軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話(シャノーラ視点)

「お世辞なんかじゃないってば。国全体をカバーするような結界が張れるのは、少なくとも私が知る限りじゃ、私と、あなただけよ。それって、けっこう凄い才能ってことじゃない?」

「それはまあ……そうかもしれないけど……」

「それにシャノーラは、私より責任感あるし、やっぱり、真の聖女はあなたの方だと思うわ。だいたい私、こんな国、別にどうなってもかまわないし」

「ま、またそういうこと言う……一応は自分の生まれ故郷なのに、そこまで愛国心がないのは、逆に凄いわ……」

「あっ、それよそれ、愛国心! 愛国心のない私が、国を守る『聖女』だったのが、そもそもおかしいのよ。で、あなたには、その愛国心がある。そんなふうに、ゲッソリ痩せちゃうまで、必死に結界を張ってたくらいだもんね。私なら、絶対適当なところで逃げちゃうわ。あなたのそういうところ、嫌味じゃなくて、本当に凄いと思うわよ」

「それはどうも。でも私の能力じゃ、聖女として、ずっと役目を果たしていくことはできそうにないわ……私、これから、国王陛下のところに行って、正式に辞意を……」

「ちょい待ち。諦めるのは、まだ早いわよ。シャノーラ、ちょっと、手を出してくれる?」

「えっ?」

お姉様に言われるがまま、私は手を差し出した。

その手を、お姉様はそっと握り、軽く魔力を込める。

「私ね、聖女に選ばれた時から、ちょっと考えてたことがあるの。……今こうして、あなたの手――そして、あなたの魔力に直接触れて、その考えは、ほぼほぼ確信に変わったわ。私とあなた、二人の力を合わせれば、もしかしたら、結界を『固定化』できるかもしれない」

「固定化? それって、どういうこと?」

「あのね、魔力には、人それぞれの個性があって、私の魔力とあなたの魔力は、正反対の性質を持ってるのよ。ほら、魔力そのものの色が全然違うでしょ?」

そんなこと言われても、私にはさっぱりわからない。

魔力を具現化した『結界の色』ならともかく、『魔力そのもの』に色があるなんて、考えたこともなかった。やはり、天才の見ている世界は、凡人とは全く違うのだろう。

しかし、お姉様の言う『結界の固定化』には興味がある。

私は、よくわからないながらも頷き、話の続きを促した。

お姉様は、軽やかに説明を続行する。

「で、性質の違う魔力を混ぜ合わせれば、通常とは違う、特殊な反応を引き起こすことができるの。私の予想では、私とあなたの、正反対の魔力をミックスすることで、これまでは、ずっと魔力を流して張り続けるしかなかった結界を、ドームみたいに物質化し、固定できるはずなのよね」

「そ、そんな凄いこと、できるの!?」

「たぶんね。前からずっと、試してみたいな~って思ってたんだけど、ほら、昔のあなただったら、私と協力して何かをやるなんて、絶対お断りだったでしょ?」

「そ、それは、まあ……」

「ね? さあ、試してみましょう。シャノーラ、私が張っている結界に、満遍なく自分の魔力を流し込んでみて。スポンジケーキに、クリームを塗りたくるようなイメージでね」

「あっ、その例え、分かりやすいわ。よし、やってみる」

『フワッ』とか、『グ~ッ』とか、抽象的な例えじゃなくて良かった。

これなら凡人の私でも、理解できる。

私はお姉様に指示された通り、結界全体を、私の魔力でコーティングしていった。

……そして、数分後。

なんと、お姉様の予想通り、『結界の固定化』は、見事に成功したのである。

「やった……やったわお姉様! 凄い……こんなことができるなんて、まるで奇跡だわ! 凄い、凄いっ! 凄すぎるっ!」

大はしゃぎする私と違い、お姉様はそれほど驚いた様子もなく、微笑んだ。

「まあ、理屈上は、できると思ってたからね~。だって、シャノーラは優秀だもの。私の作った結界を、満遍なくコーティングできる、正反対の性質を持った魔力の持ち主なんて、きっと、世界中探したって、あなただけだわ。二人が力を合わせたから、できたことよ」

「お姉様……」

「さて、私は国を追放された身なわけだし、また出ていくわね」

「えっ……」

「まだ食べ歩きツアーの途中だし、今すぐ戻れば、合流できると思うのよね。それじゃ、シャノーラ、元気でね。あっ、そうそう。結界を固定化したとはいえ、結界をコーティングしている魔力は有限だから、一週間に一回くらいは、新しい魔力をドババーって流すのよ。そうしないと、全部ゼロになっちゃうからね」

そう言って、踵を返したお姉様を、私は引き留めた。

「あ、あのっ、待って、お姉様。……私、国王陛下に、直訴するわ。お姉様の追放を、取り消してもらえるように。だから……」

国に残ってほしい。今まで、くだらない自己顕示欲とライバル心で、敵対視しかしてこなかった分、お姉様と、もっと話がしてみたい。

……と、そこまで言うのは、なんだか気恥ずかしくて、私はうつむき、黙ってしまう。そんな私に、お姉様はニッコリ微笑んで、言った。

「心配しなくても、旅行が終わったら、戻って来るわよ。一応は故郷だし、可愛い妹のいる国だからね。そしたらまた、色々と話しましょう。それじゃあね、シャノーラ」

そしてお姉様は、再び国を出た。

とてつもないことを成し遂げた後なのに、誇る様子も、少しの疲れもない。まるで、近所に出かけていくような、ごく自然な旅立ちだった。