軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

泣いて馬を飼う

冬。厳しい季節である。

燃料も食料も乏しく、あらゆるものを蓄えておかなければ貧乏人は乗り越えるのも難しい。

この発展著しいレゴールであってもそれは変わらない。職自体はいくらでもあるのだが、どういうわけか下手な生き方しかできない連中はどの世界でもいるようで、時々屋外では凍死した人が見つかったりする。恐ろしい話だと思われるかもしれないが、そう珍しいことではないのだ。

まぁ、とにかく厳しい季節なわけだ。

誰であっても計画的に蓄えを作っておかなければひどい目を見ることになる。ギルドマンなんかはその最たるものだろう。計画性のない散財で詰みかける奴の多いことよ……。

だからまぁ、買い物とか……そういうのは、計画的にしておかなきゃいけないんだけども。

「ブルルルッ」

「なあモングレルよ。俺たち“収穫の剣”も近頃は人が増えてきただろ」

「ああ、そうらしいなバルガー」

「俺等が纏まりがねえって言われてんのはわかってる。だからな、ここらでひとつ、パーティーに変化がなくちゃいけねえと思うわけだよ、俺は」

「変化ねぇ……」

おお、寒い寒い……。

こう拓けた場所だと風がつめてぇな。

「そこで、俺らに何が足りないのかってのを考えてだな……」

「“これ”が?」

「最後まで聞け。……“大地の盾”は色々な任務をこなしてるよな。それでだな、やっぱ機動力が違うと思うわけよ。隣の村まで一瞬でビャッと行って任務をこなせる素早さっていうの? そういうのが足りなかったと思うわけよ俺は」

「……で、“これ”なのか?」

「……そうだよ」

俺とバルガーの視線が馬房に注がれる。

そこには、干し草をムシャムシャどころかバリバリと豪快な音を立てて咀嚼する、バカでかい図体の馬がいた。

「……お前こいつ、前に競馬で走ってたダブルヒットだろ」

「軍馬をな……安く仕入れたんだ……」

「軍馬だったけど気性に難があって競馬で走ってたんだろ。なんでここの、預かりの馬房にいるんだよ」

「……それを説明するためにはな、モングレル。俺がその日の夜、やけに賭場でツいてた話から始めなくちゃなんねえんだ……」

「賭場でちょっと儲かった金で勢いで買っちまったのか? 馬を?」

「違う! 酒の勢いだ!」

「……馬鹿だねぇー! お前!」

「あー! お前今それアレクトラと同じ言い方したぁ!」

「するだろこんなん!」

説明しよう! 俺達の前にいるこのダブルヒットという馬は……バルガーお気に入りの競走馬である!

元々は軍馬だったのだが、落ち着きがないのと色々と性格に難があるせいで民間に売り払われた。そして無駄に強い馬体を活かして競走馬となったまでは良かったのだが、騎手の言うことを聞かない上に他の馬に対して絡みすぎるせいでなかなか上位に上がれず……まぁ、ダメダメな馬だったわけだ。

「しょうがないだろぉ! この冬でダブルヒットを潰そうなんて話を聞いちまったらよぉ!? そんなのもう買い取ってやるしかねえだろぉ!?」

「お前なー……生き物をそんな簡単に引き取るんじゃありませんよ!」

「またアレクトラみたいなこと言った!」

「そもそもだな、元々の馬主だって手放したくて手放したわけじゃないだろうよ……レースで結果を出せない、しかも大食らいな馬なんだろ? そりゃいつまでも置いておくわけにもいかねえだろうさ……」

かわいそうだが、馬という生き物は決して飼いやすい生き物ではない。めちゃくちゃ手間も金もかかる動物なのだ。それは農業国家ハルペリアであっても変わらない。特に冬場は厳しい。飼料代も嵩むし、肉にしちまった方がマシだと判断されれば容赦なく……ってやつだ。

