬として運用することになったそうなのだが、それにしたってまず馬に言うことを聞かせないことには始まらん。軍でも競馬でも言う事を聞かなかった馬が果たしてワンシーズンで大人しくなってくれるのかという大きな問題はあるが、やってみないことにはどうしようもない。

春になるまでにどうにかしてやろう、どうにかしないとパーティーの財政がヤバいというのが、“収穫の剣”の切実な事情なのであった。

鞍上はバルガー。今はレゴールの外で、ぱっからぱっからと歩かせているところだ。

「昔は騎士に憧れたりもしたもんだが……まさか、こんな形で軍馬に乗ることになるたぁな……!」

「ブルルッ」

「うおっ、こらこら落ち着け。……バルガーが騎士? そんな真っ当な夢らしい夢を持ってたんだな」

「小さい頃だ、小さい頃。おーよしよし、いい子だぞーダブルヒット」

「お前いい子って言ってるけどね、今もこいつすっげぇ反抗的な動きしてるからな。全然いい子じゃねえから」

雪のある道をシャクシャクと踏みしめ、大きな白い息をブワーッと加湿器のように吐き出しながら、ダブルヒットが進んでいく。

こんな寒い日に外の散歩なんてとんでもないように思えるが、さすがは軍馬。全く辛くなさそうどころか、最初からずっと興奮しっぱなしである。押さえつけてないとすぐにでも駆け出していきそうだ。

とりあえずダブルヒットには、“収穫の剣”の人間と街道に慣れさせるところから始めなければならない。

人が乗っても、近くにいても暴れないようにする。ゆっくりでもいいから、しっかり街道沿いに歩かせ、道を理解させるのだ。

「バルガー、結局このダブルヒットはどういう使い方をするんだ?」

「あー、そうだな。まあ、基本的には速達だろうな。こいつは頑丈だし普通の馬よりも遠くまで行けるらしい。レゴールから少し離れた宿場町へも一頭で走りきれるから、そういう依頼で使っていく。……らしいぞ。俺らもギルドに相談してそういう使い方があるって話を聞いただけだからな」

「速達ねぇ。まあ、でもそんなピンポイントな仕事が普段からいくつもあるわけじゃないだろ」

「そうらしい。だから普段は、小さめの荷車を引かせてちょっとした運搬仕事になる。馬車の護衛と似たような仕事だと思ったんだが、案外これが面倒でな……荷車の値段も馬鹿にならねえし、いや、もう金を食ってしょうがねえ……」

「よくアレクトラがこんな金食い虫の運用を許してくれたな……」

「ほんとだよ。アレクトラがダブルヒットに愛着を持ってくれてなかったら、肉にでもされてたかもしれねぇ」

「ブルルッ」

アレクトラのやつ、なんだかんだこういう動物好きそうだもんな……そうか、飼い始めて情が移っちまったか……。

「でもな、悪いことばかりじゃねえんだぞ? こいつは特別頑丈だからな、完全装備のうちの団長を乗せても元気に走れるんだ」

「おお、マジかよ。ディックバルトを? そいつはすげぇ」

「だからレゴール近郊で厄介な魔物が現れた時なんかは、団長が単騎駆けできる。あの人は仲間がいなくても戦えるし、武器の相性も良いからな。その辺りも将来的には期待したいとこだ」

ディックバルトの扱うグレートシミターは斬撃に特化した大剣だ。馬上で振るうには非常に有効な武器と言えるだろう。しかもディックバルトは最近魔導鞘を買ったばかり。馬上で片手でも抜刀納刀ができるというのが大きなメリットだ。そう考えると、ダブルヒットはまさにディックバルトのためのような……。

「……もうずっとディックバルトを乗せてた方が良いんじゃねえ?」

「馬鹿! そんなわけにいくかよ! 俺が一番乗りこなしてやる! というか、ディックバルトさんだってこいつに乗ってばかりもいられないしな!」

「動物は素直だからなー。バルガーも主人として認められたかったら、しっかり世話してやらないとな」

「くっそ、わかってるっての……な、ダブルヒット!?」

「ブルルッ」

返事をしてるのだかしてないのだか、ダブルヒットはタイミングよく嘶いていた。

馬の散歩を続けていると、野営地を見つけた。

野営地は街道沿いにある小さな宿場町……にもなりきれない本当に小さな溜まり場といったもので、ドライデン方面やエルミート方面の街道沿いなどで時々見かけることがある。

しかし、空き地でよくわからん集団が屯しているなんてのは盗賊が襲う相手を選んでキャンプしているのと何ら変わらないため、この手の野営地はしっかりと管理されていることが多い。まめに兵士が巡回してくるし、野営地にいる人間は全てしっかりと誰何され、不審物を持っていないかだとか、どういう目的でいるのかだとかも厳しく聞かれる。

