軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界と神々

この世界に、俺の転生とかそこらへんを司っている上位存在……つまり神様がいるのかどうかは定かではない。

しかし、それ以外の神様は色々といる。そのいろいろについては、俺も存在を疑ってはいない。

ハルペリア王国は月の神ヒドロアを主神としているし、お隣のサングレール聖王国では太陽の神ライカールを主神としている。ここらは基本だな。

だがこの世界においては、他にも色々な種類の神様がいて……太陽神信仰が強めのサングレールではともかく、そこらへんの宗教観が比較的大らかなハルペリアにおいては、わりと様々な神様が祀られているのである。

月神ヒドロアの次に有名なものといえば、 慈聖神(じせいしん) フルクシエルだろう。

ヒーラーが扱う魔法、フルクス・ヒールなどを司っている神とされていて、これらヒール系の魔法が通常の魔法とは別系統の技術であることなどから、慈聖神フルクシエルの実在は間違いなかろうという風に解釈されている。

病や怪我を治してくれるありがたい神様なので、その姿はまぁよくあるタイプの聖母チックな女神として描かれることが多いかな。診療所なんかにはこのフルクシエルを象った絵画や簡単な像なんかが置かれていることも多い。

ただ、この神様を信仰しているからといってヒールを覚えやすいとかそういうわけではないので注意だ。ヒールは才能。教会関係者だからってヒーラーになれるわけでもない。よくわからん世界である。

最も身近に感じられる神として、スキルの取得時に脳内に響く声の持ち主であると言われている女神…… 技神(ぎしん) ミス・キルンというのもいる。

スキル習得時になんかこう、水越しに曇ったような声でなんとなーくスキルの習得を教えてくれる……その声の持ち主がミス・キルンである、という説だ。

説というのは、このスキル習得時に響く声の持ち主については国によって様々な説があるという意味である。たとえばサングレール聖王国なんかだと「いやその声はライカールだから(半ギレ)」みたいな感じになってるし、こっちのハルペリア王国では「いやだったらその声の持ち主はヒドロアだし(半ギレ)」みたいな……まぁ、うん。自分らの国教に都合の良い感じに解釈されているってわけだな。

そんな中で「いやこの声は技神ミス・キルンですが」という説を提唱しているのが漂着者達を中心とする連中だ。国の事情に押されて無視されがちではあるが、なんだかんだで古い文献にも多く残っているらしいので、俺としてはこの技神ミス・キルンってのがそうなんじゃないかと思っている。

他にも神様は色々だな。

魔法を司るとか言われている 法神(ほうしん) アトラマハトラ。

商売繁盛を司る 商神(しょうしん) カルカロン。

復讐する者に力を授けるとかいう物騒なご利益があるという 誅征神(ちゅうせいしん) ツタニシオス。

航海の安全を司る 航神(こうしん) スコーニ。

それとこれは実在というより、実在する人間を祀り上げた奴だと思うんだが、魔道具を司る神様として魔導神ロウドエメスってやつもいる。

……まぁ今こうして思い浮かぶだけでも色々といるわけだが、主神であるヒドロアの扱いすらどこか雑なハルペリアの国民だ。それより下に位置づけている神々の扱いなど推して知るべしである。敬虔な信徒なんてものはあまりおらず、職業柄関係のある神様を祀るくらいのもんだ。

実際、木っ端の神々は実在するか微妙なものも多いしな……クオリティの低い迷信止まりなのも仕方ない。

色々と存在したりしなかったりするそんな神々。

これらがそれぞれの国や地域から生まれた信仰であるかというと……実はそうでもない。

神々の多くはハルペリアやサングレールなどで自然発生したものではなく、他所から齎されたものが大半なのだ。

その鍵を握る存在こそが、“漂着者”と呼ばれる者たち……つまり、“異世界転移者”たちなのである。

……うん。異世界転移者。

まぁ、異世界転移っちゃ、異世界転移なんだが……。

「ベイスンの方で畑に小舟が落ちてきたらしいぜ」

「聞いたよ。漂着者だろ? 可哀想にな。落ちてきてそのまま死んじまったそうじゃねえか」

「運のない漂着者だぜ。生きてさえいれば、丁重に扱われたかもしれないってのに」

昨日からギルドでそんな噂話が流れている。

内容は、ベイスンにある畑の一つに突然、人を乗せた小舟が落下してきたというものだ。

小舟は半壊し、乗っていたであろう男は全身を強く打って亡くなったそうである。聞く限り、相当高い場所から落っこちてきたようだ。

実はこの世界、たまーに空から変なものが落ちてくることがあるのだ。

それはでかい船だったり、小舟だったり、そのまま人が落下してくることもある。そんな空から落ちてきた連中は大半がそのまま亡くなってしまうのだが、中には運が良いのか悪いのか、生き残ることがある。そうして生き残った人々のことを習慣的に“漂着者”と呼び……なんと、彼らは皆ここではない別の世界の住人であることがわかっている。そう、俗な言い方をすれば異世界転移者だ。

