軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

弾き出す聖域

串揚げは完売。おかげで懐も潤った。手伝い人数は多かったが大した問題じゃない。あらかじめ準備しておいた欲張りな量の在庫が捌けたので、しばらく豪遊できるだけの財産を手に入れた。

俺が普通の人間だったらもうギルドマンを辞めて串揚げ屋を開いてるレベルの稼ぎだが、俺は普通じゃないので辞めません。この世界はちょっとした金じゃどうにもならない問題や贅沢が多いんでね。

それよりは、あまり金を持っていることを知られたくない。変に金を持ってるだけで同業者からも狙われるのがこの世界だ。レゴールの治安はマシだと思っているが、魔が差すきっかけは入念に潰しておかないことにはどうにもならん。

じゃあどうすればいいか。簡単な話だ。

大半をパーっと祭りで使っちまうんだよ!

「いやー買えた買えた! ウイスキー大量だぜ!」

「っス!」

俺とライナは蒸留酒を瓶ごと買い込み、かつてないほどに上機嫌だった。

しかも今回は瓶を三本も買ってやった。もちろん馬鹿にならない出費ではあったが、この世界で飲める強い酒としてはこれ以上の物はそうそう無いだろう。

ライナも屋台の稼ぎで一本買っている。こいつは見た目によらず酒に強いからな……よほどこのウイスキーが気に入っているらしい。

「でもこれでもまだお金余ってるんスよね」

「これからギルドで使えばいいさ。ちょっとだけな。ある程度は後々のために残しておくんだぞ」

「モングレル先輩からそんな言葉が聞けるとは思わなくて正直びっくりなんスけど……」

「おいおい、俺はハルペリア一節約という言葉が似合う男だぜ?」

「っスっス」

もう外も薄暗く、夜になりかけている。

だというのに通りは賑やかで、いつもは灯していない灯りのおかげで出歩くのに苦労も無い。

ギルドまでやってくると、その賑やかさはピークに達していた。

「飲め飲め! 今日の酒は安いぞ!」

「結婚めでてぇ!」

「レゴール伯爵最高〜! あれ、でもレゴール伯爵って名前なんだっけ!?」

「馬鹿野郎! レゴール伯爵はレゴール伯爵だろ!」

「ガハハハ! これでレゴール領でまだまだ仕事ができるぜぇ!」

なんともあれだな。ギルドマンらしい盛り上がり方をしてるじゃねえの。

精霊祭などといった例年のものとは違う、数十年に一度あるか無いかの祭りということで、普段よりもずっと賑やかだ。

けどレゴール伯爵の名前くらいは覚えといた方がいいんじゃねぇかな……。変なとこで口走ったら大変な目に遭うかもしれないぞ。

「席座れなさそうっス!?」

「混んでるなぁ……いや、席を立って馬鹿騒ぎしてる奴らが多いだけで、案外座れそうだぞ」

立ち飲みしてる連中が多いと思ったら、よく見ると立ち上がって変な踊りをしてたり歌ってる連中が多いだけだった。

それにしてもこいつら、ノリノリである。

「お! やっとモングレル達も来たか! おーいこっちだ!」

「ようバルガー。おーおー、なんだよリュートなんか抱きしめちゃって。新しい女遊びか?」

「ちげーよ! 見りゃわかるだろ、弾いてるんだよ!」

酒場の隅っこの方では、バルガーがリュートを抱えてたどたどしくもキッチリとした演奏を披露していた。

何人かのギルドマンがそれを聞きながら酒を飲んでいるみたいだ。

「あ、ウルリカ先輩。レオ先輩。おっスおっス」

「やっほーライナ。お仕事どうだったー?」