イメージとしては、交番のある道の駅って感じかね。

「そこの二人、止まれ。何者だ?」

こうして野営地の近くを通りかかるだけでも、兵士に止められる。

まぁ当然ではある。特に荷物を積んでいるわけでもない、やたらと立派な馬に乗った男連中だ。不審すぎるもんよ。

「ああ、どうも。俺はレゴールのギルドマン、“収穫の剣”所属のバルガー。で、こっちが」

「俺はソロのモングレルだ」

「ギルドマンか。……任務か? その馬は?」

「いや、こいつは最近買ったばかりの馬でして……まだ慣れてないもんですから、今はちょっと調教中で」

「俺はその手伝いに駆り出された可哀想なギルドマンってわけ」

「なるほど……しかし立派な軍馬だな」

「ブルルルッ!」

「うおっ! ……いや、軍馬ほど大人しくはないか。レゴールから来たなら、札を見せてもらおう」

「はいよ、ご苦労さん」

野営地では簡素な天幕がいくつか張られ、もくもくと煙が上がっている。遠目には火を囲んで寒さを凌いでいる人の姿が見える。冬の寒い時期だというのにこうしているのは、色々と訳ありな連中が多いからだ。街や村で暮らせず、かといって野盗に身を堕としたくはない……そんな連中が寄り集まって、冬を越そうとしているのである。

しかし彼らの顔色は決して悲観的なそればかりでもない。こういう辺鄙な場所にしかないちょっとした仕事もあるし、気心知れた仲間と火を囲んで話していれば、どんな環境だろうとそれなりに楽しさはあるのだろう。もちろん、それで満足している者ばかりでもないのだろうが。

「よし、不審な点はないな。行っていいぞ」

「おーいそこの人ら! 温かいスープでも飲んでいかないか!? 五十ジェリーでいいぞ!」

野営地の焚き火を囲んでいる連中から、そんな声が聞こえてきた。

どうやらまとめて作っているスープを売って金にしたいらしい。

「寒かっただろう! 飲めば温まるぞぉ」

「変なもんは入れてないぞ! 二人なら九十ジェリーで良い!」

「人助けと思って、頼むよ!」

「……なぁ兵士さん、あの連中のスープは大丈夫かね」

俺が小声で確認を取ってみると、兵士の男は鼻で笑い、小さく頷いた。

「決まった仕事は続かないが、悪い奴らではない。スープも自分らで飲んでいるものだし、毒はないさ。味は……一度飲んでみたが、まぁ飲めなくはない程度だ。一杯五十ジェリーと言われると、首を傾げるがね」

「ははは、そうか」

どうやら悪い連中ではないらしい。通りかかった人を相手に小銭を稼ぎたいだけなんだろう。そういう金でやりくりしている連中も、まぁ世の中には色々いる。

「どうするよ、モングレル。俺はちょうど、軽く温かい物でも欲しかったところだ」

「寒いしな。せっかくだし俺も飲んでいくわ」

「よし。十ジェリーの儲けだな」

「味はそうでもないって話だけどな」

「温かければいいだろ」

そうして木製の椀によそってもらったスープは……うん。期待はしていなかったが、塩も薄くて野菜の類もほとんど無い。肉っぽい旨味や油もあるにはあるが、肝心の肉っぽいものは欠片しか入っておらず、そのくせ硬くて無駄に存在感があるという、兵士の男が高いと形容するのも納得な味わいであった。

これで金取るんかいってクオリティだが、僻地料金ってやつだな。仕方ない。寒空の下で温かい汁を啜れただけでも良しとしよう。

「ブルルルッ!」

「うおっ! なんだなんだ、ダブルヒット! どうした? 俺達だけ飯にしたから怒ってるのか!?」

「うおっとっと、引っ張るなって……! どうもそんな感じだな……そんな大して美味いスープでもないってのに……」

「嫉妬深い奴だなぁ……しょうがねえ。モングレル、ここで折り返して帰ろうや。ダブルヒットにも食わせてやらなきゃよ」

「“収穫の剣”を背負うには、まだまだ頼りない馬だな……」

「こんだけでかいのになぁ……ダブルヒットよ……」

果たしてダブルヒットは冬の間に利口になってくれるのだろうか?

口では言えないが、春までに馬刺しになっていないことを祈るぜ……。

でも馬刺しになるなら俺を呼んでくれよな……。