軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

近所にいる世界一位の男

冬が近い。

今年の秋は戦争のせいで随分と短く感じたな。本当なら魔物狩りで大忙しのシーズンなんだが、あまり旬の奴らを狩ってない気がする。それよりは徴兵前の夏頃が忙しかったくらいだ。

しかし冬になれば忙しさなんてものは鳴りを潜め、穏やかな季節がやってくる。

……まぁその穏やかな季節を迎えるためには、まだまだ膨大な量の薪が必要になるんだが。寒くちゃ穏やかにもなれんわな。

というわけで、俺はこの季節になるとそこらじゅうでやってる薪割りの仕事を受けるようになるのだが。

この日ギルドで受注した薪割りはいつもの製材所での業務ではなく、ギルドの修練場そばが現場になっていた。

「うわぁ、なんだこの薪材。なっげーな」

「製材所の新人の方が切り方を失敗したらしくてですね、中途半端な長さの玉切りが沢山出てしまったそうなんですよ。明らかに長過ぎますよね? こんなのギルドの大きな暖炉くらいじゃないと入りませんよ」

「だからこれをギルドで買い取ったわけか。その新人ってのは叱られただろうなぁ」

「怒鳴られたり殴られたりしたみたいですよー。まぁ、うちはそんな薪材を比較的安値で買い取ったので、ありがたいくらいなんですけどね」

受付嬢のエレナに案内されてやってきた古い倉庫には、奇妙な長さの薪材が山と積まれていた。

普通の薪よりも1.4倍くらい長い。正直これを単体で一個見せられても薪用とは思えないくらいの長さだ。

こいつをここから更に半分に切っても短すぎるし手間だ。なるほど確かに使い勝手が悪い。

レゴールのギルドの暖炉が謎にデカいサイズでなけりゃ消費に困っていたかもしれないな。まぁ風呂屋とかパン屋とか、薪にすれば使える施設は他にも色々あるんだろうけど……。

「問題はこれを薪にするのが大変なんですよね。変に長いせいで割るのが大変で、製材所もやりたがらなかったみたいなんです」

「バロア材は詰まってるからなぁ……だからギルドはそのままの玉切りを格安で買ったわけか」

「ええ、これを割るのはギルドマンの方々に任せることにしました。……本当はアイアンの方に任せるつもりだったんですけどね」

「誰もやらないと」

「ええ……」

何日か様子を見ていたものの、受注するギルドマンがいなかったらしい。まぁそりゃそうだわ。

「安すぎるんだよ報酬が。寒くなってきたとはいえ、まだ秋だぜ? そりゃみんな森行くだろうさ。誰だよ値段設定した奴は。お前か? エレナ」

「まさかぁ。私にそんな権限あるわけないでしょう。……報酬額を設定したのはミレーヌさんなんですよ」

「あ、そうなのか。じゃあ適正価格だ」

「ちょっと!?」

というわけで今回は無駄に長い薪を割っていく仕事だ。

すぐそこがギルドの修練場なので、ギルドマン達の訓練姿を見ながら作業ができる。単調な仕事だが退屈せずにやれそうだな。

「じゃあ全部かち割ったら呼びに行くから、そん時に確認してくれ」

「くれぐれも、備品を壊したりしないようにお願いしますね」

「うぃー」

エレナは忙しそうにパタパタと走って去っていった。

……さて、薪割り頑張るか。頑張るって言うほど大変でもなんでもないけどな。

「おらぁーッ!」

「まだまだぁっ!」

「踏み込みが甘いんだよっ!」

「くらえーっ!」

アイアンクラスのガキ共の威勢の良い声を聞きながらパカパカと薪を割っていく。

確かに薪は長いし打点が高くなったせいでちと違和感はあるが、俺の腕力をもってすれば特に苦労することもない。ぼけーっとパカパカしながら時折ルーキーたちの訓練を眺めるだけの余裕があった。

