軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55.クビになった補佐官と愚かな四天王6

超勇者ローレンスによって、北壁およびイリーガルは撃破された。

一方その頃。

魔王国の最奥、魔王城にて。

「イリーガルめ、なにをやっているのだ……あの愚か者めがぁ!」

謁見の間の玉座に座るのは、魔なる者たちの王。

彼は怒りに体を震わせる。

イリーガルの敗北、そして北壁の陥落は、【彼】の口から告げられたのだ。

そう、目の前に立つ、仮面をつけた【悪神フョードル・ドストエフスキー】によって。

「だから言ったではありませんか魔王様。四天王に報連相を徹底させておかないとと」

「やかましい! くそっ! あの使えぬバカのせいで、北壁が解放されてしまった……!」

やれやれ、とドストエフスキーはため息をつく。

「困りましたねぇ。奈落の森の獣たちもみな魔王国へ尻尾巻いて逃げてきています。北壁は壊された状態。つまり、人間達は入りたい放題ってわけです」

「ええい、忌々しい……! 超勇者ローレンスとその仲間達め……!」

ガンッ! と魔王が床を踏みつける。

「どうします? 超勇者用の兵器はまんまと向こうに獲られてしまいましたけど?」

「フンッ……! まだだ。誰が超勇者用の最終兵器が一つだけといった?」

にやり、と魔王は不敵に笑う。

「あらら、まだあるんですねー。今度は獲られないといいですけど」

「ハッ! そんなわけなかろうが。残り3つの秘密兵器は絶対に獲られることはない。これらをつかい、必ずや、超勇者を倒してみせる!」

「なるほどなるほど……ちなみにその残り3つの秘密兵器の場所はどこにー……って秘密ですよね。わかってますからにらみつけないでくださいよ。」

フンッ……! と魔王は鼻を鳴らす。

「ところで魔王様。少しばかりお耳に入れておきたいことがありまして」

「なんだ? 言ってみろ」

「実は勇者ローレンスとその仲間達に、協力者がいたことをご存じでしょうか?」

「なに? 協力者だと……?」

「ええ。ローレンスは元々はただのひ弱な子供だったのです。それをあそこまでの化け物に育て上げた人材がいるのですよ」

ドストエフスキーの言葉に魔王が興味を抱く。

「誰だ、そいつは? さぞ高名な大賢者か? それとも、【超越者】か?」

にやり、と笑ってドストエフスキーが言う。

「アクト・エイジ。冒険者ギルドのギルドマスターでございます」

ぽかん……と魔王が口を開き、目を丸くする。

「ふ、ふは……ふははははは! ドストエフスキーよ! 面白い冗談だなぁ!」

魔王は腹を抱え、涙を流しながら笑う。

「ひ、ひぃ……! た、たかが冒険者ギルドのギルドマスターごときが? 北壁をぶっ壊すほどの人材を作り上げることができると? ぷぎゃははは!」

ドストエフスキーはコケにされたというのに、笑みを浮かべていた。

「どこの三文小説家が書いた設定だ? え、ドストエフスキーよ」

「まぁ信じるかどうかはお任せしますよ。とにかく、忠告はしましたからね。しくじることなきようにと、【あのお方】もおっしゃっておりました」

魔王は涙を拭いて、真面目な顔で言う。

「わかっておるわい。まだ四天王は3人おる。さらに秘密兵器がまだ3つもある。イリーガルが欠けたところで、我が軍になんら影響ないわい」

「そうだといいんですけどね。では」

手を振って、ドストエフスキーはその場から転移する。

魔王城を出て一人歩いていると、夜道にフードをかぶった、7人が現れる。

「出迎えご苦労様です。……え? 首尾ですか。上々ですよ」

魔王城を振り返り、ドストエフスキーは愉快そうに笑みを浮かべる。

「愚王はまだ、【彼】の脅威に気づいていない様子でした。ま、当然と言えば当然の反応ですかね」

「…………」

「このままでいいのかって? ええもちろん。何もせずとも、超勇者ローレンスは魔王軍をほろぼそうと、敵を排除しながらここへ進軍していきます。さすれば、私の言葉が真実だったと気づくでしょう」

