軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猪突猛進な連続狩猟

他人が罠にかけたクレイジーボアを渋々といった感じで見逃した俺達だったが、そんなちょっとしたモラルの高さに対して女神が微笑んでくれたのだろうか。

前向きな兆候を掴んだのは、それからすぐのことであった。

次なる罠の設置箇所を目指して歩いていた俺達は、デカい痕跡を発見した。

それは素人に毛が生えたような斥候能力の俺ですら一瞬でわかるような、すげー目立つ痕跡だった。

「……うわー……クレイジーボアだね。すごい数だよこれ」

「泥浴びをしてたんだろうね……足跡の数もそうだけど、これ新しいよ」

ぬかるんだ地面の周囲に、無数の足跡が残っていた。

クレイジーボアの蹄だ。それも一つや二つではなく、何十とある。そのサイズも様々で、とても一匹で作り上げたものであるようには見えない。仮にこの足跡を一匹で作り上げたのだとしたら、それは泥遊びが好きすぎる特殊個体ってことになってしまう。

「ここ、昨日は通らなかった道だよな?」

「うん。寄り道ついでに今日初めて通った所だから……でもこれ、昨日や今日の足跡じゃないかなー……」

「ウルリカこっち、幹に泥を擦り付けた跡が残ってるよ」

「……んーこの乾き具合だと、今朝とかかも?」

「やっぱそうだよね」

「マジかよ。じゃあこの辺りにクレイジーボアの群れがいるかもしれねーってことか」

クレイジーボアは時折、群れることがある。まぁ同種の魔物であれば群れること自体は珍しくはない。

ゴブリンもそうだしチャージディアだってそうだ。同じ魔物が二体セットで現れるのは極々自然なことだと言っても良い。

「五体……以上かなー。この感じだと」

しかしクレイジーボアは、時々その数がドッと増えることがある。

理由は知らない。生態だろうか? デカい規模で群れていると、ギルドマンにとってはそれがチャンスでもあり、シンプルに数の暴力に晒されるというピンチでもある。勝負に出るか、逃げるか。それは個人の裁量だ。嗅覚の強い魔物だから、お香を焚いて近づかせないようにすること自体は難しくはない。

「よっしゃ。だったらこの辺りを探して全部仕留めてやろうぜ!」

「いやーそれは駄目だよモングレルさん」

「なんでだよ。いるんだろ? 近くに」

「クレイジーボアは移動するからねー、今朝の痕跡だとしても近いとは限らないんだよ。そりゃ、私だって近くにいるなら探したいけどさー」

「僕たちは罠の確認をした方が良いと思うな。もちろん、クレイジーボアの索敵もしながらね。とはいえ、数が数だから……遭遇しても真正面から戦うには危ないけど」

まぁ五体も一度に現れたら普通に危ないか。

レオは安全圏に避難することくらいは余裕だろうが、ウルリカの方がそうはいかない。スキルで一匹や二匹を仕留めきれても、続きの三体でボコボコにされてしまいそうだ。

「しょうがねえ、ちょっと警戒を厳にしながら見回りを続けるしかねえか」

「うんうん、頼りにしてるよーモングレルさん」

「ウルリカも、いつでも木に登れるようにしてね」

「はーい」

バスタードソードの鞘の位置を確認して、俺達は見回りを再開した。

五体……五体もいたらさすがにやべえな。相当気合い入れて運ばねえと……いやいや、皮算用かこれは。

獲物を見つける前から獲った後のことを考えると鬼も苦笑しそうなものだが、ここは異世界だからか、その辺りのジンクスは関係なかったらしい。

「ブゴッ」

「ゴッ、フゴッ」

ほどなくして、俺達はクレイジーボアを発見した。

「う、わ……! すっごいいる!?」

「これは……ウルリカ、樹上に避難して」

「う、うん。言われなくてもそうする……! 二人とも、お願いね!」

「任せろ。……しかし、まさか罠に掛かっていたなんてな」

なんと、ウルリカが仕掛けたくくり罠に一匹のクレイジーボアの子供が引っかかっていたのである。

しかもそれだけではない。子供が引っかかっているのをどうにか助け出そうとしているのか、同じ群れのクレイジーボアたちがその場に留まっていた。罠を壊そうと躍起になっていたり、くくり罠のある樹木を攻撃していたのか樹木がズタズタに傷つけられたりしている。もうちょっと細い木を使って罠を設置していたら壊されていたかもしれない。

「四、五……五匹か。こいつらがさっきの足跡のクレイジーボアと見て間違いないようだな」

レオの介助込みでちょっとした木の上に登ったウルリカが弓を構える。

同時に、クレイジーボア達がこちらに気付いたようだ。二匹はサイズも大きく、つがいだろうか。罠にかかった奴を含む三匹は小柄だが、充分に利用できるだけの大きさがある。牙もそれなりにデカく伸びているので、突進を受ければただではすまなさそうだ。

