軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ススキの刈り取り手伝い

モーリナ村に到着した。

前に来たのはシルバーウルフ討伐のために立ち寄った時だったかな。

頑丈な柵に囲まれた広い放牧地。遠目に眺めるだけでも様々な種類の家畜がいるのがわかる。

「モーリナ村へようこそ。今年はレゴールの軍人さんたちも居るが、彼らは収穫作業の護衛まではしてくれんからな。“大地の盾”の人らにやってもらえると助かるよ」

「そう言っていただけると、うちの若い連中も喜びます。今年の収穫作業の警備、しっかりとやらせていただきます。我々にお任せ下さい」

ギルドマンというとほとんどの場合、村とか町からは煙たがられる。

護衛とはいえ、何をするかわからないような連中も多いからだ。つまり信用が無い。

その点、“大地の盾”は身なりも評判も良い。

レゴール周辺ではよく活動していることもあって顔が広く、よそからは軍の下部組織みたいな扱いを受けている。実際、軍とも関わることの多いパーティーなので間違いではないんだが。

「おや、そっちの人は……」

「やあどうも、俺はモングレル。前にも討伐で立ち寄ったよ。いつもはソロだけど、今回の俺は“大地の盾”の人数合わせで入ったクチでね」

「ああ! そうだった。シルバーウルフの時の……そうか、あんたがいるなら安心だな。今回もよろしくお願いするよ」

隣のマシュバルさんが“え? シルバーウルフ?”とでも思っていそうな顔をしているが、まぁこの話はやめて仕事しようぜ仕事。

「村の畑は内側にあるし、大したもんを育ててるわけでもない。だから警備の必要も無いんだが、外れにあるススキの刈り取りは結構危なっかしくてな。そっちの刈り取り作業の警備に入ってもらえると助かるよ」

「なるほど。牧草用のススキですね」

「そうだ。毎年ワサワサと生えてきて魔物の住み処にされることも多くて厄介なとこもあるんだが、あれは良い干し草になってくれるんだ。向こうの、ほれ。あの尖った屋根の塔にいる奴に声をかけて貰えれば案内してくれる。頼んだよ」

指し示された場所は高いサイロのような塔だった。

その向こう側にそびえる山では背の高いススキが風を受けて揺れている。

……まさかあの全面を刈り取るわけでもないだろうが、警備の時間はたっぷりとありそうだ。

「さて、仕事開始だな。向こうについたらモングレルは個別に向こうの指示を仰いで動いてもらえるか。その方がお前としてもやりやすいだろう」

「お、良いのかいマシュバルさん」

「好きでソロでやっている奴を我々の規律で縛り付けるような真似はしたくないのでな。それともモングレル、私の指揮下に入るか?」

「よっしゃ、個別に仕事させてもらいますわ」

「ハハハ」

マシュバルさんは部下には厳しいが、なかなか融通の利くお人である。

そんじゃこっちはこっちで、気ままにお仕事させてもらうことにしよう。

「こっち側は大量の罠を仕掛けてるから問題ねーんだがね、さすがにススキを囲むほどは仕掛けられんわけよ。だから刈り取りは結構危なくてなぁ」

「なるほど。家畜はしっかり守られてるわけだ」

俺が割り当てられた場所は、ムーンカーフの放牧地とサンセットコケッコの飼育小屋近くの茅場だ。“大地の盾”の連中とは少し離れているので、ソロでやってる俺としてもピッタリな割り当てと言えるだろう。

「……ムーンカーフ、呑気なツラしてやがるなぁ」

「いつもそうだよ。暴れないから管理が楽で助かるがね、近くにゴブリンがいても騒ぎもしないから、そういうとこは困るね」

ムーンカーフは、クソでかい牛である。

この国で生産されているミルクの大部分はこのムーンカーフが出す乳であり、凄まじい大食らいであることに目を瞑れば大人しくて管理もしやすい良い家畜なのだとか。

のっぺりと面長な顔とぼんやりした目つきがいかにも間抜けっぽい感じだが、実際に間抜けな牛である。図鑑の言説を鵜呑みにするのであれば、こいつは野生ではほぼ生きていけないと言われている。警戒心が無いし動きもトロい。家畜としての価値がなければ大昔に淘汰されていたかもしれないな。

その近くに立てられている飼育小屋は、サンセットコケッコというニワトリの養鶏小屋だ。

こいつはサングレール原産で、頭頂部の赤いトゲトゲしたトサカが沈みゆく太陽に似ていることから名前が付けられたそうな。

肉は不味いがよく卵を生んでくれる良い奴らである。シュトルーベでも飼ってたなぁ……。雑にエサやってもよく食うし、糞が良い肥料になるんだ。鳴き声はうるせえけども。

「じゃ、こっから刈り取っていくんでね。モングレルさんは近くで魔物の警戒を頼むよ」

「はいよ。なんならできることあれば手伝うけど……」

「良いのかい? だったら刈り取ったやつを運ぶ……あーそれは離れるからいかんな。そうだ、じゃあ一緒に刈り取り作業手伝ってもらえるかい?」

「お、良いね。グレートハルペはあまり使ったことないけど、こっちのナイフだったらよく収穫で使ったよ」

「経験者か、そいつは助かる。けど、無理せんでいいからね。護衛の仕事がメインだから、疲れない程度にお願いするよ。後で美味いクリームビスケットを出すから」

「お、良いねぇ。それじゃあ仕事頑張らなきゃな」

そんなわけで、バスタードソードはひとまずしまい込み、カランビットを片手に収穫作業を手伝うことになった。

しかしやることは単純である。ある程度の高さでガッガッとススキを刈り取っていくだけ。

刃物にまで強化の魔力を行き渡らせれば、サクサクと一回で刈り取っていける。刈ったらその場に倒し、隣へ移る。そうしている間に小間使いをやらされている村の子供がやってきて、ススキの束を塔近くまで運んでいくのだ。

