軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先進的な木箱

森の討伐にはまだ入れない。

クランハウスの工事もできない。

じゃあギルドに行くこともねーかってことで、俺はレゴールの街中をうろついていた。

最近できたとかいう糸屋に立ち寄ってみたり。揚げ物やってる店をちょっと覗いて何本か食ってみたり。マーゴット婆さんの飼ってる犬に吠えられて逃げたり。

まぁ普段通りの散歩日和だ。風呂入ったスッキリ感がまだ持続してるから、何をやっても面白いもんである。いや犬に吠えられたのは何も面白くないな。あの犬は躾のなってない馬鹿犬だ。いつも俺に吠えてくる。多分飼い主に似たんだろうな。

「うぃーっす、暇だから遊びに来たぜー」

「あー? モングレルかよ。客じゃねえなら帰ってくれー。今忙しいんだー」

どことなく関西人みたいなやりとりをしながら、俺は知り合いの工房にやってきた。

ここは箱屋である。色々な木箱を作っている工房で、メインとしては大型の箱を作るところだ。交易品とかを収納する箱とかだな。古い箱を解体して、そこから新しいのを再生したりだとか、そんな修理もやっている。

「箱屋に忙しいなんてあるのかよウェビン」

「あるって。最近色々と新しいこと始めたせいで大変なんだ」

工房の入り口辺りで木くずを散らしながらギコギコと板材を切っているこいつは、ウェビンという。二十過ぎたばかりの男だが、つい最近親父さんが亡くなったために若くして家業を継いだという、ちょっと大変な奴である。

それまでのウェビンは時々仕事をやりつつ半分くらいは外で遊んでいるようなやる気の薄い奴だったのだが、いざ自分が継ぐとなるとそれなりに真面目にやり始めた。

が、親父さんが請け負っていた仕事の何割かはできなくなってしまったし、得意先も何個か消えたせいで経営はちょっと大変らしい。

本来なら古い木箱の再生なんて儲からない仕事はやりたくないだろうに。

「新しいことってのは、その中古の箱の作り直しか?」

「そうだよ。木材がちょっと値上がりしたせいでな。古いやつから作ったほうが早いんだ。俺だってその方が苦手な工程を省けて楽だし」

「ふーん、でも新しい物作った方が高く売れるんだろ?」

「うるせぇなぁ。わかってんだそんなこと。俺だってそうしたいけどな、得意先が少なくなったせいで上手いこと売れないんだよ。倉庫にかさばる箱置いててもしょうがないだろ」

「確かに」

「というか見てるだけかよ。俺の工房に客以外のつもりで入ったならちょっとは手伝え。ほら、そこの木くずまとめてあっちの箱入れろよ」

「おいおい人使い荒いなこの店は。まぁ良いけど」

たまに一緒に飲んだりするし、小さい木片を譲ってもらうこともある仲だ。

掃除くらいの軽作業なら手伝ってやるか。……あ、この欠片結構使いやすそうな形してるじゃん。これ後で貰えないかどうか訊いてみよ。

「最近どうだーモングレル。ギルドマンは忙しいだろー。ほら、バロアの森のあれとか」

「あーあれな。あれは忙しかったよ。俺は荷物運びばっかりだったけどな」

「なんだ、討伐しに行かなかったのか?」

「ブロンズランクだからじゃねえの? けど荷運びは荷運びでしんどかったぜ。俺は得意だから良いんだけどよ」

「力だけはあるもんな」

「あ、荷運びといえば」

俺は掃除の手を止め、近くに重ねて置いてある木箱を取った。

「最近この手の木箱でよ、積み重ねやすい設計になったもんが開発されたらしいぞ。例のケイオス卿の発明ってやつで。全部同じ規格になっててな、積み重ねた時にズレにくいようになってるんだ。これからは交易なんかでもその手の箱が流通するかもな」

「お!? マジか……でもうちにケイオス卿の手紙は来てないからなぁ」

「いや、伯爵に直接来た手紙のやつらしいぞ。ウェビンお前広場の張り紙見てないのか? 伯爵が直々に“この設計の箱による取り扱いを推奨する”って出してるんだ。簡単な設計図もあるぞ」