「モングレルさん、いける?」

「最強ギルドマン相手に何を言ってるんだ。レオ、怪我すんなよ」

「……ふふ、そっちこそ。“ 風刃剣(エアブレイド) ”、“ 風の鎧(シルフィード) ”」

レオが風系統のバフスキルを二枚掛けし、戦闘準備を整える。

自分を中心に吹き始める穏やかな風がちょっと格好良い。俺もそういう感じの爽やかなエフェクトが欲しかったぜ。

「こっちも上から援護するよー!」

ウルリカが声を上げた瞬間、クレイジーボアの群れが突っ込んできた。

その数四体。デカい二匹が前衛の俺とレオの方に別れ、その巨大な牙を向けている。

「お前はラードが多く採れそう、だなッ!」

「ゴッ……!」

猪突猛進。その大重量の突進を真正面からバスタードソードで受けてやる。

コツは、頭蓋骨の頑丈さ頼りに突っ込んできた相手の硬い額を力技の一撃で粉砕してやることだ。つまり、ゴリ押しである。

「うおおお……!」

突進と同時に脳天への致命傷。とはいえ巨体が突っ込んできたエネルギーがゼロになるわけじゃない。俺は一撃で死んだクレイジーボアの死体に押し流されながら、どうにか両足で踏ん張った。油断はしない。まだ子どもたちが残っている。

「“ 強射(ハードショット) ”!」

と思ったら、後続のクレイジーボアの一体がウルリカの矢によって仕留められた。

頭部を狙った高威力の弓スキル。俺の剣の一撃よりも遥かに強力なそれにより、頭蓋骨が半分くらい吹っ飛んで、そいつは沈黙した。

「ブゴォオオッ」

「おっと、効かないよ!」

レオの方はというと、巨大なクレイジーボア相手に接近戦を続けていた。

風を身にまとって軽やかになったレオは、クレイジーボアからの攻撃を受けても強い衝撃を受けること無く軽めに吹っ飛ぶだけで、すぐに風を操って距離を詰めることができた。

その上身体強化もできるものだから、リーチに不安のあるショートソードとはいえ当たった時のダメージは生半可なものではない。

「ゴォオッ……!」

「終わり、だね」

まさに蝶のように舞い蜂のように刺すって感じの戦い方だ。

クレイジーボアを翻弄しつつ、最終的に喉と心臓に刃を突き刺して仕留めてしまった。スキルの魔力消費は激しそうだが、瞬間的な戦闘力はやべーもんがあるな。

「はい、これで四匹」

なんてことを考えているうちに、ウルリカがもう一頭も仕留めてしまった。

木の上から落ち着いて狙うだけなもんだから、落ち着いてスキルも使えたんだろう。キルスコアはウルリカが一位だな。……いや。

「罠に掛かった残り一体、あいつだけだな」

「フゴッ、フゴッ」

こうして罠に掛かった姿を見ると、かわいそうだなという気持ちが……湧いてこないでもない。

年若い警戒心の低さ故にか罠を踏み、しかし家族のクレイジーボアは見捨てることも出来ず……気がつけば俺達がやってきて、助け出そうとしてくれてた家族は皆殺し。まぁ、シチュエーションは最悪だよな。あまり共感はしない方が良いやつだ。

狩りとはそういうもの。必要だからやっている。そう考えなきゃ、討伐なんてやってられん。

「最後の一匹、トドメ刺さなきゃねー……」

「レオ、俺は良いからお前が楽にしてやれ」

「……うん、わかった」

レオは罠に掛かったクレイジーボアの近くまで歩み寄り、二本の剣を構え……甲高い断末魔が響き渡り、ようやく討伐は終了した。

ちょっとげんなりする光景を見てしまったものの、集まった五つ分の肉塊を見ればそんな気持ちは一瞬で洗い流され、達成感だけがジャバジャバと際限なく湧いてくる。

五匹だぜ五匹。これはもう大勝ちですよ。ラードなんかもう鍋に収まりきらねーって。工夫しなきゃだめだなこりゃ。

「いやったー! 大猟だよ大猟! ここの罠はもう完全に壊されちゃってるけど……一つの罠で五匹も仕留められたって思えばチャラだよチャラ!」

「やったね! ……けど、うん……あはは、運ぶの大変そうだなぁ」

「まさかさっきの痕跡の連中がここに居たとはな……二人ともやるじゃねえか。クレイジーボア相手に危なげなく勝つなんてよ」

「モングレルさんこそ驚いたよー。全く避けもせず真正面から剣で仕留めちゃうなんて、ほんとびっくりした!」

「そ、そんな戦い方したんだ……スキルもちゃんと使わないと駄目だよ、モングレルさん」

まぁスキルは良いだろスキルは。そんなことよりもだ。

「とりあえずもう、ここのクレイジーボアを運んで今日は終わりだな?」

「うんうん、そうなるねー。何度か往復してやればどうにか……」

「じゃあ俺が四匹持つから一匹はそっちでやってくれ」

「え!?」

いつもより太めの頑丈な木をバスタードソードで切り出し、ちょちょっと加工して天秤棒にする。その両端にクレイジーボアを四匹、強めに縛りつければ……。

「……ぅオラッ! よし、持てる!」

「わ、わ、すごくない!? よく一度にそんなに担げるね!?」

「うわぁ……も、モングレルさん無理してない? 大丈夫なの……?」

「余裕……ってほどじゃねえけど帰り道ぐらいならいける。さ、日が暮れる前に拠点に戻ろうぜ。忙しくなるぞ」

斥候としてはカスみたいな活躍しかできないから、ここらへんで力にならないとな。ラードや肉の分け前をしっかり受け取るつもりで来てるんだ。俺だってちゃんと働くぜ。

「よし……じゃあウルリカ、僕らも行こうか。そっちを持って」

「ん、んんーっ……!」

「……もっと重心こっち側にするね?」

「力ねえなぁウルリカは」

「い、いや、普通に重いから……!」

とはいえさすがの俺も今回ばかりは若干張り切ってるところがあるので、拠点に着く頃には久々に労働の疲労感に襲われることになった。

まぁ、たまにはこうやって運動しないとな……体や筋肉が鈍っていくからな……。