「大繁盛っス! 儲かったお金でほら、お酒買ったっス!」

「うわ、あの強いやつじゃん。好きだなーほんと」

「あはは、頑張ったねライナ。お客さん凄かったもんね」

「あれ? レオ先輩もうちらの屋台来てたんスか?」

「えっ、ああうん。遠目にねっ? 頑張ってるなって。ウルリカの買った串揚げは食べたよ。美味しかったね!」

ウルリカとレオも演奏を聞き流しながら楽しんでいるようだ。

レオは変身を解除して通常モードである。いつまでその趣味を周りに隠し通せるのか、逆に見てるこっちがハラハラしてくるな……。

「よーし、バルガー。結婚祝いの曲流してくれ。俺たちはここで酒飲みながら聴いてるからよ」

「あっ、おいそれ蒸留酒じゃねえか。俺の曲の鑑賞料は酒一杯分だぞ!」

「ほれ1ジェリー」

「私のも1ジェリーっス」

「小銭かよ! ……えー、それでは歌います。“ヤズリーの結婚”」

「あ、演奏してくれるんスね」

「おいバルガー! もうその曲やっただろ!」

「うるせー! 俺のレパートリーはそんなねーの! 黙って聞きやがれ!」

なんだかんだで歌いたかったのか、無駄に心のこもった歌と共にリュートをポロンポロンと奏でている。

酔っ払いの特別上手くもない弾き語りだからか真面目に聞いてる奴は少ないが、最近王都から移籍してきた二人組の夫婦パーティー“デッドスミス”の旦那の方は何故か聞きながら涙を流していた。

「ああ、いい歌だ……俺たちもこの曲を聞きながら将来について語り合ったよなぁ……」

「恥ずかしいから泣くんじゃないよフーゴ!」

「あいだっ!? な、なんで殴るんだよ!?」

「そ、それにその時の話は娘に聞かれたらやだろ……? もうっ」

この二人は九歳になる娘もギルドに連れて来ているらしい。

子供を荒くれ者の多いギルドに同伴させるのはちょっと危ないが、まぁ今日は祭りの日だし平気か。

その娘は昼間に遊び疲れたのか、隅っこの壁際でマントを被って眠っている。可愛い寝顔だ。

「賑やかっスねぇ……」

「だな。……うーんメシは……デーツとクラゲの酢の物でも食べるか」

「あー、良いっスねぇ」

「あ、二人とも! 私達のおつまみも一緒に食べて良いよ! ほらこれ、食べきれないからさー」

「うん、みんなで分けようよ。ほら、こっちのお菓子はケンさんのお店で買ったやつだよ。結婚式用の特別な焼き菓子なんだってさ」

「マジっスか! ぬふふっス!」

「お、良いなそれ。俺が見た時にはもう売ってなかったんだよなぁ」

甘いもの、しょっぱいもの、そしてウイスキー。色々揃って贅沢な飲み会だ。

BGMを奏でるバルガーが自分の世界に入り込みすぎて顔がなんかうるさい以外は完璧と言える。

「……けど、こんなお祭りの時でも犯罪は多いね。衛兵の人は忙しそうにしてたよ。スリとか喧嘩が多いみたいだ」

「ねー。ギルドの中は騒がしいけど、外の通りはほんと危ないよ。精霊神殿の人らの寄付の要求が偉そうだったり、婚合神教会の人がしつこく話しかけて来たり、聖域? なんとかの人達も色々うるさいしさー」

「最近そういうの多いっスよね……」

神殿の連中の寄付要求はあれだ、もうそういうものだと思うしかない。冠婚葬祭の場では必ず湧いて出る奴らだしな。

けどサングレール聖王国とは違って、ハルペリアの神殿勢力は予算を削られがちっていうから、その寄付もわりと生命線なんだとは思う。ただ致命的に要求する態度がクソ過ぎるってだけで。

