軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

威圧する面談

ハルペリアにおける成人年齢は16歳だ。

16歳になれば一端の大人として扱われ、色々なしがらみも増えてはくるが……一人の自立した人間とみなされる。

今のライナは18歳である。見た目はまぁ……成人未満な感じではあるが、実年齢はしっかり大人だ。住む場所も仕事も自分で決められるし、それは家族から強制されるものでもない。まして、もう何年も一緒に暮らしていない家族であればなおさらだ。仲が悪けりゃ言うまでもない。

ギルドマンでシルバーランクといえばそれなり以上に社会的地位もあるし、収入もある。親族から脅されることなんて何も無い。

そりゃまぁこの国にも裁判所はあるし、そういう所ではいろいろな事情を加味して争われることもある。レイナルドが訴え出れば、それが認められるかどうかはともかく、ライナを面倒な裁判沙汰に引っ張り出すことまではできるだろう。敗色が濃厚ではあるが……。

だがライナの兄貴も、多分そこまで愚かではあるまい。

村社会特有の狭い視野や了見は多分に持っていそうではあったが、向こうの話を聞くに“絶対にライナを嫁がせなきゃいけない”ってわけでもなさそうだったしな。

折れるだけの理由があれば折れるだろう。そういう理由ならいくらでもある。

何より、ライナが兄貴に“嫌っス、くたばれっス、糞して寝ろっス”とだけ言ってやればそれで終わる話なのだ。

それでも食い下がるような相手であれば……。

ライナの保護者達が黙っていないだろうよ。

翌日の朝、俺は女将さんに頼んで厨房を貸してもらい、ラードを使ってちょっとした揚げ物を作った。

芋とかパンとかを揚げた簡単なスナックである。こいつを木製のボウルに入れて、乾燥ハーブと塩を加えてシャカシャカする。

するとはい、できたてほやほやのおやつの完成だ。

「あら美味しそうねモングレルさん。一口食べても良い?」

「俺も俺も」

「私も……」

「はいはい、どうぞどうぞ」

「やったー」

スコルの宿の家族に何割か徴収されてしまったが、まぁいいだろう。

こいつは今日これからギルドで行われるライナ絡みのイベントを見物……もとい見守るために必要なおやつだ。

本当ならポップコーンができれば良かったんだけどな……作り方がよくわからんから仕方ない。このホットスナックをポリポリつまみながら、レイナルドの様子を眺めていようって魂胆だ。

ライナを田舎のおじさんに嫁がせようとする意地の悪い兄貴……。

それがアルテミスの過保護なお姉さん連中にどう扱われるのか。考えただけで恐ろしい。

けど恐ろしいと同時にレイナルド君が戦々恐々としている姿を見て美味い飯を食いてえんだよな俺は。

部外者の俺にできるのはせいぜいそのくらいのもんだ。

まあ、後は万が一にもなさそうではあるが、レイナルドが強硬手段に出てきた時にライナを守ってやるくらいだが……その必要もあまりなさそうだしなぁ。

「ま、とにかく行ってみるか」

まだ朝の早い時間だが、果たしてレイナルドと“アルテミス”はいつ頃やってくるのだろうか。

とにかくギルドで席を確保してからだな。

そんな気持ちでギルドに向かった俺だったが、俺の思っていた以上に当事者たちは早起きだった。

“アルテミス”もレイナルドも、既にギルドを訪れて向き合っていたのである。

そして、俺の予想通り“アルテミス”は本気だった。

「ライナを引き取る、ね……なるほど、よその家との繋がりを作るために……それだけかしら? まさかその程度の用件で我々を呼びつけたのかしら」

「何年も“アルテミス”で教育を施した現役のシルバーランクを辞めさせようとは、ハイム村とは随分と裕福らしいな。面白い。ライナの婚姻でどれほどの額の資産が動くのやら」

大人げないほど完全装備を整えた“アルテミス”のメンバーが、ギルドに揃っていた。

普段の討伐くらいじゃ持ち出さないようなガチ武装までしっかりと着込み、シーナやナスターシャに至っては貴族の前に出ても恥ずかしくないような高そうな装備まで身にまとっている。

レイナルドはそんな彼女たちの前で……縮こまっていた。

粗野なギルドマンのパーティーだろうと高を括っていたところに、場違いな集団が現れて完全に萎縮している様子だ。

パリッ、サクッ。ポテトがうめぇ……。

「ていうかさー……ライナのこと、“アルテミス”への断りもなく勝手に故郷へ連れて帰ろうとしたわけー? それはちょっとなー、ギルドマンとして馬鹿にされちゃってるよねぇー……」

「今日にでも馬車に乗せて連れて行こうとしたんだってね。ハイム村の総意……と受け取るべきなのかな? これは」

「あ、いや……その……」

ウルリカは不機嫌そうに机を指でトントンと叩き、レオも珍しいくらい冷淡に凄んでいる。レイナルドは顔面蒼白だ。さすがにちょっとチキンだと思わないでもないが、装備も顔立ちも整った連中に囲まれては落ち着かないのだろう。

