軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

居酒屋の鎮圧騒動

「それでよ、インブリウムを舞台にしたボードゲームは護衛任務用の大回りするマス目があってな。そいつがまた長いもんだから退屈ったらないんだわ」

「ははは、そいつは作った奴の失敗だな」

「マットの作りは高級感あるんだぜ? けど肝心のゲームがちと退屈なのがな。やっぱりバロアソンヌの方が出来は良いんだよ」

その日の夕暮れ、俺は森の恵み亭のカウンター席でバルガーやロイドさんたちと一緒に飲んでいた。

解体処理場でいつも忙しそうにしているロイドさんはこの時期になると暇になるので、ちょくちょくこうして顔を合わせて飲むことも多い。そして意外なのが、ロイドさんも既にバロアソンヌで遊んでいるらしい。よそのボードゲームを楽しんでいるバルガーの話にもしっかりついてこれている辺り、結構はまっているのかもしれない。

「王都の連中は小綺麗なレザーで作りやがる。ありゃカエディアの革だな。そのわりに作るものがバロアソンヌの真似っ子ってんだから笑っちまうよ」

「見た目は綺麗なんだけどなぁ。駒もしっかり作ってて高級感あるんだよ」

「この手のゲームはテストプレイが大事だからな……」

「聞いた話じゃモングレルもバロアソンヌ作るのに携わったんだろ?」

「いやー、俺なんて些細なもんだぜロイドさん。確かにルール考えたりもしたけどさ、俺の考えた二十枚くらい書き留めといたやつ、ほぼ全部ナシになったからな」

「あっはっは、えげつねぇ」

「そいつぁ派手に却下されたもんだな……クックック」

とまぁ、そんな風になんてことない話をしていたわけなんだけども。

「失礼」

そんなどうってことない酒場の入り口をくぐる、非日常な風貌の人間がいた。

粗目のローブに黄色の仮面。

あれはハルペリアの特殊騎兵部隊、月下の死神の――。

「“ 開花せよ(ザイン) 、(・) 暗がりの罪業(ブリューメ) ”」

「ぐぉッ!?」

「うわっ」

「ひいいいっ」

「なんだ!?」

“月下の死神”が唱えた短い詠唱と共に、テーブル席の一つから漆黒の炎が吹き上がる。

黒い火炎は意志を持つように一人の中年男に絡みつき、そのまま床に叩き伏せた。

狭い酒場で突然のおっかない魔法行使に誰もが驚いている。

バルガーやロイドさんも腰を半分浮かせ、今更刃物の柄に手を置いているくらいだ。かく言う俺も二人と大して変わらない。無意味にフォークを握って構えようとしてる間抜けな姿を晒してるだけだ。俺の辞書に常在戦場なんて言葉はなかった。