……ハルペリアは多分、戦争に勝った。防衛戦でこれだけ被害が少なかったのだから多分、和平の条件とかも良い感じになったんだと思う。

で、受けたダメージが少なめで戦争に勝つと国民は単純なもので、めっちゃ勢いづくわけだ。戦ってる最中も勝ってればノリノリになるのだから、終わった後なら尚更だ。

俺たちは強い。俺たちは勝った。先祖代々の土地を守り抜いた。そんな高揚感が残るわけだ。実際に戦地に赴いてもいないような奴にもそういう心理は湧いてくる。

そうなると「厭戦感情? なにそれ? 俺も兵士になりてえ!」みたいな感じでパワーを求めちゃうような連中もウジャウジャ現れるわけですわ。向こうで訓練してるガキたちもそんな感じだな。実際、例年はここまで修練場は賑わうことはない。明らかに戦争が影響していると思う。

まぁ、根無し草のギルドマンにとっては対人戦闘能力を磨いて兵士になるのは正統派の出世コースではあるからすげーマトモな連中ではあるんだけどな。

……けど元日本人としては、その前にちゃんとした教育を受けさせてやりてーなって思っちゃう時が多い。手に職をつける機会っていうか、技能職でもなんでも良いから可能性の幅を広げるチャンスっていうのかな。そういうものが与えられてて欲しいと考えちまうんだ。

もちろん、そんな世界じゃないってのはわかってはいるんだけどさ。これはただ俺だけが考えてる感傷だ。世界からすりゃバグだな。

「おーいモングレルさん!」

「あー? なんだーウォーレン」

ちょっと暗いことを考えながら薪を割ってると、ウォーレンがこっちにやってきて声をかけてきた。

こいつもさっきまで木人ぶっ叩いて汗を流してたストイックな連中の一人だ。戦争が終わってからは特に色々なギルドマンに声をかけて精力的に鍛錬を積んでいるように見える。

「時間ある? ちょっと俺に稽古つけてくれねぇ?」

「見りゃわかるだろ。今は薪割り任務で忙しいんだよ」

「じゃあ俺も手伝うからさ」

「ほう? じゃあ、俺が割ってったやつを運んで倉庫に入れてってもらえるか。ついでに薪材を俺の近くに並べて補充してくれ。それやってくれるならタダで稽古つけてやるよ。まぁ俺も剣術は素人だけど、それでも良いならな」

「そんくらいなら任せてくれよ」

こりゃ良かった。面倒な工程を省いて割る作業だけに集中できるぞ。

「……なあモングレルさん、この薪長くねえ?」

「なげーよな、なんか製材所の新人かなんかがトチったらしいぞ」

「ばっかでー」

まぁ正直馬鹿っぽいミスだとは思う。

けどこういう馬鹿っぽいミスを時々やらかすのが人間なのだ。

ウォーレンの献身的な働きによって当初の予定よりも随分と早く薪割りは完了した。

しかし終わってみるとウォーレンは汗だくのヘトヘトになってしまった。

俺の割るペースについていくように運搬してたからな。そりゃ重労働だろう。

「はぁ、はぁ……よし、稽古の時間だ! よろしくお願いします!」

「おいおいこんな疲れてるのにやる気なのか。真面目だな」

「おう、そうだぜモングレルさん。俺はシルバーに上がるって決めたんだ!」

ウォーレンがバスタードソードサイズの木剣を構えている。こいつの背丈も伸びてきたし、身体強化無しで振る得物としては丁度良いくらいのサイズだろう。ショートソードはもう卒業したようだ。

木剣とはいえ他人がバスタードソードを使ってると嬉しくなってニチャッとしちゃうな……。

「なかなか良い心意気だウォーレン。そのバスタードソードの長さに慣れればあらゆる状況を素早く乗り越えられるようになるだろう。今日は俺がみっちり指導してやる」

「いや、ロングソードを振れるようになったら俺そっち持つぜ? バスタードソードなんてみんな使ってねーもん」

「よーし、二度とそんな生意気な口が利けねえようにボコボコにしてやるからな」

「え!? し、指導だよな? モングレルさん!?」

「俺からの愛だ。受け取れ」

そういう流れで打ち合いが始まった。

まぁ基本的にはウォーレンに打ち込ませて、疲れたら守らせての繰り返しだな。

向こうが下手な打ち込みをしてきたら体勢を崩すようにベーンと弾き、良い打ち込みだったら素直な防御で対応してやる。打ち合いが長く続けられれば綺麗に戦えてるだろって感じの、まぁちょっと雑な訓練だ。

