軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冬入りの兆し

バロアの森での伐採作業が盛んに行われている。

建材需要、燃料需要……レゴールでの木材需要は尽きる兆しが見られない。

しかしそれに応じて作業者もドンと増やしたし、伐採ポイントも数年前と比べるとほぼ倍増している。毎年カツカツだったが、今年はようやく供給の方が安定しつつあるって感じだな。

おかげで俺たちギルドマンの仕事も多くて助かっている。伐採関係の護衛や間引きの討伐はほぼ常駐依頼だ。ブロンズ以上なら護衛の仕事で困ることはないし、アイアンはアイアンでやれる作業も多い。冬になってくると仕事が少なくなるのが俺たちギルドマンだが、今年は真面目にコツコツ働いてる奴に限っては身を持ち崩すことはないだろう。

「もう狩猟シーズンも終わりか……俺ももうちっと討伐やっときゃ良かったなぁ……まだ探せばいないもんかね?」

「んーどうだろー。最近は明らかに魔物が減ってるからねー、割に合わないかもだよー」

「足跡も古いのばかりだったね……僕らはもう春になるまで控えようかと思っているよ」

今日、バロアの森を適当に討伐でもやるかーって感じで潜った俺だったが、あえなく不猟で終わった。

帰りがけの馬車で偶然一緒になったウルリカとレオも同じようで、手応えの無さを感じてさっさと帰る事にしたようだ。まぁそれでも俺とは違って何羽か鳥を仕留めてきたらしいから、全くのボウズってわけでもないんだが。器用な奴らだ。

「モングレルさんはさー、この冬はどう過ごすの?」

「冬? いつも通りだよ。仕事はレゴール内の軽めのやつにして、後はたまーにバロアの森で野営するくらいだな」

「……森で野営? 冬のバロアの森で何かあるの?」

「モングレルさんは冬に野営するのが好きらしいよー? 変態だよね」

「野営は男のロマンだぞ。お前らもやってみりゃわかるさ……」

「さすがに危ないから僕はやりたくないなぁ……」

まぁ凍死の危険があるからな。生半可な装備でやるもんではないだろう。

俺の場合は衣類も野営道具もしっかりしたのを整えているからなんとか寒い冬でも過ごせるが、この世界の一般的な野営道具だとほとんど夏物レベルだからな……。

けど、冬場にバロアの森で野営する奴が完全に全くいないってわけでもない。

路頭に迷った奴だとか、脛に傷のある賊だとか……そういった連中が森に潜み、なんとか越冬しようと頑張ってることも、まぁあるわけだ。だいたいそういう連中は凍死してるけどな。森の中で食える物が少ないから厳しいんだわ。

と、そんなことを話している間に馬車がレゴールに到着した。

……次にバロアの森に潜る時はキャンプになるだろうなぁ……寂しくなるぜ。

「……モングレルさんがそこまで良いって言うなら、私はちょっとだけ冬の野営っていうのもやってみたいかなー」

「ええ? 危ないよウルリカ」

「お、冬キャンか? 冬キャンは良いぞ。お前らも一度やってみるか」

「狩りとかは全然しないんでしょ? やることなさそーだけどちょっと興味ある!」

「じゃあ雪のない時に一度やってみっか。レオも良かったら来いよ。男の世界だぞ」

「……妙に押しが強いなぁ……うーん、そこまで言うならじゃあ僕も一度だけ……」

よし、冬キャンの予定が一つできたな。

まぁ俺は俺で一人でやりたい奥地のキャンプもあるから、それとは別口でやることにしよう。

この冬キャン、知り合いを誘っても誰も来てくれねえからな……俺が冬キャンの良さって奴を教えてやるよ……。

「目は……5! よし、ようやく武器屋マスだ。剣を二本買っておくぜ」

「あー先に買われた……いや、だったら看板で森ルート封じとくしかないな」

「宝箱来い宝箱来い……くっそー3か! いやけど薬草畑に停まった! ポーションは貰える!」

ギルドに戻ってくると、バロアソンヌに興じているテーブルが一つあった。

テーブルの上にプレイマットを広げ、だらだらと酒を飲みながらダイスを振り、駒を進めている。

近頃はこんな光景もギルドの日常として溶け込みつつある。複数人で出来るゲーム性の高い遊びは中毒性があるようで、中には任務の受注のペースを落としてまではまり込むような物好きもいるそうだ。まぁ、娯楽の少ない世界だからなぁ。こういうものに熱中する気持ちはよくわかるぜ。

