軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不便の楽しみ方

「揚げてあるものって美味しいよねー」

「うん、そうだね。獣脂を贅沢に使った料理だから毎日はとても無理だけど、こういうのんびりとした日だったら……結構良いよね」

メンチカツっぽい何かはウルリカとレオに好評だった。ただ、それも物凄い好評ってほどでもない。それはもはやこういった揚げ物料理がレゴールでは特別ではなくなったせいだろう。

今やこの料理も、数ある揚げ物料理の一つに過ぎなくなった。なんなら最近ブームがきてるせいで、若干飽きているかもしれない。いやそれはないか。二人とも普通に美味そうに食ってるし。揚げ物は無限に食えるよな。特に若い頃は……。

「二人ともどうだ、冬のキャンプは……良いもんだろう……?」

「んー……まぁ、ゆったりした野営……?」

「狩りとか大きな目標もなしに寒い中でやる野営っていうと、やっぱりちょっと変わってるよね」

「おいおいここまで過ごしといてそんな感想かよ。このな、都会の喧騒を離れて自然の中でゆったりと過ごす時間……これが良いんだろうが」

「……モングレルさんってひょっとして人が嫌いなのー?」

「嫌いってことはない。そういう話じゃないんだぜ。なぁわかるだろレオ」

「あはは……ごめん、どっちかというと僕もウルリカ寄り」

おいおい。やっぱり冬キャンの良さは伝わらないか。……普段やってるようなことをわざわざしんどい環境でやるだけ。まあそう言われたらそりゃそうなんだけどさ。

けど少しくらいはわかってくれるかなと思ってたんだがな……生まれ育った環境の違いかねぇ、こればかりは。

「冬の野営の良さは他にもだな……ほら、魔物が出ないから酒だって飲めるぞ。今日はビールとウイスキーを持ってきてんだ。あ、ビールはさっき使ったから少ししかないけどな。二人ともどうだ?」

「あ、ちょうど飲みたいなーって思ってたとこ! 私ビールもらっていい?」

「じゃあ僕は……ウイスキー分けてもらっても良いのかな」

「構わんよ。小さいボトルだからチビチビな」

魔物がほぼ居ないのを良いことに晩酌に興じられるのも、この季節のバロアの森ならではだな。もちろん、酒を入れるからには念には念をで魔物除けのお香を焚きながらだが……。

「あー……ストーブの近くあったかーい……」

残り少ないビールを飲みながら、ウルリカがラグマットの上でだらけている。

揚げ物食いつつ寝っ転がりながらビールを飲むなんて、俺の前世でもそうそうできることじゃねえな。

「……ん、やっぱり強いお酒だね、ウイスキーって。喉が熱くなってくる」

「それが良いんだよな。聞いた話じゃ、遠征する人らの間で重宝されているらしいぜ。これまでの酒と違って炭酸……泡が出ないし持ち運びやすいからな」

「お酒のみは世界中にいるんだねー……レオはそうなったら駄目だよ。ビルギムさんみたいになっちゃうからね」

「あはは! 懐かしい……それは嫌だなぁ。でも大丈夫、僕はそんなに飲むタイプじゃないよ」

薪ストーブの天板の上でクルミを煎る。これがまた良いつまみになってくれるのだ。

「レオもそっちじゃなくてこっちの天幕の下に来ようよー。温かいよ?」

「僕のとこも焚き火があるけど……あ、本当だ。この中すごいね」

「テントが熱をある程度閉じ込めてくれるからな。焚き火の真ん前も温かいが、テントのそばにストーブを引き込む方が段違いだ。ほら、ここの真ん中あたりで立ってみ」

「えー? ……うわっ! なにこれ、顔熱い!」

「本当だ! ここだけ夏みたいな暑さしてる……!」

温かい空気は上に昇っていくので、三角テントの上の方に溜まりやすい。立ち上がると顔だけホカホカしてくるぞ。

どうせなら足元の方が良いんだけどな。床暖房はそう簡単に作れるものじゃねえんだ……。

「これあれ思い出すなー……サウナ! ルス村に行った時に入ったサウナは貸し切りで寂しかったけど!」

「あー、あの煤けたサウナか」

「モングレルさんも知ってるんだ? そうそう、前にパーティーで入ったんだよねー。レゴールのサウナよりも綺麗で」

「レゴールのはな……」

「ウルリカ、普段はレゴールのサウナとかは入ってないんだよね?」

「入らない入らない。クランハウスにお風呂あるし」

サウナか……俺としてはサウナに入っても風呂と同等の清潔感は得られないと思っているが、レゴールの汚い共同浴場に入るくらいならサウナの方がまだマシだと思っている。共同浴場の数も増えたそうだが、その辺りの公衆衛生に変革が起きているわけでもないので二号店にいくつもりはない。

