軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

荷運びモングレルさん

まあね。ソロでやってるブロンズギルドマンの扱いなんてこんなもんですわ。

けどこうした物資の運搬みたいな仕事だって、ある程度の信用があるからこそ任されているものだ。そう考えると、ただの荷物運びもやり甲斐があるってもんよ。実際、こういう狭い場所で重い荷物を何度も往復して運ぶ仕事ってのは俺に向いてるしな。

ギルドマンっていうのはそもそも半グレというか、素行の悪い連中の代名詞みたいなものだから、こういう街規模の緊急時には色々と理由付けて外に出されることが多い。

現に今も城門からギルドマンたちがゾロゾロと外に出て、街道の警備へと向かっている。騒然とする街を抑えるのは兵士達の役目だ。そんな時に色々と騒がしいギルドマンたちは外に行ってくれるとありがたいって話だな。

下手に力を持っている勢力なだけに、街としては有事にしっかりと管理しておきたいのだろう。

「よいっしょー……とりあえず階段横のスペースに積んでおきますんで」

「おお、助かる! ってもう三箱も運んだのか、早いな!」

「超余裕っす」

さて。俺の仕事は城壁上に物資を積み上げるというものだ。

レゴールの城壁は場所にもよるが、二階建てよりちょっと高い程度のまずまずの高さの壁がずらっと続いている。対人の他、対魔物としても有用な城壁だ。城壁の上は歩くことができるし、所によっては設置型の 弩(バリスタ) を配置できるスペースも用意されている。城壁の上に登るためには、城門脇の砦にある階段を使うか、専用の原始的なエレベーターを使うかの二択になる。

城壁上に物資を上げるためには大体はエレベーターを利用するのだが、こいつがそこまで器用じゃないというか、大掛かりな割には上げ下げが遅い。何より門に併設されてる砦内の物資は階段近くの倉庫に積まれているので、エレベーターの所に持っていくよりもそのまま階段を登ったほうが早いのである。まぁ疲れるけどな。パワーさえあればそのまま運んだほうが楽だ。

「すんませーん、こっちのバリスタの弾も上に持って行っちゃって良いですかー」

「おう頼んだ! 手前側から数えて八つ奥の所まで運んでくれると助かる!」

「ういーっす」

バリスタは言うなれば、巨大な弓だ。設置して使う大掛かりな機械弓で、その威力は弓スキルに匹敵すると言っても過言ではない。引く時に結構な力はいるものの、それさえできれば素人でも強大な威力で遠距離攻撃できる兵器だ。城壁の上から安全に魔物たちを攻撃するにはベストな兵器だと言えるだろう。

大掛かりなだけあって、バリスタに用いる矢弾はデカい。とても普通の弓から打ち出せるサイズや重さではない。だからこれを一纏めにした専用の木箱はそれなりの重量だ。まぁ俺にとっちゃ軽々運べるもんだがね。

「バリスタの弾持ってきやしたー」

「おお、助かる。そこに置いてくれ。……土台の固定、もう少し強めにしてくれ。このままだと危ない」

「わかった。こっちだな?」

城壁のバリスタは今みたいな緊急時にようやく陽の目を見る兵器だが、普段から全く使わないものというわけでもない。

時々城壁の外で兵士さんたちが訓練している時なんかは、城壁上のバリスタも稼働して射撃訓練している様子が見られたりする。

……こうして城壁の上でバリスタの整備してる様子を見れるのはなかなか貴重な体験だな。

「おっと、見学してる場合じゃねえわ」

普段なかなか見れない城壁上の様子をぼんやり眺めていたかったが、今は街の緊急事態だ。キビキビ働くことにしよう。

バロアの森に近い東門側は大忙しだ。

城壁の上はバリスタや弓使い、魔法使いで固められ、厳戒態勢が整いつつある。

遠くの方では“アルテミス”や“若木の杖”の連中も働いている姿が見えた。ライナも最初こそビビっていたが、時間が経ってガチガチに固められる守りを見るうちにそれも解けてきたようだ。今ではかなり自然体で森の方を見つめていた。

「よーし、討伐するぞー、足並み揃えてなー」

「兵士達の邪魔だけはしないようにな!」

「んじゃ行ってくるぜ! 見ておけよ、俺達の勇姿!」

「さっさと進めよ、まだ後ろに部隊がいるんだぜ」

東門からはひっきりなしに正規部隊やら混成部隊やらが出動している。彼らは近隣の集落や街道へと向かい、民間人や施設を防衛するために働くことになるだろう。知り合いのギルドマンたちの多くはここから確認できる。

ああいうわかりやすく暴れる仕事も悪くないが、やってみると荷物運びもシンプルで良いな。一人で黙々と出来るってのも気楽だ。

「うお、モングレル……だったか? それ二つ持てるのか」

「ええ、力だけはあるんで。後でそっちのも運びますよ」

「そいつは助かる。見た目よりずっと怪力なんだな。良い身体強化だ」

衛兵さんからお褒めの言葉を貰うとモチベが上がるね。俺は褒められると実力も鼻も伸びるタイプだぞ。もっとペース上げちゃろ。

「モングレル、今少し時間を取れるだろうか」

「おお、ナスターシャか。どうした、何か仕事か」

「ああ」

テキパキと荷物運びに精を出していると、城門近くでナスターシャに呼び止められた。丁度貨物用エレベーターの前である。どうやら用件もこのエレベーターに関わるもののようだ。