初めてこの漂着者って概念を知った時は驚いたもんだぜ……異世界転移。まさかそんなものがこの世界にもあるだなんて、思いもしなかったもんだからな……。

「ベイスンで漂着者っスか……可哀想っスね」

「だな。まぁ、こればかりは運だよ。良い感じの木がクッションになるか、水辺に落ちるか、落下の衝撃そのものが不思議な力で弱めであってくれるか……」

「なんなんスかねぇ、漂着者って」

「……なんなんだろうな。記憶を失くしてる奴がほとんどらしいから、実際のとこはわからないそうだが……まぁ、別の世界からの人間ってのは間違いないだろ」

「別の世界……異世界っスかぁ」

今日はライナと一緒にギルドで弓をいじっている。

たまには弓のメンテナンスをしないと駄目っスよというライナのお小言をもらい、色々と手伝ってもらってる感じだ。

「異世界って、やっぱり神様が大勢いる世界なんスかねぇ」

「やっぱそうなんじゃねえか。漂着してくる人はみんな何かしら信仰してるみたいだしな」

「お祈りとか欠かしてないんスかね。ちょっと大変そうっス」

「だな。神殿の人らの前じゃ言えないが、定期的に礼拝しなきゃいけないってのは面倒くさそうだ」

異世界転移……とはいうものの、この漂着者という存在。俺のような、地球からやってきたような人間は全くいないらしい。

というのも、どうにも漂着してくる連中のいる世界はここと似たような世界らしく、当人の記憶がおぼろげであるとはいえ、明らかに同じようなファンタジー世界の出身みたいなのだ。

なんかこう……全く別の世界というよりは、平行宇宙的な? 隣り合った次元の世界みたいな感じである。それは、ここと同じような神様が存在することからも明らかだ。

これを聞いた時、俺は普通にがっかりしたもんである。元の世界にワンチャン戻れるかもって思ったら全然手がかりにならなさそうだもんよ。ファンタジー世界からファンタジー世界に移動する手段があったとしてもどうしようもねーわ。

ちなみにそのファンタジーからファンタジーに世界間移動する方法も全く確立されていないらしい。漂着者がやってくるのも時々、それも一方的なもので、原理も法則も何もかも全くの不明なのだそうだ。

じゃあ俺がいた世界はなんなんだ、俺はどうしてここに転生してきたんだって話になるのだが、これはマジでわからん。ノーヒントすぎて調べる気にもなんねぇぜ……。

「弓の神様とかいるんスかねぇ……」

「神様というかライナの所属してるアルテミスがまさにそうだろ」

「あ、そっか……いやでもアルテミスは人っスよ」

「人かぁ? ほとんど神話っぽいけどなぁ。あーでもあれだ、弓の神ってのも確かちゃんといたはずだぜ。スバインって名前だったかな」

「へー、弓の神様いたんスか……聞いたことなかったっス」

「多分全然有名じゃねえよ。俺も知り合いから聞いたやつだしな」

「知り合い?」

「漂着者が言い伝えている神々について研究してる物好きがいるんだよ。そいつの話を一時期聞いててな。色々覚えちまった。覚えたはいいけど全然役に立たねえんだ」

漂着者の語る神々は、いわば別世界の神話である。中には共通する神様もいるが、ハルペリアやサングレールでは主神が決まっているので、多くはそう熱心に信仰されることもない。信仰したところでご利益もないしな。それだったら自分の今いる地域の神様を崇めておいた方がご近所付き合いにもなって良いもんである。

「はぇー……でも弓の神様がいるなら、ヒドロアよりもそっちの方が良さそうな……」

「そこらへんは自由だけどな……けど、神殿の人らに知られると嫌な顔されるかもしれないぞ。宗旨変えも悪くはないが、乗り換えたとしても後で軽んじるのだけはやめておけよ」

「さ、さすがに本気で乗り換えたりはしないっスよ。呪いとかありそうっスから」

「ヒドロアは嫉妬深いっていうしな」

「っス……なんか怖そうっス」

ちなみに我らがハルペリア王国の主神ヒドロアは、結構ヒステリックな性格をしているらしい。怖い。

けどサングレール聖王国では太陽神ライカール以外の神を大っぴらに信仰してるとか言っちゃうと普通に迫害対象にされるからもっと怖い。向こうじゃ漂着者の扱いはすげぇ悪いらしいぞ。おっかないね。

「……モングレル先輩。せっかくだしこの後神殿寄ってかないスか。軽くお祈りして、神様から赦してもらいたいっス」

「赦しの請い方がカジュアルだな……けどまぁ、たまにはやっておくのも良いか。ちょっとだけお布施して団子でも貰おうぜ。俺ギリギリ団子が貰えるお布施の金額知ってるんだぜ」

「マジっスか。わぁい」

この後、ライナと一緒に久々に神殿でお布施して、ちょっとだけお祈りして、そこまで美味くもないもっさりした団子を味わったのだった。

ヒドロアが俺たちの事をどう思っているのかはわからないが、気分的にはちょっと敬虔になれた気が……しなくもない。