汚さでいえばサウナも……それにゴミゴミしてるから好きじゃねえんだよな。

けど、そうか。サウナだったらこういう冬キャンでも手軽にやれるか……。

わざわざ穴を掘って露天風呂を用意する必要なんてない。このテントみたいな感じに幕をしっかり張って、大きめの焼石をたくさん用意してテントの中で水をかけてやればいい。それだけで即席のサウナができる。

今度一人で冬キャンやるとき試してみるか。……あれ? でも前にやった記憶があるな。その時はなんだったか……あー、テントの中に直接火を引き込んだせいで危うく一酸化炭素中毒で死にそうになったんだった。そうだわ思い出したわ。それでやらなくなったんだ。

「ふぁあ……お酒飲んだら眠い……」

「相変わらず酒に弱いなウルリカは」

「ふふ。けど、僕も眠くなってきたよ。やることもないなら……僕もそろそろ眠っちゃおうかな。……この中で良いんだよね? モングレルさん」

「なんだなんだ、若い連中は揃いも揃っておねむか。ああ、中で寝て良いぞ。俺はしばらく起きてるからな」

表の焚き火にデカめの木を並べつつ、そっちはもう放置。

あとはこっちの薪ストーブに薪をちょくちょく足して、じっくり熱を保っていけば良いだろう。

テントの中に敷いたラグマットの中で、ウルリカとレオが横になっている。それを尻目に、俺は薪ストーブの投入口に見える赤い熱源をじっと見つめた。

焚き火の揺らめく炎を見るのも癒やされるが、ストーブの中で安定した炎を眺めているのも嫌いじゃない。こっちはより地味だが、なんだろうな。文明を感じるからだろうかね。こうして夜闇の中にテントを張り、自作の薪ストーブの炎を眺めていると……まるで自分の家でも持ったかのような気分になれるんだ。

まぁ今は俺の家に若者が二人寝転がっているが。

「さて、俺もそろそろ寝るか……」

バスタードソードをテント入り口のわかりやすい場所に置いて、俺も眠りについたのだった。

何度か起きながら、ぼんやりした意識の中で薪を継ぎ足した。おかげでテントの中が寒いなんてことにもならず、俺たちはどうにか冬の朝を迎えることができた。

「うーっ……外出たくなーい……」

「朝は冷えるね……」

「よーしお前ら、俺が月見サンド作ってやるぞ月見サンド。残ったパン全部使い切って荷物軽くするからな」

「モングレルさんは不思議なくらい生き生きしてるけどアレなんなんだろうね? 冬キャンプってそんなに楽しいかなー……?」

「聞こえてるぞ! お前らも手伝え!」

「はーい……でも先に顔洗わせて」

「僕も」

クッソ冷える冬の朝。暖かなテントから動きたくない葛藤を振り切って動き出せば、身体も次第に覚醒してくれる。

朝食は薄切りにしたパンに目玉焼きと肉を挟んだ月見サンドだ。意外なことに、この目玉焼きを月に形容する文化がハルペリアには存在する。月見バーガーが通じるのである。逆に、お隣のサングレールでは目玉焼きを太陽に形容したりするわけだが……目玉焼きも大変だわな。月にされたり太陽にされたりで大忙しだ。

「ほれ、温かいうちに食っちまえ」

「わー……美味しそう……うん、美味しい! 卵をまるごと使って贅沢で、こう、お肉も美味しくてね……」

「普段は遠征してても卵なんて持ち歩かないから、野営で食べるのは新鮮だよね。モングレルさんはこの卵、どうやって運んできたの? 割れなかった?」

「そこはほらお前、こういう専用の卵ケースに入れてくるんだよ」

「うわっ!? あはは! モングレルさんって本当に変なの作るよね! いや凄いけどさ!」

「準備がとってもマメだよね。だからそんなに大荷物なんだね」

「俺としたらどこに遠征に行くにしてもこういうセットは持ち歩きたいんだけどな」

「そんなに重いと馬車も嫌がるよー」

「そうなんだよなぁ」

駄弁りながらのんびり朝飯を食って、お茶を飲んで、撤収作業をして。そうして荷物をまとめると、俺たちはレゴールの街へと帰っていった。

結局ウルリカとレオの二人に冬キャンの良さは伝えきれなかった感があるが……まぁまぁ、何度かやっていくうちに次第にわかってくるさ……お前らも男の子なんだからな……。