「闇魔法による暗号文書……あまりに稚拙な出来栄えに溜め息を抑えられませんでした。手に取るだけで内容が筒抜けなのでは、機密も何もないでしょう」

「ぐっ……は、離せ……!」

「解放されたいと仰る。おお、ならばこれより正直にお話されるべきでしょう。そうでなくば、死よりも辛い苦しみが待っていましょうから……」

月下の死神は全員が同じローブ、同じ仮面を被っている。

だからそれぞれ、どれが何者なのかなんてのはわからないようになっているのだが……こうも饒舌に、気障ったらしい身振りを交えて話すような奴が大勢いるとも思えない。

多分こいつは前に見たことがあるぞ。“呪い師”エドヴァルドだろ。アーレントさんに魔力を抑制する腕輪を装着した魔法使いだ。

「おっと……皆々様、ご歓談中のところお騒がせ致しました。それでは……」

「ぐっ」

闇の煙に包み込まれた中年男が不自然に立ち上がると、そのままエドヴァルドと一緒に気障ったらしい礼のポーズを取らされていた。

顔は未だに苦渋で満ちているが、そこに半分くらい“なんなんだこいつ”という困惑が混じっていそうな気がする。

結局、騒動を起こした二人はそのまま自らの足で森の恵み亭を後にしたのであった。

「……うちは“ご歓談”なんて店じゃねえけどな」

静まり返った店内に親父さんのぼやきが聞こえ、誰かの笑い声とともにそれを皮切りにまた賑やかな雰囲気が戻ってきた。

「……まさか酒場の中で死神の捕り物が見れるとはな。俺もこの街に居て長いが、初めてだ」

「俺だって初めてだぜロイドさん。……しかしなんだったんだ? 今の……いやぁびっくりした」

バルガーは驚きで醒めた酔いを取り戻すようにグッと酒を呷った。

「ちらっと聞こえた話だと、なんだ。犯罪者同士で手紙のやり取りをしていたらしいな。犯罪組織か何か……かねぇ」

「俺が聞いた話じゃ、サングレールのスパイがいるって話だぜ。最近北門側で捕まったってよ。それと同じような奴じゃないか」

「レゴールまで来て何をしようってんだか……」

俺は別にこの国の暗部とかそういうのに関わっているわけではないので、そこらへんの事情が全くわからねえんだよな。別に知りたくもないが……。

「モングレルも気をつけろよ。最近また風当たりが強くなってきたからな」

「心配性だな、バルガー。俺の気を付けっぷりは既にハルペリアで一番だぞ」

「……まぁお前は心配するだけ無駄か」

これまでもサングレールの人間がこっそりとやってきて悪さを働くということはあった。

ハルペリアとサングレールは地続きだ。両国が高い壁や溝で隔たれているわけでもないからな。気付かれずに侵入するなんてことはそう難しくもないので、工作員やスパイが侵入して来て見つかるなんてことも珍しくはない。いがみ合っている国同士だ。嫌がらせに破壊工作しにやってくる奴なんてのも余裕でいる。まあ、レゴールでその手の人間が出現するなんてのはさすがにレアだけどな。

サングレールの人間が悪さをすると目立つものだ。その度に俺みたいなハーフも白い目で見られてしまう。しかしこればかりは仕方ない。人も大勢いればそんな奴もいるだろうしな。問答無用でリンチされなければ問題ないと思っておくのが一番だ。

「しかし、闇魔法か? 今の。俺って魔法っていうと水魔法が一番便利だと思ってたけど、闇魔法もなんか便利そうだよな。侵食したり、操ったり? いや、具体的に何ができるのかは知らねえけど……」

「俺のいる“収穫の剣”は魔法使いが全然いねぇからなぁ……ロイドさんは昔ギルドマンだったろ。闇魔法使いってどういうことができるんだい?」

「ああ? 闇魔法なんてそう便利なもんじゃねえだろ。さっきの死神が異常なだけだぞ」

「あれ、そうなの。光魔法と同じくらい強いと思ってたぜ」

「光魔法だってある程度まで修練を積まないと同じだ。一般的にはそう大したもんじゃねえ。……ああ、“若木の杖”のサリーか。あれは奴がおかしいだけだぞ」

「おかしいのは知ってるが……」

闇魔法も光魔法も超強いってイメージあったんだけどな。人によるってやつか……。

「大抵は靄で相手の視界を封じて行動不能にするくらいのもんだ。それはそれで強いんだがな。さっきの死神がやってたような、闇魔法で相手を叩き伏せるなんて芸当は王都の魔法使いでもどれだけできるか……」

「魔法使いが魔物や賊と向き合って戦うなんてそうはねぇからなぁ。連中としても、魔法で街の役に立った方がずっと儲かるだろうしな。“収穫の剣”に前いた魔法使いもそれで辞めちまったよ」

「二人とも夢がないな……魔法使いってのは魔法を使ってかっこよく魔物を討伐しまくるもんだぜ」

「モングレル、お前子供向けの本読みすぎ」

「ハッハッハ……」

いやまぁね。俺だってわかるよ。魔法使いは討伐なんかしなくたって食っていけるってのは。

そんなリスクを踏むよりも街中の適当な魔法使い向け任務をやっていった方が安定するしな。なんだったらそっちのが儲かるしな。

けどよ……魔法で戦わないと魔法使いって感じがあんましないじゃん……?

「ギルドマンはスキルのために魔物を倒す必要があるが、魔法使いは別に魔物を倒して魔法を覚えているわけでもねえからな。連中は塔に籠もって研究と自己鍛錬をしてるだけで十分なんだろ。ギルドマンなんてやってるのは一部の物好きだけだ」

「俺だったら剣で魔物をバッサバッサと斬りながら、離れた相手には魔法で……みたいな魔法剣士を目指したいもんだけどなぁ」

「モングレル、てめーはまず魔法を覚えてからそういうこと言えよ」

魔法も魔物とか討伐してるうちに習得できるシステムにしてくれねぇかな……無理か……。