軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

126.ブラック錬金術師ギルドを追放されたポーション師5

アクトのギルドに所属することになった、ポーション師のショーン。

彼を追い出したギルマス、バクマンは……現在頭を抱えていた。

ギルマスの部屋にて。

「くそ……! 返品、返金の数々……慰謝料の支払い……借金まみれだくそっ!」

バクマンのギルド【栄者の碧玉】は窮地に立たされていた。

ショーンが抜けたことで、ギルドが製造していたポーションの質ががた落ちした。

結果、各方面からクレームの嵐。

慰謝料の請求は毎日のようにやってきて、さらには得意先からも呆れられる始末。

頼みの綱のショーンに頭を下げにいったが、彼はこちらの言葉に耳を貸してくれなかった。取り付く島もなかった。

結果、多額の借金を抱え、にっちもさっちもいかない状態である。

連日借金取りがこのギルドを訪れては、金を返せと怒鳴り散らしている。

今はまだ、なんとかなるが、エスカレートすれば命の危険すらあった。

「どうすれば……もう、首をくくるしかないのか……?」

と、そのときだった。

「それはまだ早すぎるな」

声のするほうを見やると、黒髪のギルドマスター、アクト・エイジが腕を組んで直立している。

「き、貴様! わしのギルドに何しにきた! 部外者はすっこんどれ!」

バクマンが怒鳴り散らすもしかし、アクトは表情に微塵も動揺を見せなかった。

ふん、とアクトは鼻を鳴らし、バクマンを見下ろしながら言う。

「部外者? 勘違いするな。ここは、俺のギルドだ」

「なっ!? ど、どういうことだ!? 俺のギルドとは!?」

ふんっ、とアクトは鼻を鳴らす。

「おいショーン。見せてやれ、この愚かな男に」

「……あ、えっと……はい……」

「ショーン!? 貴様なんで……そうか、追い出された後アクトのギルドの所属となったのだな!?」

アクトの影に隠れていたのは、気弱そうな少年、ショーンだ。

どうやらショーンはアクトの助手として呼び出されたようだった。

ショーンはポシェットから取り出した羊皮紙を、バクマンに見せる。

「こ、これはギルドの権利書!?」

「そう、貴様が借金をするさいに、金貸しに担保として提出した権利書だ」

「な、なんで貴様が持っているのだ!」

「俺が買い取ったのだ。貴様、契約期間内に金が返済できずにいるようだな」

「ぐっ……! か、返すつもりだったさ!」

「どうだかな。少なくとも金融機関からの信用はゼロだったぞ。俺が高値で買い取ったら大いに喜んでいたなぁ」

アクトがニヤリと笑う。

さすが悪徳ギルドマスターと呼ばれるだけあって、笑ったときの外見は、悪人のそれだった。

「か、返せ! 権利書を!」

バクマンはショーンの持つ書類を奪おうとする。

びくっ、とショーンが怯えるが、遮るようにアクトが前に立つ。

ギロリ……と彼に一睨みされただけで、バクマンは気おされてしまった。

肉食獣ににらまれていると一瞬錯覚するほどに、彼の眼力は半端ではなかったのだ。

「バカ言え。この権利書の所有者は俺だ。つまり……このギルド、ひいては貴様の生殺与奪の権利を握っているのは俺だ。そんな口をきいて良いのかな……?」

アクトはショーンから権利書を受け取ると、にやっと笑って言う。

「貴様のギルドの全ては今、俺の手にある。逆らえばどうなるだろうな?」

「く、くそ……!」

強く出たくても相手はギルドの権利書を持っている。

つまりアクトにギルドのすべてを奪われている状態だ。

彼がクビだと言えば、たとえギルドマスターのバクマンすらクビにできる。

「さて……バクマンよ。俺も鬼じゃ無い。条件次第じゃギルドを貴様に返してやってもいい」

「な、なに!? 本当かっ!」

「ああ、もちろん」

「条件を言え! わしにできることならなんでもするぞ!」

「そうか。では言おう」

アクトはニヤリと笑って言う。

「権利書を貴様らに返す。だが、バクマン、貴様はギルドから出て行ってもらう」

……一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。

それはショーンも同様だった。

「あ、あのぉ……それって、何の意味があるんですか?」

アクトはうなずいて答える。

「ギルドは現在俺、アクト・エイジの持ち物。つまり外部の人間に権利が渡っている状態だ。しかしこの取引にバクマンが応じれば、少なくとも権利書は内部の人間の手に渡る。誰かに勝手にギルドを売り飛ばされるような心配はなくなる」

たしかに、とショーンは納得する。

だが1人だけ不満を爆発させるものがいた。

「ば、バカ言うな!」

もちろん、このギルドのトップであるバクマンだ。

「栄者の碧玉は! わしのギルドだ! なぜトップが出て行かねばならない? ふざけるなぁ!」

アクトに掴みかかろうとするが、彼にひらりと華麗にかわされてしまう。

無様に倒れ込むバクマンを見下ろしながらアクトは言う。

「ふざけてなどいない。貴様がギルドを大事にしているなら、この取引に応じるのが一番だろう。こんな、悪徳ギルドマスターの手に権利があるよりは、ギルドの連中に渡した方が良い」

