軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談141話、ゴースト・シュストペン

何故か突然、襲いかかってきたミスト。影竜にとって、それは思いもしなかった味方討ちであった。

が、それで躊躇うような彼女ではない。ただミストの動きが、いつもより雑で異質さを感じたら、まあ加減してやるかと考えるくらいには物を考えている。

壁に叩きつけられて、ぐったりするミスト。影竜は頭を掻く。

「加減したんだがなぁ。おっかしいなぁ」

喧嘩友達だから、加減したつもりと気持ちだけだったかしれない。ほんのちょっと、レンガ一個分の加減だったかもしれない。しれないしれないしれない……。

すっ、とミストから幽体離脱したように、それが出てきた。一瞬、本当に殺してしまい、霊が出てきたのかと思った影竜だが、すぐにそれはないと思い直す。

「出てきたか。ミストに取り憑いていた奴!」

ゴースト。

しかしそこらのゴーストとは、負の魔力の濃さが違う。そもそも肉眼で見えるというだけで、それなりに厄介なのがゴースト系だ。

そして目の前のそれは、そんなゴーストの中でも、特に憎念、負の感情が強かった。

「なるほどねぇ。ドラゴンでも取り憑けるんだから、まあ弱くはないわな。触ってもないのに、氷に触れているみたいだ」

影竜は構えた。ゴースト――魔王軍残党幹部、シュストペンは、ぼろいローブを纏う典型的ゴーストの姿だったが、それが手を振りかざすと、怨霊の叫びを放った。

耳を切り裂くような金切り声に、さすがの影竜は思わず耳を塞いだ。ドラゴンでなければ鼓膜を裂かれてしまったのではないか。それだけ不快かつおぞましい声だった。

シュストペンは、ふらっと音もなく突っ込んできた。抵抗がない分、ぬるっと距離を詰めてくる。この異様な軌道は、生物に違和感を与え、恐怖を駆り立てる。

影竜は何とか回避する。あの金切り声がなければ、もっと機敏に動けた。しかしそれよりも、通過したシュストペンのあとにやってきた強烈な冷気が肌を刺した。

「っ! なんという冷たさ! 触ってないのにこれか!?」

死は冷たい。生き物から生命という名の炎を奪い、吹き消してしまう。死の間際に体が冷たくなっていくのは、死神が迎えにきているからだ――と死は冷たいものとして認識されている。

――このゴーストは、他者の認識を取り込んで、物理的にも冷気を操れるようになったか……!

負の感情に汚染された魔力、それがゴーストである。生き物の苦痛、憎悪、怒りなどが魔力に伝染し、形となる。強い感情こそ、ゴーストを生み出すのだ。

存在の濃いゴーストともなると、負の魔力を多く取り込み、触れただけで周囲に害をもたらせる。そもそもがこの世界の魔法などの根源である魔力なのだから、そうした魔法的な姿、能力を得ることもあるのだ。

「殴れない奴ってのは面倒だな!」

影竜は、迫るゴーストを掻い潜る。

「こっちは得意じゃないんだが、仕方ない!」

大気の魔力を取り込んで、ドラゴンブレス! 吐き出された炎は、ゴーストを焼き払う。存在自体が魔力の塊。ならばその魔力も燃焼させてしまえばいい。単純だが、ゴースト相手にブレスや魔法が効果があるのは、そういうことだ。

ゴーストは炎に消え、勢い余ってブレスで壁が吹き飛び溶け落ちた。

「ざっとこんなものだな!」

胸を張る影竜。視界の端で、ぐったりしていたミストが起き上がる。

「お目覚めかい? もうこっちで片付けてやったぞ」

ゆらっ、とミストが動いた。次の瞬間、超加速で影竜の懐に飛び込むと、ボディブローが叩き込まれた。

「ぐほっ!?」

「一発は一発よぉ、影竜?」

「てめっ――」

腹を押さえ、思わず膝をつく影竜。これは思い切りいった。

「それが、助けてやったやつに対する態度か……!」

「それでワタシを殴ったことがチャラになると思ってるー? 加減しなさいよね」

ミストが上から見下ろす。影竜は殴られたことも相まって、カチンとくる。

「加減ならしただろうが。しなかったらお前は今頃、臓物爆発で死んでる!」

「あら、ワタシだって加減してあげてるわよ。お相子よお相子」

ヒラヒラと手を振るミスト。影竜は立ち上がる。

「ふざけやがって。大体、ゴーストに取り憑かれるから悪い。自業自得は、そっちじゃないか」

「そうね、油断したつもりはなかったけど、憑かれたみたいね。お礼は言っておくわ。ありがとう」

「おっ、おう」

いきなり感謝され、影竜は調子が狂う。

「でもそれなら、殴らなくてもよかったんじゃないか?」

「言ったでしょう? 一発は一発。ワタシはアナタとは貸し借りなしの関係でいたいのよ」

そう言うとミストは槍を手に先へ進んだ。影竜は、がっつり腹パンされ、まだ足が震えたが、その後に続いた。

・ ・ ・

『恨めしい。恨めしい……』

霊体が揺らめく。ゴーストであるシュストペンの存在は、まだ消えていなかった。影竜のドラゴンブレスを食らった半身は消し飛んでしまった。

だが、シュストペンの体は、まだ半分残っていた。

『恨みを……憎悪を……闇を……』

地底城に漂う感情。ドラゴンの襲撃によって命を奪われた多数の魔族兵、その死に際に感じた恐怖、絶望、怒りの感情を取り込む。

負の感情こそ、シュストペンの力。より強くなり、先の二人に復讐する。まことに、シュストペンはゴーストそのもので動いていた。

「おいおい、あれは……」

部屋に新たな人間がやってきた。二人組――ソウヤとジンであった。

「ゴーストだな。恐らくロードか、キングかもしれない」

老魔術師は、シュストペンを見やり、そう判断した。

「そんじょそこらのゴーストと格が違うが……。どうするね、ソウヤ? 君はこういう敵は得意か?」

「あいにく殴れない奴には、あまり強くないんだ、オレ」

ソウヤは自嘲する。

「爺さんは?」

「私は魔術師だからね。引き受けよう」

ジンは、すっと右手を構えた。

「魔力の扱いについては、本職だ」