“寄付しないと◯◯ですよ”みたいなマイナスを前面に出した言い方が多いんだよな。センスがないと思う。

……ところで聞き慣れない単語があったな。

「ウルリカ、聖域……ってのはなんだ? 新しい宗教か何かか?」

「えーとね……あれ? なんだったっけ。レオ、あれ知ってる?」

「ごめん、僕も詳しくは……でも宗教絡みの団体じゃないよ。確か政治の事に口を出してる人たちだったと思う」

「お、聖域派かい? それなら俺は知ってるぞ」

口を挟んだのは、隣のテーブルで飲んでいた“デッドスミス”のフーゴだった。

「聖域派ってのは、王都ではちょくちょくいた団体だな。サングレールと戦うのではなく、戦わない……不戦、断交を目標にしてる連中のことだ。レゴールにもいるんだなぁ」

「不戦、断交ねぇ」

それが出来たら苦労はしねぇだろ。

「不戦って言っても、向こうが攻めて来てるんだからどうしようもないじゃないスか」

「ああ。だからこそ、攻められないように国境を魔物で封鎖しようってのが連中の考え方だ」

「……魔物で?」

「詳しいことは俺も知らねえよ? ただ、山の標高の高い所からはコルティナメデューサのおかげでサングレール軍が侵攻して来ないだろ。ああいう感じで、厄介な魔物を定着させてやれば国境が守れる……って考えらしい。実際にそんなことができるのかどうかは知らねえけどな」

ははぁ。魔物を使った国境封鎖。それによる断交ね。そんなこと考える奴等がいるのか。

「……魔物で国境封鎖? そんなの無理じゃない?」

「無理っスよねぇ」

「上手くいかないんじゃないかな……」

ウルリカもライナもレオも懐疑的だ。俺もそうである。

普段から魔物を討伐して暮らしている人間にとっちゃそうだろう。

魔物はそう易々と人間にコントロールされる存在ではない。都合良く防波堤として機能してくれるとは思えないよな。

「ま、聖域派なんて王都とか……国境に近くなくて、魔物のこともよくわかってない人たちの考え方よ。私とフーゴが王都にいた頃も、ギルドマンからは冷めた目で見られていたわ」

「だな。まぁ、実現してくれりゃ兵役も無くなるかもしれないが……」

「代わりに魔物退治が沢山増えそうよね」

「前にあったアステロイドフォートレスの発生も聖域派の仕業だって話だぜ?」

「それ嘘でしょ? リュムケル湖から渡って来たって聞いたけど」

……断交か。それができれば何よりだと、俺自身は思う。

けど理想と現実は分けて考えなきゃいけない。やりたいのとやれるかどうかは別問題だ。

それに……サングレールから外交官としてやってきたアーレントさんは、断交ではなく国交を結ぶためにレゴールまでやって来ている。

あれも大概実現性に疑問はあるが、それでもあの人の頑張りや覚悟を傍で少しだけ見ていた俺からすると、まぁそうだな。しばらくはそいつが実を結ぶかどうかを見守っていたくなる。

「……モングレルさんは、どう思う?」

ウルリカが少し遠慮がちに聞いて来た。

「んー、まぁ今のところなんともだな。そういう奴らもいるのかーってくらいだよ。実際は難しいだろ、魔物相手にそんな上手くいくかなっていう」

「あはは、だよねー……」

「おい、歌ったぞ! 拍手しろ拍手!」

「わーわー」

「上手でした!」

「だろ!? だろ!?」

と、いつの間にかバルガーが気持ち良く歌いきっていた。

悪いなバルガー、完全にお前の演奏をBGMにしてたわ。

「よし、じゃあ次はモングレルの番な!」

「じゃあってなんだよ……俺が弾き語りするのか!」

「モングレル先輩の演奏っスか」

「やったー、私聞きたーい」

「あはは。律儀にリュート受け取ってる」

まぁこういう場なんでね、渡されたら弾きますよ俺だって。

酒も入って気分も良いしな。辛気臭い話なんかよりも楽しい音楽ですよ。

戦争よりも俺の歌を聞けェ!

「さーてモングレルになに歌わせっかなー」

「あ、おいバルガー! 俺のウイスキー飲むな!」

「今回のお祭りに合った曲が良いっス!」

「おー、モングレルさんも弾けるのか。こいつは聴いておかないとな」

祭りに合った曲ねぇ……祭り……串揚げ……。

「……わかった。じゃあ候補として“ワッショイ”と“油”の二曲があるけどどっちが良い?」

「なんだその選択肢……」

「僕多分どっちも知らないなぁ……」

「えー……じゃあ油の方が気になり過ぎるんでそっちをお願いしたいっス……」

「よし来た。聴かせてやるぜ……今日の祭りに相応しい一曲を……!」

「モングレルさん酔ってるなー……」

それから俺は全力で“油”の弾き語りを終え、なんとも言えない空気の中で美味いウイスキーを満喫したのだった。