軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談185話、扱いの難しい話

人を安易に復活させることに、ジンは不安をいだいていた。

「生き物というのは死んだら、それで終わりだ。だから死なないように延命させる。

それはいい。しかし、死者を復活させられるようになると……これはある種の不死とも言える。気軽に甦れるとなると、人は命を大事にしなくなる」

かげかえがないからこそ、大事にする。守ろうとする。だが死なない、甦れることができるとなると、途端に命を粗末に扱い出す。

気に入らないから殺す。大丈夫、問題になったら復活できるから。

「人は弱いから他者を気遣える。自分一人で生きていけるほど強くも賢くもないからだ。他者に頼らなければ人は生きていけないのだ」

わかりやすい例をあげればドラゴンがある。不老不死ではないが、寿命が長く、また易々とは死なない体を持っている。他者を拒み、頼ることなく独力で生きていける。しかし総じて他者に冷淡で、むしろ拒絶する。そしてたやすく命を奪う。

「……と、話が脱線したな。君が友人思いなのはわかる。それは美徳だ。しかし死者を甦らせること、それに関しては色々と複雑な問題でもある」

老魔術師は眉をひそめた。

「倫理的、哲学的にも色々あるのだろう。だが即物的に言えば、仲間が死んだら復活させよう、が当たり前になってしまうのは問題だ。それは自分にも周りにとってもだ」

「……」

「何より復活させることが可能なこと自体、社会に与える影響は大きい。神竜が守護者を置いた理由も、際限なく復活させてほしいと人が押し寄せたから、と言うじゃないか」

「人に言うつもりはないよ」

ソウヤは返したが、ジンは真顔である。

「こういうのは言わなくても、周りが勝手に気づいて騒ぐものだ」

宝くじを億で当てた高額当選者が言ってもいないのに知られて、怪しい連中や聞いたこともない親族が金を求めてくるくらいには。

「……」

「まあ、今回のガルと仲間たちの件は、彼らの死亡自体、知る者はほとんどいない。ひょっこり復活しても、そこまで大きな話にはならないかもしれない」

ジンは言った。

「だからこの件自体、私は反対でもなく、君がやりたいのならばすればいいと思う。だが、頭の中で線引きはしておけよ、と言いたい」

「線引き、か……」

「そうだ。神竜を頼って人を復活させるのは今回で最初で最後だとか、あるいはどこまでの命を救い、それ以外は見送るか」

「人の命に線を引けっていうのか?」

ソウヤは驚く。しかしジンは動じない。

「もうすでにそうだろう? 仲間の命は救う。しかし世の中にはどこかで人は死んでいる。それらに対して知らないからの一言で済ませても、すでに線引きはしている。自覚しようがしまいがね」

老魔術師は淡々と告げた。ソウヤは押し黙る。それはそう、だったからだ。

「本来、命は重いものだ。その価値を軽くしてくれるな。……とまあ、説教を垂れてはみたが、さっきも言ったがラインは決めておいてほしい。覚悟というべきかもな。命の選択をしているという点も」

ジンは立ち上がった。

「あれこれ言ったが、今は神竜が守護者を置いているから、おいそれと復活させるなんてことはできない。が、ソウヤ。君の力であれば神竜と会って、人を復活させられるだろう」

「どうかな、オレは守護者を見たけど、自信はないぜ?」

新たな武器を求めるくらいには脅威を感じている。

「道中どうあれ、結果的に目的は果たすだろう。そしてそれを間違っても人には話さないことだ。どこぞの可愛い娘に、兄弟や姉妹を復活させてほしいと頼まれたら、君は行ってしまうだろう?」

「ぐうの音も出ねえな」

ソウヤは苦笑する。復活の手段があれば、どんな手を使っても叶えようとする者は世の中に大勢いる。

金を積まれたり態度が気に入らなければ突っぱねる自信はあったが、王族とか、あるいは感情に訴えかけてくる者については、確かに断る自信はなかった。

「とりあえず、人生の先達として伝えるべきことは言った。後は君自身が考えて決めることだ」

「何だ、オレの弁明は聞かないのか?」

「ガルたちを復活させる理由か? それは私の与り知らぬことだ。決めるのは君だ。私は君に命令も強制もしないからね」

ジンは立ち去ろうとして、振り返った。

「ただ、話を聞いてほしいというのであれば友人として聞いてもいいが?」

「少し言い訳させてくれ」

「それで君の気が晴れるのならね」

ジンは再び座布団に腰を下ろした。ソウヤは小さくため息をつく。

「アンタの言う通り、復活に関しては慎重に考えるようにする。オレは漫然と考えていたけど、やっぱりこういうのはしっかり線引きしておくべきだ」

「そうだな」

「ガルたちについては、もう助けると決めていたし、今更止めるつもりはない。彼らは復讐を果たした。それを知ることなく逝ってしまった連中にも悲願は果たされたことを知ってほしい。……できれば第二の人生っていうか、復讐の後の人生も生きていてほしいって思う」

「その思考は傲慢だぞ、ソウヤ。他人の生き方にとやかく言うものではない」

ジンは、たしなめた。

「決めるのは、その人本人だ」

「……ああ。そうだな」

ソウヤは頷いた。人に生き方を強制するものではない。

「一つ、言い忘れていたことがあった」

「何だ、爺さん?」

「復活させた人間にも、釘を刺しておくことだ。その身内を復活させてくれ、なんて頼まれるかもしれない。自分を復活させてくれたのだから、いいだろう、なんて頼まれるかもしれない」

「ガルたちに限ってそれは……。ないとは思うけど」

「人間の考え、心の奥底のことなどわからないものだよ」

ジンは告げた。

「もし幼い頃に死んだ妹や弟がいて、それを復活させてほしいなんて言われたら、冷静に断ることができるか? その子たちにも普通の人生を送らせてやりたかった、腹一杯ご飯を食べさせてあげたかった、とか言われたら」

「うっ……。それは」

レーラとかリアハとかが聞いたら『何とかならないか』という目を向けられそうな話に、ソウヤは改めて、この問題の難しさを実感するのであった。