これが粗野な連中に囲まれたのであれば、まだ想像の範疇として強がれたかもしれないが、現状はレイナルドにとって“よくわからんけど凄そうな連中の地雷を踏んでしまった”ようなものなのだろう。とても居心地悪そうにしている。

「ラ、ライナさんを勝手に連れ去ろうと……フゥウウウウゥゥ……!」

「ひっ」

「ゴリリアーナ、落ち着きなさい。いくら礼儀を失しているといっても、命まで取ってはいけないわ」

時々ゴリリアーナさんが憤り、それをシーナが宥めるという、演技なんだか本気なんだかわからない一幕もあった。

完全に怖い警官である。これは俺でもビビるわ。

「……」

そして肝心のライナはというと、シーナの隣にぴったりとくっついて沈黙を守っている。

ただじっと兄の様子を眺め、無表情でいた。

「――と、まぁ色々と話したけれど……ライナを脱退させられない理由はこの場で考えられるだけでも以上ね。で、他に用件は?」

「な、……ないです……」

「そう……わかりました。では、話はこれで終わりにしましょう。次に話し合いの席を設けるのであれば……私達の時間も安くはありませんから。相応の額を支払っていただきます。よろしいですね」

「……はい」

ゲームセットである。おいおいまだホットスナック食いきれてないよ。すぐに終わっちまったな。レイナルド完全にビビって頷いてただけじゃん。

「……もう、」

レイナルドが居心地悪そうによろよろと立ち上がる中、ライナがか細い声をあげた。

「もう、私に構わないで。ほしいっス……もう、私の居場所は……“アルテミス”、このパーティーなんスから……」

「……!」

その時、レイナルドは反射的にライナに何か言おうと口をパクパクさせて……ライナの後ろに控える怖いお姉さん方を見て、すぐに口を閉じた。

今まではきっと、どんなに勝手で理不尽で不条理なことでもライナに言えたのだろう。しかし今では違う。ライナは既に一人立ちし、都合よく人生を動かせる存在ではなくなった。

「チッ……村のことを考えない……恩知らずめッ!」

最後にそんな捨て台詞を言い残して、レイナルドはギルドを去っていった。

陳腐すぎて鼻でもほじりたくなるような捨て台詞だったが、それでもライナは真正面から受け取ってしまったらしい。足早に去っていったレイナルドの背中を寂しそうな目で見送っていた。

「なにあいつ! 最悪! ライナ、あんな奴のいうこと気にすることなんてないからね!」

「うん、そうだよライナ。ああいう男は最低だ。勝手に婚姻させるなんて……そんなの酷いよ。許せない」

「……っス。あざっス」

「これでもうあの男がレゴールに来ることはないでしょう。安心しなさい、ライナ」

「来たら来たで、何度でも私達が守ってやる」

ちょっと涙ぐんでいたライナを励ますパーティーメンバーたち。

感動的な光景だ。俺には全く付け入る隙がねぇ。手持ちのホットスナックが完全に悪趣味な形で浮いてしまっている。俺の予想ではもうちょっとレイナルドがふてぶてしく食い下がってくるもんだと思っていたんだが。瞬殺すぎて驚いたよ。

「まぁなんだ。これ食えよ、ライナ。酒も飲もうぜ。すいません、ビールをひとつ!」

「モングレル先輩……」

俺は余ったおつまみをライナに差し出し、ねぎらいのビールも注文してやった。

「血が繋がっていてもな、その繋がりに縛られたままでいることはないんだぜ。今はまぁ、まだしんどい気持ちが残ってるかもしれないけどな……もう何年かここで過ごすうちに、きっとあの兄貴や家族も、ライナの中で小さい存在になっていくはずさ」

「……そういうもんスか」

「そういうもんだよ」

ライナがひっそりと慎ましくポテトを手に取り、もそもそと食べる。そしてビールにおずおずと手を伸ばし……水のようにきゅーっと飲み干してしまった。

相変わらずのウワバミだ。

「私も食べちゃおー。あ、これ美味しい!」

「じゃあ僕も……うん、良いね」

「ちょっと、みんなしてこんな時間から……はあ、全く。良いわ。少しご飯を食べて落ち着いたら、今日は軽めの仕事だけ受けて終わりにしましょう」

「さんせー!」

「え、え、良いんスか」

「ふむ。たまにはそんな日も悪くはないな」

「良いのよ。“アルテミス”団長の私がそう判断しているのだから」

ちょっとだけ元気を無くしたライナと、それを慰めるように楽しそうに振る舞うパーティーメンバーたち。

そうだな。さっき悪態ついて出ていった男と今の光景、どっちが家族かと言えば……まぁこっちだわな。

「何も起きなくて一安心って顔だな、モングレル」

「……バルガー。お前もギルドに来てんじゃねえかよ。こんな時間から」

「バレたか。いやあ、俺も気になってよ」

ギルドの酒場の片隅には、昨日の一部始終を見ていたバルガーの姿もあった。

こいつもまた昨日の件が気になって、様子を見に来ていたのだろう。机の上にはエールとナッツ。考えることまで俺と同じかよ。なんか嫌だな。

「ナッツが余ってしょうがねえや。モングレル、お前も一杯くらい俺に付き合え」

「へいへい」