「おじちゃんギルドマン?」

「ああ、そうだよ」

キツいしゃがみの姿勢で刈り取りをやっていると、鼻垂れ小僧が話しかけてきた。

いきなりおじちゃんとはなかなかなご挨拶だな。俺がまだ二十代だったら大人げない凄み方をしてるところだったぞボウズ。

「じゃあ貧乏だ」

「いや貧乏じゃねーから。今は結構金持ってるから」

「どんくらい」

「まぁ……どんくらいだ? そう言われるとな……いや金はあるんだぜ」

「貧乏だ貧乏だ」

一人でゲラゲラ笑いながら、子供は逃げるように走り去っていった。

……あ、親父の拳骨くらってる。ざまあみやがれ。

「よお、モングレル」

「お? なんだミルコか。馬上の人とは良いご身分じゃねえか」

「ククク……そう言うな。お前の様子を見てこいと言われたんだよ。周囲の警戒ついでにな」

刈り取りに集中していると、ミルコが馬に乗ってやってきた。

こうして見ると整った面構えもあってなかなかのイケメンっぷりなんだけどな……まぁ既に結婚してる奴を残念なイケメン扱いしてもしょうがない。

「こっちも刈り取り作業の手伝いまでやってるのか」

「暇だしな。闇雲にこの茅場で魔物を探し回るよりは楽だぜ」

「ま、そうだな……」

「ミルコの方は何やってるんだよ」

「俺たちの方も似たような作業だ……さっきまで大勢で茅場の奥まで踏み入って、潜んでいる魔物を退治していてな。ゴブリンやらスネークやらを呆れるほど討伐したぞ」

「そいつはご苦労だな……こっちはまだ見てねえや」

「茂みには潜んでいるぞ。気をつけるんだな……ククク……」

親切心で教えてくれたけど含み笑いのせいで計画犯みたいな感じになったミルコを見送りつつ、作業を再開する。

そしてしばらくやっていると、ミルコの言っていた通り魔物の気配を感じた。

「グギィ」

「お前かぁ」

茅場の中央付近にススキを踏み倒して出来たような空間があった。

そこにいたのは一匹のゴブリンである。なかなか良い物件に住まわれているようで……。

「ギッギッ!」

「なんだなんだ、ここは俺の家だぞってか? うるせーな立ち退きだよ。荷物持ってさっさと消えな。文句あるならヤクザもびっくりの強制立ち退きになっちまうぞ」

「ギャギャギャッ!」

「よし、やる気だな。こっち来いよ。牧草を汚したくないからな」

ゴブリンを茅場から誘い出し、拓けた場所までやってきた。

ここまであからさまに誘い出しても特に疑問も持たずに臨戦態勢のままなんだから、ゴブリンって奴は本当にシンプルな脳みそしてるよな……。

「よし、じゃあやろうぜ。今日は警備だからな。しっかりバスタードソードで始末してやるよ」

「ギッギッ! ……ギ?」

「おい何よそ見……あ、おいっ」

ゴブリンの視線が柵向こうのムーンカーフへと移っていた。

さっきまで俺を殺してやるっていう雰囲気しかなかったのに一瞬で“あ、向こうの奴美味そう”的な思考になりやがったこいつ。

「ギーッ!」

「こら! そっちいくな! こっちで戦えって!」

「ギャーッ!?」

「ほら言わんこっちゃねえなぁもう!」

そのままムーンカーフのもとへ走り出し……柵近くに設置されていたスネアトラップに引っかかりやがった。

何してんだよお前。ここらへんで生活してるくせにどうして罠に引っかかるんだ。

「ギッ、ギィイイ……!」

「あーあ、足首に絡まってるじゃねーか。ほれ、俺が取ってやるから見せてみ……な!」

「グゲ? グェッ!?」

身動きできないゴブリンなんぞ弱体化された雑魚でしかない。

そのまま脳天をカッと叩き切り、即死させてやった。

「やれやれ。罠を外す仕事が増えちまった……まぁけど……良いなぁ、この罠だらけスポット。さすが畜産エリアだ。しっかり管理されてるわ」

大型の魔物に対しても有効な頑丈な柵。そして獣系や中型の魔物に対応する大量の罠。

いざとなれば村の中にある詰め所から軍人やギルドマンや自警団が出動するし、戦力で言えばそこらへんの宿場町よりもずっと上だろう。

ファンタジー世界の村というと何故か防御力がスカスカなものをイメージしがちだが、この世界では全くそんなことはない。普通に村の規模を維持できるだけの戦力や防備は整っているのだ。

ただ燃やされたり略奪されるだけの平和ボケした村なんてものは存在しないのである。

「……しかし、村の財産であるお前が一番呑気そうにしてるってのはどうなんよ?」

「ブモ……?」

目の前でゴブリンが惨殺されているところを見ていたはずのムーンカーフは、何もわかってなさそうな顔で足元の茂みをモサモサと食っていた。