「……知らなかった。本当かよ」

「なんだなんだ、ウェビンは物を知らねえなぁ」

「うるせえ。……伯爵が主導してるなら、これからはそれが主流になるかもしれないな。まだ周りは尻込みしてんのか……?」

「俺は詳しいことは知らねえよ。けど、いきなり全部変えてくれって言われても今まで通りやってたところは大変だろうな」

その点、ウェビンのような小さな工房であれば切り替えも簡単にできるはずだ。

それに積み重ねやすい箱ならそこまで倉庫の邪魔にもならんだろう。有用性が広まればすぐ売れるようになるだろうしな。

「……ちなみにモングレル、それどんな設計だった?」

「お前なぁ、俺は別に工房の息子でもなんでもねえぞ」

「前に木材加工について色々俺に聞いてきただろ。まるきり素人じゃねえんだから嘘つくなって。ほら教えろ、こっちに描いていいから」

「客人への対応をまずは勉強してもらいたいもんだね……」

「あとでお茶出してやるから」

渋々、共通規格……になるかもしれないコンテナの大まかな設計を描いていく。

けどさすがの俺も細かい数字は覚えていない。詳しくは伯爵が公表してる設計図の数値を見てくれよな。

「ああ、そうかここを出っ張りにして……持ちやすく、重ねた時にずれないようにしてるのか」

「満足か?」

「……ああ、ありがとう。いや、いい情報を持ってきてくれたぜモングレル。正直助かるわ」

「おう。じゃあこの木片貰っても良い?」

「……いや別に良いよ。良いけどな? そのつもりでウチに来たのか? 別に良いけどさ……」

「ありがてぇ。いや、このくらいのサイズになるとわざわざ加工所でもらうのも忍びなくてな」

「うちだったら良いのかよ」

そういう感じでついでにお茶もいただき、世間話を少ししてからウェビンの店を後にした。

ちょっと頑固なところや好き嫌いも多い若い職人だが、良い仕事を掴めば後は上手くやっていけるだろう。

遊び癖がまだあまり抜けてないのはアレだけども。

「ようユースタス」

「ん、モングレルか。うちの器を見たくなったのか?」

「見ねえよ。普通に買い物だ」

「なんだ……」

「客として来た人間に取る態度かよ」

ユースタスの店に足りないものを買いに来た。

針金と、ロープと、あとは糸だな。糸屋で商品見てきたけど割高だったからやめておいたんだ。こっちで買った方が安いんでね。

「お? キャップ式の革水筒あるじゃん。しかも安い」

「ああ、便利だよそれ。最近量産できるようになってな、値段も落ちついてきた。もうただの栓しただけの水筒には戻れんなぁ」

「ケイオス卿様々ってやつか」

スクリューキャップとパッキンによる恩恵を最も受けたのは水筒だろう。

従来の栓を突っ込んだり入り口をぐるぐると複雑に縛ったりするよりもずっと楽に取り扱いができるので、幅広い人気があるという。

「ユースタスの店もでかくなったから、商品の在庫が増えて大変だろ」

「大変だよ。若い従業員はいるが、こう物が多くちゃなぁ。倉庫整理も一苦労だよ」

「俺の部屋も武器が増えたせいで大変だよ」

「モングレルの部屋と同列にされたくはないんだが……」

「なんだよ俺の部屋だって十分倉庫みたいだぜ」

「張り合うなって」

買うもの買ったらそのまま世間話だ。これはだいたい次の客が来るまで続いている。他の客を邪魔するのもあれだしね。

「ところでモングレル、花瓶はどうした? ちゃんと飾ってるか?」

「え? あー今は花とかないけど、窓際に置いてはいるぞ」

「ちゃんと花入れとけよ。あれは何色の花を入れても大丈夫だからな」

「花の長さを選ぶっていうかな……」

「その辺りはセンスだけどな。駄目だぞモングレル、日々そういう感性を磨いていかなきゃ」

いやどっちかっていうと花瓶が細長いせいで飾れる花が少ないのがどうしようもないんだが……。

「俺はレゴールで一番美意識が洗練されてる男だから良いんだよ。……あれ? ユースタスの店はまだあの木箱使ってるのか」

「ん? まだって、ああ。新しい木箱は知ってるよ。ケイオス卿が広めようとしているっていうやつだろう?」

あれ、なんだ知ってるのか。

まぁ耳の早い商人なら知っててもおかしくはないな。

「ケイオス卿が良いものだっていうなら、変えたいのはやまやまなんだがね……」

「面倒なのか」

「そりゃね。あっちに重なってるものだけ見てもわかるだろう。とんでもない数だよ」

「……天井近くまでまぁよく積み上げたもんだ……いつか崩れた時に死人が出るぞ」

「わかってはいるんだけどなぁ」

「そういうところ昔の店のままだな」

「うるさいな」

共通規格は輸送効率を上げる。が、大半の人間にとっては輸送効率なんてものはどうでも良くて、普段使い慣れている物が一番なのだ。それはわかるんだけどなー……なるべく早く広まって欲しいっていうのが俺の本心だ。

「さっきウェビンの工房に立ち寄ってな。あそこは本格的に作り始めるそうだぞ、新しいやつ」

「ウェビン……ああ、ウェルドの倅の。へえ、そうなのか」

「古い木箱の作り直しもやってるらしいから、古い箱をバラして持っていけば安値で作って貰えるんじゃねえの? 稼ぎたそうにしてたしな」

「ほー……今使ってる箱の処分を複雑に考えなくても良いのは助かるな。ふむ、ウェビンか……考えておくかな」

「頼むぜ。あいつ儲かってない時は酒場に来ないからな。少しは稼がせてやれ」

「ははは、彼が稼げるかどうかは仕事次第だけども。ま、前向きに考えておくよ」

こうしてどことなく薄い線で、ウェビンの工房とユースタスの雑貨屋が結ばれた……気がする。

良いやつがやってる店なら上手くいって欲しいからなぁ。あとはウェビンの頑張り次第になってくるが……それはまた、何ヶ月か後になってからわかることだろう。