軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第84話、何でコイツは裸なんだ?

昼前には王都に到着する。コメット号の速度を以てすればこんなものだ。ここ数日、天気がよくて、走らせるほうも気持ちがいい。

ソウヤの視界には、ここ数ヶ月で慣れ親しんだ街道の景色が広がっている。慣れている道と言うと、どこか安心するものだ。王都もさほど遠くない。

林に差し掛かる。盗賊などが潜んでいるかも、と疑うのが普通だ。だが何度も通っているうちに、銀の翼商会があらかた片付けてしまっているので、ほとんど敵が現れることはない。

しかし――

「おや……」

何やらトラブルの臭い。正面に倒れている人らしきもの。――魔獣にでも襲われたか?

荷台に乗るミストも何か感じたか警戒する。ソウヤは速度を落として、ゆっくりと近づく。

「魔獣か、はたまた盗賊か……」

血の臭いが鼻をつく。

「うっ」

ソフィアが鼻を押さえた。街道脇に倒れていたのは、血まみれの死体。それもひとりや二人ではない。複数だ。ミストが視線を走らせる。

「どこかの戦士かしら?」

「冒険者……と言うには、服装が揃っているな。何者だ?」

どこかの傭兵か、戦士団だろうか。その死体は、いずれも切断されていた。手や足、もしくは体の一部がどこかに飛ばされていて、この戦士たちが戦いによって倒れたことを物語っている。

――いったい何と戦ったんだ……?

見たところ敵らしい者の姿はないが。

「ミスト、何かわかるか?」

「この辺りには、他には何もいないわね。あ、でも――」

ミストが一点を指さした。

「あの男、まだ息があるようだわ」

生存者か。そこに目をやった途端、セイジが「わっ」と声を上げ、ソフィアも「きゃっ」と目を手で覆った。

「な、何よあれ、は、はだ――」

「裸だな」

ソウヤも、それを見て眉をひそめた。

死体が散らばる中、ひとり、全裸の男が横たわっていた。深く傷を負っているようで、周りに流れ出た血などが見える。

息があるよう、とミストは言ったが、遠目からでは本当に生きているかはわからない。重傷のようで痛々しいが、何故、裸なのかさっぱり理解できなかった。

ソウヤはバイクを停めて、生存者とおぼしきそれに近づく。他の死体が原形を留めていないものばかりの中、それだけが手足もきちんとついていて、両断された痕もない。

「ほう……」

近づいたソウヤは、片膝をついて、男の脈を確かめる。跳ねた土や血がついているが、若い男だ。二十歳そこそこ、プラチナブロンドの髪の青年である。そして割と美形。

「……」

脈を確認。生きている。ソウヤはポーションを使い、応急手当。ついでにアイテムボックスからマントを取り出し、とりあえずかけてやる。

――彼が目を覚ましたら、予備の服を貸して自分で着てもらおう。

「どう?」

ミストがやってきた。ソウヤは肩をすくめる。

「さあな。目覚めないことにはどうにもならん」

ただ、この青年。細身で長身だが、鍛えられた体をしていて、その身体能力は高いと思われる。

「こいつも戦士か、とにかく戦う職業の人間だろうな」

「どうする?」

「ポーションを与えたし、そのうち目覚めるだろう。それまでは、遺体を片付けておこう」

「ひとつ、お知らせがあるのだけれど」

ミストが林の奥を睨んだ。

「血の臭いを嗅ぎつけた獣が集まってきているみたいよ。ここの処理を獣たちに任せるという手もあるわよ?」

「死体を食い散らかすのに任せるってか? 冗談」

愉快な解決方法とは言えなかった。

「故人は丁重に扱うものだと、ばっちゃんが言ってた」

遺体はきちんと埋葬。それに、この青年の仲間かもしれないから、彼が目覚めた時、余計なことで恨みを買いたくはない。

「ミスト、一発頼めるか?」

「獣どもを追い払えってこと? わかったわ」

すっと息を吸い込むミスト。ソウヤはセイジとソフィアを見た。

「お前ら、耳を塞げ!」

その警告に、セイジはとっさに両手で耳を守る。

「え、何?」

唐突だったらしいソフィアが問い返したが、説明する前に、ミストがあたり一面に咆哮を響かせた。

竜の咆哮。並の獣は、その場から逃げ出す。

生態系の頂点と言われるドラゴン。その声を聞いて、なお近づいてくる愚かな動物はいない。

ソウヤも耳を塞いでいたが、それでも揺さぶられるような衝撃を感じた。対応が間に合わなかったらしいソフィアが、荷台のそばでうずくまっている。

たとえるなら、近くに雷が落ちたようなものか。人によっては、相当怖い。

「っ……!?」

――あ、男が目覚めた。

とんだ目覚ましになったようで、青年が上半身を起こした。

「ここは……」

「おはよう。生きてるか?」

ソウヤが問えば、青年は素早く周囲に視線を配り、向き直った。

「あんたたちは……?」

「通りすがりの行商だ」

あんたは?――とソウヤは視線で促す。青年は視線を逸らす。さぞモテるだろう顔に浮かぶのは迷い。名乗っていいのか、考えあぐねているという感じだ。

――名乗れないような職業か。

盗賊、犯罪者、あるいは殺し屋とか。

「何故、助けた?」

ポツリと青年は言った。淡々と、感情が感じられないような低い声。――カタギじゃないな、こいつ。

「傷を負った人間を放置しておくようなことはしない主義でね」

ソウヤは答えた。

「人を助けるのは普通だと思うが?」

「……」

青年は、じっとソウヤを見つめた。何を考えているのか、推し量ろうとするかのように。一方のソウヤは、彼が何を考えているのか、その闇色の瞳からはわからずにいた。

「すまない。手間をかけたようだ」

青年は無表情のまま俯いた。

「俺のことは放っておいてよかった。これ以上、面倒になる前に、早々に立ち去ることを勧める」