軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伐採作業の警備

寒い季節が近づくにつれ、街は冬支度を始めるようになる。

現代のように外気をキッチリ遮断した家屋でもなければ、機能の良い暖房器具が設置されているわけでもない。

ハルペリア王国の冬は、大量の薪と炭によって凌ぐものだった。

それはここレゴールもまた同じ。

しかし近年の謎の好景気に湧くレゴールは移住者が殺到し、人口は急増。それによって材木や薪の需要は右肩上がりに増している。

伐採関連の仕事がひっきりなしに続くのも、まぁ当然の事であった。

食料生産国で良かったわマジで。それだけは救いだ。

「チャージディア一体か。本当に伐採の音が嫌いなんだなお前ら」

バロアの森の外周部では林業関係者が総出で働いている。

材木、間伐材、今のレゴールではなんだって欲しいところだ。

これまで森林の縮小に及び腰だったレゴール伯爵も、今年はついにゴーサインを出したらしい。

森の木はアホみたいに急成長しまくる種であるとはいえ、無計画に伐採してたら資源が尽きるからな。今までは森に一本道を拓いて奥の方から間伐するなりして騙し騙しやっていたが、いよいよ運搬コストが響いてきたものと見える。

まぁ俺たち現場の人間からすれば、こうして外側からヒャッハーする方が楽でありがたいんだがね。

しかし、どんな場所で作業をしていようが魔物は現れる。

今俺の前、木立の向こう側で静かにこちらを見ているチャージディアが代表的なそれだ。

突進からの刺突に秀でた物騒な角を持つこのチャージディアは、縄張りの主張をするのに樹木の表面を突いたり引っ掻いたりして音を出すらしい。

人間の伐採は、チャージディアにとってまさに正面から喧嘩を売るようなもの、なのだそうだ。わからんけど。

でも木材を伐採する程度でキレられても困るわ。シビアなファンタジー世界のエルフみたいな価値観してんなお前ら。

この世界のエルフはそんなことで怒らんぞ。

「おーら、この森を潰してゴルフ場にしてやろうかー?」

バスタードソードで近くの木の幹をバシバシ叩き、チャージディアを煽る。

勢子ってやつに近い。普通ならこういうので逃げるのが野生動物ってものなんだが……。

「キュッ」

チャージディアは音を耳にするや、甲高い鳴き声をあげてこちらに駆け寄ってきた。

煽り耐性が低すぎる。

「顔真っ赤だぞ」

「!?」

俺の下っ腹目掛けて突っ込んできた角先を、バスタードソードで強引に弾く。

いやすげえ衝撃だ。結構力込めても軌道を少しずらすのがせいぜいだわこんなん。

だが、お陰でチャージディアの鋭利な角は俺の隣にある樹木に深々と突き刺さった。ディアブロスかな?