くすくす、と愉快そうに笑う。

「さて、手遅れになる前に、私の言葉が真実だと気づけるかどうか。見物ですねぇ」

ドストエフスキーは7人を引き連れて、夜の闇へと消えていったのだった。

北壁を撃破した、その日の夜。

ギルドマスター・アクトは、王都郊外でひとり、たたずんでいた。

「マスター。夜風は体に毒でございますよ」

ふわり、とメイドのフレデリカが、アクトの肩にカーディガンを掛ける。

「こんな夜更けに何をなさっているのですか?」

「そろそろ来る頃合いだと思ってな」

「来る? 一体誰が……?」

そのときだった。

「アクトさぁあああああああああああああああああああああああああん! ぬぅうん!」

黄金の流星が、アクトの目の前に着地した。

「ああ、なるほど……」

「勝ったぞぉおおおおおおおおおお!」

流星の正体は黄金勇者ローレンスだった。

彼は満面の笑みを浮かべて、アクトに抱きついてくる。

凄まじい突進だった。

人間の目では決して追えないスピードで突っ込んでいく。

だがアクトはそれを華麗に避けてみせる。

当然、ローレンスは勢いそのまま、またどこぞへと消えていった。

「ギルマスー!」「アクトさーん!」『帰ってきたっすよー』

見上げると、漆黒の邪竜が空に浮かんでいる。

その背にはウルガーを始めとした勇者パーティが乗っていた。

「やりました、ギルマス! 北壁のイリーガルを倒しましたー!」

ヴィーヴルの背から降りた、魔法使いイーライが、アクトに抱きつく。

「よくやった」

「えへへっ♡」

残りのパーティメンバー達も降りてくる。

「皆、ご苦労だったな」

「ふんっ! ま、僕らにかかれば四天王なんて、楽勝だったがね」

さらっ……とウルガーが銀髪を手で払って言う。

「調子乗らないの」

「そーだよ、ギルマスの教育と作戦がなきゃあたいらも王都も終わってたところなんだし」

今回の作戦は、すべてアクトが描いたものだった。

ヴィーヴルの価値を見抜き、取り戻しに来るであろう兵士と北壁を引き離す。

そして強襲。見事、誰一人傷付くことなく、北壁を破壊するという偉業を成し遂げた。

「全部ギルマスのおかげよ。すごいわ、ほんと」

回復術士ルーナが感心したように言う。

「さすがギルマス! 何もかも計算通りなんて!」

イーライは感激したように、目をキラキラさせる。

「ふんっ! 勘違いしちゃあ困るよ。実行部隊はあくまで僕らなんだからね!」

「ウルガーさん……あんたほんとぶれないっすね……」

しかし当のアクトはというと、さも当然のように言う。

「勘違いするな。これは貴様らの手柄だ。俺はあくまで助言しただけに過ぎん」

「お、おう……な、なんだい、それはそれでちょっと……ちょっとはギルマスの手柄でもあるかな……うん……」

「どっちなんすかあんた……」

ヴィーヴルがため息をついていると、ローレンスが戻ってきた。

「ただいま!」

「おかえりって、ローレンス、あんたどこにいたの? 真っ先に帰ったくせに」

「うむ! アクトさんに抱擁しようとおもったらな、避けられてしまって! そのままぐるりと星を一周して帰ってきたぞ!」

唖然、呆然とする勇者一行。

「ローレンス」

アクトは超勇者に近づいて、その肩を叩いた。

「よくやった」

じわ……とローレンスが目に涙を浮かべ、さめざめと泣く。

「うぐ……ぐす……アクトさん……おれ、おれ……うぉおおおおおおお!」

感極まり、ローレンスがアクトを抱きしめようとする。

だがアクトはそれをまたひょいっと避けた。

「酷いぞ!」

「俺をミンチにする気か貴様」