「しかし! しかしこのギルドはわしのものだ!」

「ふんっ。愚者め。そんな愚かな考えしか持たないから失敗したのでは無いか?」

「ぐぬ……!」

バクマンは何も言い返せなかった。いくら言葉を重ねても、彼が失敗したことは事実なのだ。

「ショーンの有能さに気づけず、彼の努力を認めず、追い出すことに成功したと思ったら彼がギルドを支える根幹だったことに今更気づくなんて。全くもって愚かだな貴様は」

「うぐう……」

一方的に正論を並べ立てられ、バクマンは何も言えずにいた。

それを見ていたショーンは、彼が少し可哀想に見えてきた。

「彼の有能さに気付いて戻ってこいだと? 恥ずかしくないのか貴様は?」

「あ、あの……ギルマス……?」

ショーンがおずおずと手を上げる。

「そこまで……言うことないんじゃ、ないですか?」

「ほぅ……貴様、俺に楯突くのか?」

アクトは目をほそめて言う。

ショーンはそれだけで怯えてしまったが、ふるふると首を振る。

「貴方に意見してるわけじゃないです。ただ……わざわざ間違えを蒸し返さなくってもいいじゃないですか。誰だって失敗することくらいあります」

「ショーン……おまえ……」

この少年は別に、バクマンを恨んではいなかったのだ。

「貴様、この男をなぜかばう? 貴様を追い出した酷いヤツだぞ?」

アクトに問われて、ショーンはハッキリと自分の考えをのべる。

「確かに理不尽な追い出しでしたけど……祖父が死んで、行き場の無いぼくを拾ってくれたのは、バクマンさんでした」

「……ショーン」

ギルマスへの恩義がショーンのなかにはきちんとあったのだ。

バクマンはそんな彼の優しさに打ち震える。そして、追い出してしまったことを心から後悔した。

「……すまん」

「バクマンさん……」

アクトは2人を見て、ため息をつき……そして言う。

「ショーン。貴様はクビだ。今日限りで出て行け」

「「なっ……!?」」

突然の解雇宣告に、ショーンはおろかバクマンすら驚く。

「なぜショーンがクビになるのだ!」

くってかかるバクマン。

一方でアクトは冷静に返す。

「なぜ貴様が憤る?」

「うるさい! それよりなぜだ!」

「決まっている、こいつはもう……不要になったからだ」

「不要……そんな……」

ショーンが気を落とす。必要がなくなったから捨てる。それは、バクマンにやられたことと同じだった。

彼にとっては心の傷となっている部分に、拾い上げたアクトがまた触れた形になる。

ぎゅっ、と唇をかみしめるショーンに、バクマンが声を荒らげる。

「ふざけるな! 必要がなくなったからと言って追い出すだと! そんな非道が許されるものかっ!」

それは心から出た言葉だった。

「……あ」

そして、バクマンはようやく気付く。

自分のしたことの愚かさを。追放されたものが、どれだけ心を痛めるかを……。

ショーンへ心を開いたことで、理解したのだ。

「ようやく気付いたか、愚か者め」

アクトは懐から解雇通知を手に取って、ショーンに投げて寄越す。

「貴様はクビだ。だが、次の就職先は用意した。そこへいけ」

「こ、これって……」

就職先は、栄者の碧玉。つまりバクマンのギルドだった。

「権利書も貴様にやろう。退職祝いだ。つまり今日からギルマスはショーン、貴様だ」

「ぼ、ぼくが……ギルマス!?」

突然のことに目を剥くショーンに、アクトは言う。

「ああ。だからそこのゴミを拾うかどうかは、貴様に任せる」

ゴミ、つまりバクマンのことだ。

「バクマンさん……」

ショーンは真面目な顔で、ぺこりと頭を下げる。

「どうか、いっしょに働いてください!」

「ショーン……」

「ぼくじゃ、ギルドを回す事なんてできません! だから……だからいっしょに仕事しましょう!」

捨てられたというのに、この少年はどこまでも……お人好しだった。

バクマンは反省した。この心優しい少年を追い出してしまったことを。そして……もう二度と、傷つけまいと。

「ああ、わかった。わしは貴様の下につき……支えるとしよう」

「はい! よろしくお願いします!」

ショーンは次にアクトの方を向くと、頭を下げる。

「ありがとうございます、アクトさん!」

「なんだ、急に?」

「これも……全部アクトさんのシナリオだったんですね。ぼくと、バクマンさんを仲直りさせるための……」

ふんっ、とアクトは鼻を鳴らす。

「勘違いするな。俺は冒険者ギルドだけで手一杯なのだ。錬金術師ギルドなどいらんから、クビになった貴様にくれてやっただけだ。ゴミを拾ったのも貴様の選択だ。感謝されることはない」

アクトの言葉に、しかしショーンはニコニコしながら答える。

「やっぱりギルマスは、優しい人ですね!」