こうなるとチャージディアは無力だ。力があるので抜け出すことはできるが、それも一瞬ではない。

「ディアブロスの弱点を持った逃げないケルビって聞くと、すげえ弱そうに聞こえるんだけどな」

かなりどうでもいいことを呟きながら、チャージディアの喉を切り裂く。

一際甲高い悲鳴が森の中に響き渡った。

「おー、あんたチャージディアを仕留めたのか。ありがたい」

「お? 本当か兄ちゃん。助かるぜ。奴らを見ていちいち逃げるのも面倒だしな」

「気にするな、俺の仕事だからよ」

俺はチャージディアを担いで作業現場まで戻ってきた。

ここではレゴールで使われる木材のために早朝から多くの男たちで賑わっている。

チャージディアの解体は血抜きといらない内臓を抜くだけに留めておいた。細かな解体は人が多くて物も揃ってるこの場でやってしまおうと思う。

「ああ、兄ちゃん。解体なら向こうのギルドマンの人達がまとめてやってるよ。そこに持っていくと良い」

「お、てことは大地の盾がやってるのか。そりゃよかった。ありがとう、おっさん」

「また何か来そうだったら呼ぶからなー」

伐採音を聞きつけてチャージディアが積極的に襲いかかってくることもあり、この世界の林業は非常に危険を伴う。

なので伐採する時はこうして一度に大量に、そして護衛役も大勢引き連れてやるのが通例だ。

そして今回、ギルドから派遣されてきた護衛役の中心となっているのが「大地の盾」。

近接戦に優れた王道パーティーだ。ベテランも多いので心強い。

大地の盾が集まる場所へ歩いていくと、そこには見知った顔があった。

アレックスだ。

「ああモングレルさん。姿が見えないので何かあったのかと心配しましたよ。……って、チャージディアを仕留めたんですか。一人で?」

「ようアレックス。まぁ俺みたいなソロは好きに動けるからな。奥の方からやって来る連中を狩ってたんだよ」

酒場でよく話すアレックスもまた「大地の盾」の一人だ。

俺が仕留めたチャージディアを切り株に下ろすと、アレックスは死体を検分し始めた。

「若い雄ですね」

「剣を恐れてなかった。経験不足の個体だな」

「傷は喉だけ、と。毛皮も売れそうで何よりです」

「軽くて運ぶのも楽だよな。そっちで解体やってるんだって? 肉わけてやるから頼んでもいいか? やってくれたら前脚2本くれてやる」

「いいんですか? それはとても助かりますが……解体だけでそこまで貰うのはちょっと」

「良いんだよ面倒だから。俺はレバーとハツと舌が食えれば満足だしな」

「肉食べないんですね……」

「食うぜ? でも飽きるから売っちゃう」

ジビエは好きなんだけどな、やっぱ連続で食うと飽きるのよ。

味付けも限られてるし……その点内臓とか舌は飽きないな。無限に食える。

「それにまだしばらくはチャージディアが来るだろ。どうせ満腹になるなら、美味いとこだけ食いたいからな」

「背中の肉とかも悪くないと思いますよ?」

「あー、まーなー」

「気のない返事ですねぇ……」

鹿は鹿でいいんだけどな。牛と比べちゃうのよどうしても。

「おーい、ゴブリンでたぞー、ホブもいるぞー」

なんてことを話していると、遠くの林から声が聞こえてきた。

仕事の合図だ。ホブってことはちょっとした数いるな。討ち漏らすわけにはいかん。誰かが怪我するってほどではないだろうが、加勢にいかないとまずいな。

「行きましょう」

「やれやれ、ゴブリン斬ったら剣を洗わなくちゃいけねえ」

「モングレルさんは結構気にしますよね、そういう所」

「俺はハルペリア一清潔感を気にする男だからな」

「変人だなぁ……」

「端的すぎて悪口でしかないぞそれは」

おっとりした足並みで現場へ駆け付けると、既に大地の盾の先鋒はゴブリンの小集団と戦っていた。

「ぜぇいッ!」

団員の一人が振るうロングソードが、棍棒を振り回すゴブリンをリーチの外から一方的に叩き切った。

体格差、武器のリーチ差。ここまでサイズ感が露骨に出る戦いもそうはない。

ハルペリア王国におけるロングソードは、“個人が無理なく携行できる可能な限り長い剣”、くらいの意味合いを持っている。

剣士と呼べる人間の最低限の素質は、多少であれ魔力による身体強化ができること。それによってロングソードを扱えることだ。ファンタジーパワーで底上げした肉体で振るうのだから、主兵装たる剣も当然、大型化する。

逆に、国中に跋扈する大きな魔物を斬り伏せるためには、この長く頑丈なロングソードがなければ無理ゲーってところもあるのだが。

「一方的だなぁ。さすが大地の盾」

「そりゃあゴブリン相手に苦戦なんてしませんよ」

アレックスは苦笑いして言っているが、新入りギルドマンはこう順調にはいかない。盾で防いだり、どうにか頑張って避けてから隙を突いたり。戦闘中に何度も策を弄するもんだ。

長いリーチで外から一方的に殺す彼らの常識の方が、何歩も前に進んでいるのは間違いない。

「それじゃ、僕も仕事しないと」

「ああ」

アレックスもまた、ゴブリンの集団目掛けて走ってゆく。

普段の丁寧そうな物腰とは裏腹に、戦いになると急にキリッとして剣を振るうのだから面白いやつだ。

こういう場面こそ女に見てもらったほうが良いんだが、大地の盾は男ばかりだからなぁ……。

「モングレルさん、そっち足止めだけお願いします!」

なんてことを悠長に考えていると、討ち漏らしというか“前に逃げてきた”個体がこちらに迫っていた。

ゴブリンが何故徒党を組んでやってきたのか。何故逃げるのにこっちに来るのか。それは考えてもわからないし、考えるだけ無駄だ。

こいつらの行動に関してはマジであまり考えない方がいい。深読みするだけ無駄だからな。

「ウハハハハハーッ!」

「!?」

俺は大声を上げ、バスタードソードをそこらの木の幹にガンガン当てながら威嚇した。気分は猿である。

人間が突然猿に豹変するとさすがのゴブリンもドン引きするのか、動きが一瞬止まる。こいつらは難しい作戦とかは考えられないが、変な勢いには気圧されるからな。足止めにはわかりやすいハッタリが一番だ。

「なんですか今の声……」

呆れながら、アレックスは立ち止まったゴブリン二体の首を背後から刎ねた。

「でかい猿のモノマネ」

「普通に剣で戦って足止めすればいいのに……」

「嫌だよ、剣が汚れるじゃん」

「どれだけ潔癖なんですか貴方は」

俺は足止めだけ命じられた。だから足止めだけはした。

倒してしまっても構わんのだろう? でも倒さなくていいなら倒さないんだ俺は。

「しかし毎年忙しい任務だな、これは」

「仕方ありませんよ。特に今年は木が足りないってどこも慌てていますから」

「薪が足りなくて凍死するなんて家も出るかねぇ」

「どうでしょうね……出てほしくはないですが、貧民区からは出るでしょうね……毎年のことですから」

ゴブリンの汚え鼻を削ぎながら、アレックスが言う。

いやー本当に汚いな。鼻水が糸引いてるじゃん。戦わなくてよかったわ。

「……」

「……アレックス、落ち着け」

鼻水が滴るゴブリンの鼻を持ち、アレックスが一歩俺に近づいてくる。

「足止めしてくださったのでゴブリンの部位一ついかがです? ほらこれ」

「いいから。本当にいいから」

「まあまあ遠慮せずどうぞ、ほらほら」

「やめろ近づくな! やめろーっ!」

良い歳したおっさんたちの馬鹿みたいな鬼ごっこは、近くにいた大地の盾の副団長の叱責によって終わることになった。

ありがとう副団長さん。