「くっそー、暖炉の近くは全部取られてるな」

「あはは、向こうの席は早いもの勝ちだからね。いいよ、こっち側のテーブル空いてるからそこに座ろう」

「しょうがねーな」

「ん? おーいなんだよ、そっちにウルリカちゃんいるならウルリカちゃんだけこっち来て座って良いぞ! モングレルとレオは来なくていいからな!」

「絶対に行きませーん」

「野郎どもめ……暖炉前を占領しておきながらお貴族様気分かよ」

調子の良い酔っ払いを適当にあしらいつつ、酒とつまみを注文して反省会が始まる。

仕事上がりは大体、最初の方は反省会になる。まぁ愚痴みたいなもんだ。

「魔物が減る予兆は私達でも掴みにくいからねー……ちょっと居ないかなーって思っても、明日になれば戻ってることもあるし……けど今回のはそれとはちょっと違ったかなー」

「うん、一斉に気配が薄れた感じがするよね。多分冬入りってことなんだと思う」

「やっぱりそうなるかー……罠猟でも掛からんもんなのかね」

「罠猟の区画も毎年似たような感じかなー。気温変化に鈍い魔物もいくらかいるけど、そういうのはあんまり旨味の無い獲物だし……」

「ゴブリンなんかはまさにそれだな。でもゴブリン狩ってもなぁ」

「人型の標的を射る心構えを培う訓練としては良いってシーナ団長言ってたけどねー、昔からやってきたからそうなのかなーって感じがするなー私は」

酒飲んで飯食って駄弁る。森の恵み亭で飲み食いした方が安くは上がるが、どうも寒い時期になってくると暖かなギルドでやりたくなるね。

全く、冬は浪費の季節だぜ……。

「人型相手か……できれば、あまり相手にしたくはないね」

「まーねー……仕事だったらやるけどさ」

「二人は人間を殺したことはあるか? まぁ“アルテミス”だったらあるか」

「うん、護衛とか戦争の時とかもあるしねー。普通にあるよー」

「僕もまぁ、何人か……気持ちの良いものではないよね」

ちょっとでも長くギルドマンなんてやっていると、人を殺す機会っていうのは必ず巡ってくる。

俺なんかは賊相手に舐めプして生きたまま捕まえる事がほとんどだからレゴール近辺では滅多に殺しはやらないが、そんなことができるのも全て圧倒的な力があってこそだ。

普通の奴にそんな余裕はないので、不届き者は殺すしかない。賊の討伐だとか凶悪犯相手の対人任務となると、それはより顕著になる。

「剣は直に殺してるって感じも強いからな。ショートソードだと特にキツいだろ、レオは」

「キツいね……最初のうちは手が震えたし、吐いたりしちゃったよ。今はもう慣れたけど」

「モングレルさんはー……あまりそういう話聞いたことないけど、やっぱあるよね……?」

「あるぜ」

賊相手だったら、生かしてしょっぴいてやるけどな。

侵略者は潰す。見つけ次第必ず潰す。

だがあれは人か? 人じゃないならカウントできないが……まぁ、一応あれでも人か。

潰した数は……どれくらいなんだろうな? 取得したスキル四つが全部ギフト絡みな辺り、今までの魔物討伐数より遥かに多いのだけは間違いないが……。

「……この話やめよっか」

「そ、そうだね。やめておこう」

ちょっと考え込んでいたらしい。いかんいかん、思考が物騒になってた。これは良くない。

「ああ悪いな、ちょっと血なまぐさい話になっちまった。……今日何も獲ってないくせにな」

「えへへ、私達は獲れたからー」

「ちっ、弓使いはこういう時便利だよなぁ」

「モングレルさんも前に弓教えた時からちゃんと練習してれば今頃普通に使えてたよー……」

「たまに思い出すように使ってはいるんだけどな……」

「思い出すくらいの頻度で使っても上手くはならないよ」

聞いた所によれば、レオもちょっと弓を扱えるらしい。

初耳だわ。多分……というか絶対に俺よりも上手いんだろうな……。

「だぁー! なんでお前ばっか宝箱取っちまうんだ!」

「グヘヘヘ、ありがとよ皆。コイツは俺の飲み代にさせてもらうぜ」

「集中狙いしてやろうぜ」

「あっ、それは駄目だろ!」

酒場に賑やかな声が響き、美味そうな料理の香りが漂ってくる。

これからもっと寒くなってくると、暖を求めるギルドマンの姿もより増えてくるだろう。

そうなるとこいつらのやってるバロアソンヌのようなボードゲームも、一度に三卓くらいは開帳しそうだな。

ギルドに丸投げしたバロアソンヌの量産はすげぇ軌道に乗っているらしく、今やこのギルドだけでなく一般向けの酒場なんかでも置かれているようだ。雪が降る前にレゴール以外の領地にも大量出荷する予定らしく、製造に携わっている工房は大慌てだって話を聞いている。

「……私達もやろっか、バロアソンヌ!」

「良いね、僕もちょうど提案しようと思ってた」

「しょうがねえな……制作者には勝てねえってことをお前らに教えてやるよ」

「モングレルさんこういう遊び強いって印象ないんだよねー」

「フフッ」

「おじさんのこと本気で怒らせちゃったねぇ……」

わからせてやるよ、ボドゲ慣れした大人の全力ってやつをな。

結果から言うと、俺は二位だった。一位はレオである。

コメントに困るわ。