「うぉおおっ!」

「おー、まぁまぁ良い。まぁまぁ良いぞ。良い感じに性格悪い攻撃できてるぞ」

「はあ、はあ、ぜんっぜん通らねぇッ……!」

「ブロンズ3を舐めるなよウォーレン」

「ぜってーモングレルさんのランクおかしいって!」

「オカシクナイオカシクナイ」

これは俺の持論というか偏見というか、いやそれどころか漫画とかで聞きかじったクソみたいなアレなんだが、疲れた時にどこまで自分の力を発揮できるかが大事だと思っている。

最悪のコンディションで発揮できる自分の実力ってことだな。

マジで実感とかはあまり籠もってない。俺この世界に転生してからすげー疲れるってことがあまり無かったしな。

でも普通の奴が普通に戦場に向かうのであれば、疲れてても動けるっていうのは大事になるだろう。

行軍、戦闘、撤退、なんでもそうだ。疲れてる時にしっかり足並み揃えて行動できる奴こそ重宝されるし、生き残れるのだから。そこらへんはまぁ、実感がなくてもそういうものだろ。多分さ。

疲れて戦闘中に防御を休憩してたらその隙に殺されてましたじゃしょうがねえ。

「タフになれウォーレン!」

「う、おおおおっ! タフってなんだよぉっ!」

おお良い打ち込み。けど、疲れで雑になってきたな……!

「タフってのは疲労しているようで、疲労していないということだぜ!」

「うわっ!?」

最後にカーンと木剣が弾かれ、ウォーレンの手を離れた。

もう半分くらい痺れて握りも甘くなっていたんだろう。訓練はおしまいだな。

「よし、飯食うか。つーか薪割りの報告もしなくちゃな」

「……うわー、手の感覚ねぇー……あ、モングレルさんありがとな!」

「おー。ウォーレンも汗拭いたら酒場来いよ。飯奢ってやるぞ」

「マジで!?」

「薪割り手伝った分くらいはそりゃ食わせてやるさ」

「しゃあっ!」

なんか久々にマトモな剣の稽古やったな。力任せにやることばっかだから相変わらず対人剣術ってよくわかんねーや。

修練場を後にし、薪割りの完了をエレナに報告した。

わざわざ確認作業をするほどエレナも暇じゃなかったのか、というかそこらへんは俺に信用があるからか、その場で報酬を受け取って終わりだった。

あの長い薪は冬場の燃料としてギルド内を温めてくれることになるだろう。一本辺りの長さが結構あるので、補充の手間がちょっと省けるかもしれないな。それが良いか悪いかは使ってみないとわからないところだが。

「ウォーレン、お前兵士になりたいのか?」

「えっ」

酒場でエールを飲みつつ、今日は無駄にお高いギルド製の燻製肉ステーキも食っている。

燻製肉ステーキと言うとなんか美味そうに聞こえるが、肉がパサついてて名前ほど感動しないステーキだ。干し肉に近いものを焼いているから仕方ないが、これでもギルド内で食う肉の中ではそこそこマシな方ではある。

「……モングレルさんにその話したっけ、俺……」

「剣術が“大地の盾”の連中と同じだったからな。あいつらからも稽古受けてたんだろ」

「うん。そうか、剣術でわかっちまうか……へへ、じゃあ俺もうそれっぽく使えてるってことじゃね?」

「知らねーよ剣術とかは。アレックスに聞け」

“大地の盾”はレゴール所属のギルドマンにとって兵士になるための近道だと言っても良い。

正統派のハルペリア軍の剣術を大真面目に扱ってるパーティーだからな。そこから軍や衛兵に引き抜かれる奴は多い。実際、あのパーティーはちょくちょく軍と人員を交換するかのように人が入れ替わったりしてるしな。