北壁を一撃で破壊する 膂力(パワー) がローレンスにあるのだ。

当然、非力なアクトの体では潰れてしまうだろう。

「貴様ら、本当によくやった。貴様らを育てることができたこと、俺は誇りに思う」

「「「「ギルマス……」」」」

その場にいる全員が、感涙を流す。

ウルガーが一人号泣していた。

「これにて俺の仕事は終わりだ。後は貴様らに任せる」

きびすを返し、アクトはその場を去ろうとする。

「そ、そんな……! ギルマス! まだぼくたち……まだ教わってないことが山ほどあります!」

「そ、そうよ! あと四天王3人もいるし、魔王だって……ギルマス、もっとアタシたちを鍛えてほしいわ!」

だが、アクトは立ち止まり、振り返ると……厳しい表情で言う。

「甘えるな」

その迫力に気おされ、勇者パーティはビクッ、と体を萎縮させる。

「いつまで俺の力に頼るつもりだ? そもそも貴様らは俺のギルドを追放された身ではないか」

「そ、それは……そうです、けど……」

「で、でも……今回は手を貸してくれたじゃない?」

フンッ、とアクトは鼻を鳴らす。

「勘違いするな。それは貴様らが、見るに堪えないほど弱かったからだ」

一方でヴィーヴルは「え? ギャグ? これギャグっすか?」と困惑していた。

「そんな弱い貴様らが魔王軍に挑み、負けでもしてみろ? 育てた俺の評判が落ちるではないか。だから手伝っただけに過ぎん」

アクトはパーティメンバー達を見渡す。

「俺の仕事はもう終わった。次は貴様らが自分の仕事をこなす番だ」

勇者の仕事、つまり、魔王を倒し世界を救うこと。

それは、アクトの役割ではない。

「まだ人に頼らねばならないほど、勇者パーティとは軟弱な集団なのか?」

アクトの言葉を聞いて、パーティ達の顔つきが変わった。

「言ってくれるじゃないかい、ギルマス。僕らが軟弱? ハッ! バカ言ってもらっちゃあ困る。四天王を倒すほどに僕らは強くなったんだ。そうだろう、みんな!」

こくり、と力強く、勇者の仲間達はうなずく。

みな、その瞳に強い決意の炎を宿していた。

「アクトさん」

ローレンスは皆を代表して、一歩前に出る。

「今まで、本当にお世話になりました!」

深々と、勇者は頭を下げる。

仲間達もまた彼に続く。

ローレンスはアクトに背を向けて、仲間達に檄を飛ばす。

「みんな! これから先、なにがおきるかわからない。困ったときにアクトさんがいるなんて、今回みたいな幸運はまたとない!」

だから! とローレンスは続ける。

「この先は、我らだけで立ち向かうのだ! アクトさんに鍛えてもらった能力を使い、知恵と勇気をふりしぼって悪と戦い、そして平和と勝利を勝ち取ろう!」

「「「おう!」」」

アクトはもう、振り返ることはなかった。

宿へ向けて、歩を進める。

「さすがですね、マスター」

フレデリカは後ろからついてくる。

「魔王四天王を倒し油断している彼らに、あえて突き放すようなことを言って、気を引き締めさせるなんて」

「勘違いするな。俺は使命も果たさず浮かれているあいつらに腹が立っただけだ」

彼女は微笑んでうなずく。

「わかっていますよマスター。あなたの不器用な優しさを。わたくしだけでなく、彼らもまた」

フレデリカが後ろを見ると、勇者パーティ達はこちらに向かって、お辞儀をしていた。

だがアクトは決して振り返らない。手も振らない。笑みも見せない。

それが、アクトなりのエールの仕方だと、その場にいた全員が理解しているから。

「帰りましょう、マスター。我らが原石達のもとへ」

「ああ。そうだな」

翌日、アクトは荷物をまとめ、王都を去ったのだった。