「……久々に大勝ちしたらよ……ちょうど、ダブルヒットの噂が耳に入ってな……まぁでも、このクラスの馬にしちゃ随分と安かったんだぜ。だから買えたんだ……」

「買った後が問題だろうよ……どうするんだ。この馬房に預け続けるのも結構な金がかかるんだろ?」

「そこはな、パーティーの皆に相談して金を出し合うことになった……まぁ、金を取るのは一部からだがよ」

「あ、一応パーティーメンバーも前向きには考えてくれてるわけね」

なんだ。バルガーの独断で馬を買って、メンバー全員反対してる状況かと思ったわ。

深刻そうな顔で“モングレル、話したいことがある……”とか言ってここまで連れてこられたから何事かと思ったが……案外話としては纏まってるわけね。

「ディックバルトさんもな、“任務の幅が広がるのであれば――試してみる価値はあるだろう”って前向きだったんだぜ」

「団長が真っ当に任務のことを語ってるだけなのに頭の中で結びつかねえな……」

「アレクトラは……まぁ突然馬持っていったからすげぇ怒られたけど、色々とダブルヒットの使い方について考えてくれてるんだ。飼料の仕入れとかも調べてくれてな……」

「本当に働き者だなあいつ……」

「頭が上がんねえよ。……ま、それでどうにかこうにか……冬を乗り越えたら、本格的に使ってみようってなってな。だからこの冬の間に、俺等に慣れてもらったり、訓練したり……ってわけだ」

「なるほどね。逆に考えて冬だからこそ都合が良いかもってわけか」

しかし“収穫の剣”が馬を仕入れるとはなぁ。

確かに機動力はあるし運搬力も上がるが……誰がどうこいつを乗りこなすのやら。

「ちょっとばかし乗ってみるか。ほれ、モングレル」

「え? いや俺乗馬は……」

「違う違う、俺が乗るからお前この手綱引いててくれ」

「そっちかよ」

「お前力強いだろ。ダブルヒットが暴れたりした時は頼むな」

馬を抑えるために俺は呼ばれたのか……? まぁいいけどさ。

「ブルルッ……」

「よぉーしよしよし、今日もよく食ったなぁ……ちと歩き回ってみるか、ダブルヒット」

ダブルヒットは癖の強い馬だが、腐っても人を上に乗せて走っていた競走馬である。

ある程度人には慣れているし、乗せることに対する抵抗もない。バルガーくらいの男を背中に乗せても全く小揺るぎもしない頑強さもなかなか良いな。ギルドマンの飼う馬としては結構当たりなのかもしれない。

「ほ、ほ、ほっ……どうだモングレル、ちゃんと歩いてるぞ!」

「おーおー、馬上の人だなバルガー。どうだそこからの景色は」

「高くてこえー……あ、こらこら、落ち着け! 急ぐな! ……そうだ、よーしよしよし……」

しかし時々走り出そうとしたり、なかなか騎手の言うことを聞かなかったりと目に見える問題は多そうだ。

棹立ちにならないだけまだマシなんだろうか? 傍から見ててちょっとヒヤヒヤするな。

「……それで、こいつをな。慣れてきたら、信用できる相手に貸し出すくらいのことはしても良いんじゃないかって話にもなったんだよ」

「貸し出しか、へぇー」

「モングレルもどうだ、たまには馬に乗ってみろよ。ケツが痛いぞー」

「ケツが痛いのは嫌だけど、興味はあるな……値段によっては考えるかもな」

一度この世界を馬で遠乗りっていうか……チョイ乗りくらいはしてみたかったからな。

こう、愛馬に跨がって走って……馬と一緒に野営してみたいな感じでな。

まぁこの癖の強そうな馬と一緒にってのは嫌だが、軽くレゴール近辺を乗り回すくらいはちょっとやってみたい。

「けどそもそもこのダブルヒット、人に貸せるほど大人しくねえだろ?」

「そこなんだけどな。俺らのパーティーのジェローラモが馬の扱いが上手くてよ。そいつに任せると随分と大人しくなるんだこれが」

「ああ、あのちょっと引くレベルで動物の鳴き真似が上手いあいつか」

「そうそう。結構詳しくてな……このまま言うことを聞いてくれるようになれば、まだまだ走れるわけだ。なー? ダブルヒット」

「ブルルルッ」

ダブルヒットは返事っぽい鼻息とともに尻から馬糞をボロリとこぼしていた。

馬糞めっちゃホカホカしてる。

「あっこら! ダブルヒット! そこに生えてる木は植えてあるやつだから! 食っちゃいかん! いかんぞダブルヒット!」

「ブルルッ」

「……何か事故起こして潰される前に、ちゃんと手懐けられると良いな……」

とりあえず俺が乗っても大丈夫になったら呼んでくれ。そうしたら半日くらいレンタルするかもしれんから……。