「……うん。まぁ、戦争の後さ……俺はモングレルさんと一緒で補給だったから戦場らしい戦場は見れなかったけど……世話になってた先輩のランディさんが死んじゃっただろ。それで色々考えたんだよ。……どうせ戦うなら、ああいう人みたいに、国を守って死にてえなって」

「国を守って……か」

「攻めてきたサングレールの敵兵をぶっ殺して、ハルペリアのみんなを守る。軍人が偉い人ってのは昔から知ってたけどさ、戦争で実際にそういう人たちの活躍を聞いたり、頑張った話を聞いたらさ……すっげー憧れたんだよ、俺。そういうのに。英雄っていうのかな」

「……だな」

国を守って戦い死んだ男。それはまさしく、英雄だ。そうだな。その通りだ。

「それまでは金稼いで美味いもの食ってさ、時々……いや、ちょくちょく綺麗な女の人がいる店にいけたら良いなって考えるだけだったんだけどさ。兵士になりてえなって思ったんだ……変かな?」

「変じゃねえよ。……それは多分、立派なことだぜ、ウォーレン」

「そう? へへ、そうか。そうだよな」

子供が教育を受けず即軍人を目指す。いやーまぁ俺個人としちゃ複雑だけどね。この国の基準で見りゃ根無し草のギルドマンがそう志すだけで超良く出来てると言わざるをえない。立派だよ。

「……けど別に、ランディさんみたいに死にたいってわけじゃないぜ? できるなら死にたくねえし、ずっと生きてたいし。ただ、そういう生き方をしてみてぇなって思ったんだ」

「軍人は厳しいぞ?」

「んー厳しくても頑張る! ……できるだけ。で、まずはそのために“大地の盾”に入ろうと思って、色々やってるんだ。あそこが一番、俺のやりたいことに近いことをしてるんだぜ。けどパーティーの入団試験が結構厳しいって噂だから、すげー練習してんだ。……でも通るかな……そろそろなんだよなぁ試験……」

ウォーレンの眼はキラキラと輝いている。

若いからというだけじゃない。夢を持った若者特有の、熱のある瞳だった。

……残酷な世界の過酷な現実を垣間見るようではあるが、それは紛れもなく夢だ。

そしてウォーレンはその夢を追いかけようとしている。

夢を追いかけている人ってのは……それだけで誰も邪魔しちゃいけないくらい幸せだ。

「受かると良いな、入団試験」

「おう! 受かったら馬にも乗れるし、すげー楽しみだよ。なってみてぇなぁー……馬上騎士ってやつ……」

ここで“気楽なギルドマンはいいぞ”ってアドバイスするのは、まぁ野暮ってもんだよ。

人間は夢を語っている時が一番楽しいんだ。

「ウォーレン、馬に乗ったことあるか?」

「まだ無いんだよな俺。モングレルさんはあるのか?」

「一応しがみつけるぞ」

「乗れてはいないんじゃん!」

「一時期練習してたんだけどなぁ……上手くなる前になんか飽きちまったんだよな……」

「それ苦手ってことじゃねーの?」

「諸説あるな……」

まあ、普通の人間は“荷物を背負って馬より早く走れば良い”っつー結論にはならんからな。

「あー……もっと強くなりてぇー……世界一強くなりてぇなぁー……」

ウォーレンは飲みかけのエールを片手に、そんな世迷い言を零していた。

「男として生まれたからには、誰でも一生のうち一度は夢見るよな。わかるぜウォーレン」

「だよなー……モングレルさんもそう思うよなー……」

「俺はもう世界一強くなっちまったけどな」

「マジかー……」

「世界一強い俺から稽古をつけてもらったんだ、お前も世界で二番目くらいには強くなれるさ」

「譲ってくれよぉ世界一……」

「駄目」

俺が寿命で死んだ後になら世界一を襲名してもいいぞ。それまでは誰にもやらん。