「今私はこの昇降機の重り役を担っていてな」

「あー、上から水を注いで動かしてるのか」

「そうだ。片方に十分な量を注げば、昇降機は稼働するからな。城壁の上から不要に物や人を下ろすよりも素早く楽に動かせる」

原始的なエレベーター……昇降機は、天秤を傾けるような方法によって運用されている。片方の皿に重い荷物を載せて、片方を上まで持ち上げるやつだ。

今は下に降りたい人を降ろしつつ、城壁上に上げたい荷物を交換するような使い方をしているようだ。しかしそのペースも結構ノロノロしたもので、あまり効率はよろしくない。

それでも狭い階段を使わずとも資材を搬入できる装置ではあるので、ナスターシャのような魔法使いの手を借りてでも運用しているらしい。

「だが、どうも昇降機の下で資材の積み込みが滞っているようでな。そちらの作業を手伝ってもらえないだろうか」

「おー、そうなのか……ここの兵站長さんが良いって言うなら手伝うが……」

「モングレルか? そっちの作業をやってくれるのか! だったらその手伝いを頼む」

指示を仰ごうと思ったら通りすがりの兵站長さんが即オーケーを出してくれた。話が早くて助かるぜ。

「……じゃ、やらせてもらうわ」

「うむ」

せっかくなので昇降機を使って下まで降りる……が、前世のエレベーターのようにスーッと静かなものではない。なんかカクカク小刻みなブレーキを掛けながら減速する感じがして乗り心地はお世辞にも良いとは言えなかった。運転の下手な人の車に乗ってる時みたいな不安があるぜ……。

「うわ、これ全部昇降機の積み込み物かい?」

「おー来てくれたか。そうだ、そこにあるものを全て頼む。かさばる物も多いから、外側にはみ出ないように載せてくれ」

「ういー」

ナスターシャの言う通り、昇降機前は荷物が大渋滞していた。どうやら下の積み込み担当が持ち場を離れてどこかの応援に行ったきり、戻ってこないらしい。緊急時特有の混乱だな。

まぁしょうがない。こういうこともあるだろってことで、ひょいひょいと城壁上に運ぶ資材を昇降機に載せていく。あまりこっちを重くしすぎると上げるの大変だろうから、小分けにしなきゃいけないな。

荷物は様々だ。壺やら瓶やら布やら燃料やら……そうか、この厳戒態勢も一日くらいは続きそうだもんな。夜のための燃料も多く準備しなきゃいけないわけか。これは大変だ。

「サイクロプスが出たぞー!」

「よっしゃ、バリスタ構え! まだ撃つな! 充分に引き付けろ!」

「遠方にチャージディア確認! こっちに来るかは……不明です!」

そんな作業を続けていると、城壁の上から大声の指示が聞こえてきた。

どうやら本格的に魔物が現れだしたらしい。城壁から見える場所に姿を見せるってのはなかなか珍しいな。サンライズキマイラの咆哮にビビって遥々ここまで逃げてきたか。まあ、これだけ下準備を整えているならサイクロプス級の魔物でも問題はないだろう。

オーガクラスになると……どうだろうな。オーガなら知能もあるし、恐慌状態になっても街までは来ないか。

「なあ衛兵さん、バロアの森は大丈夫なのかい……? あの獣の恐ろしい声、かなり近くで……」

「すぐそこまで来てるなんてことはないよな……!?」

「安心してください。先程の咆哮は魔力の乗ったもので、音源はずっと遠くからです。レゴールでは数年に一度あることなので、慌てないよういつも通りにお願いします」

恐慌状態といえば、街の内部の様子もそれなりに浮ついている。

長年レゴールで暮らしている人たちはさすがにどっしりと構えている様子だが、新参者やレゴールに来て日が浅い人なんかはかなり不安がっている。

とはいえ、そういった街中の混乱はレゴールの衛兵達が抑えてくれる。今のところ暴動に発展している様子もないし、時間が経てば沈静化していくだろう。……けど西門の方から脱出しようとする人は多いだろうな。ここからはその様子も見えないが。

「レゴールの皆様! これが魔物による聖域の力です! 強大な魔物の存在こそが、我々ハルペリアの領土を守ってくれるのです!」

「こら! そこの男! 往来で何をしている!」

「聖域による完璧な断交を! サングレールとの永遠の決別を……! くっ、離せ! 私はハルペリアの未来について語っているのだぞ!?」

「拘束しろ! この非常時に面倒な奴め……」

馬車駅の方では例の“聖域派”らしき奴が政治活動している姿が見えた。男の胸元には何やら、逆ハの字の下にハの字を足したような模様のプレートが飾られている。あれが聖域派の象徴なのだろうか。

あの男はサンライズキマイラが存在感を出したのを良い機会だと考えたのか、わざわざ衛兵たちの近くで演説をぶったらしい。アホである。この忙しい時に変な活動するんじゃないよ。この国はそういう空気の読めないデモに厳しいんだぜ。

「魔物で侵攻が防げるなら苦労しねーっての……」

ぼやきながら、次なる持ち場へ移動する。

まだまだ俺の荷物運びは終わらない。……今日は夜遅くまで解放されないだろうなぁ。