軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談129話、地底城へ

ガル・ペルスコットとカリュプスの仲間たちは、いま空にその姿があった。

「ペルスコット家って、飛空艇を持っていたんだなぁ」

オダシューは、そんなことを言った。ペルスコット家所有の飛空艇は、カラスノス号という中型艇である。ここ三年で飛空艇は増えたが、果たしてどこで手に入れたのか。

ともあれ、飛空艇に乗って空の旅――を満喫できる雰囲気ではなかった。

船員は全員、暗殺集団であるペルスコット家の面々。同じ暗殺集団であるカリュプスメンバーにとっては、余所の組織ではあるが、緊張感が半端なかった。

それでなくても、組織の仇である魔族のいる拠点へ殴り込みをかけようというのだ。カリュプスメンバーはギラつき、人生最期になるかもしれない戦いを前に集中力を高めていた。

こんな早くからそれでは先がもたない――オダシューは注意したが、仲間たちは聞いてはいるが、聞く耳を持たないといった雰囲気だった。

仕方ないので、ガルとルフのもとへ移動したのだが――

「お邪魔だったかな?」

「助かった」

ガルは手を振った。

「オダシュー、この女を引き剥がしてくれないか?」

椅子に座るガルの下腹部に跨がるように密着しているメイドさん――ルフである。

――ひょっとして、合体してる?

オダシューが、邪魔していると言ったのはそれが原因だ。服は着ているし、ガルも別にズボンを下ろしているわけではないが、姿勢が男と女がアレにアレで繋がっているようにも見えるのだ。

「そんなことを言って……興奮なさっているじゃないですか、ご主人様」

悪戯っ子のように微笑むルフが、とてつもなく妖艶に見えた。オダシューも当事者ではないのに、下腹部に熱を感じる。久しく忘れていた感覚だ。場違いだが、内心『おれもまだ男として正常なんだ』と安堵した。

「このままいれて、中に注いでもらって、新作のブレンド茶を作りませんか?」

「……ずっとこんな調子なんだ」

ガルがうんざりしたように言うのだ。オダシューもまた、ルフの言葉に、どこかいかがわしいものを感じ、何故そうだろうと考えた結果……ドン引きした。

「すまん、おれもこれはないわ」

オダシューは正直だった。ルフはガルの上半身に体を近づける。

「もう、意地悪なご主人様。……いただけないなら、ここで私がお茶をこぼしてしまうかもしれませんよ? ああ、ご主人様の股の上で、なんて……もう、もう!」

「……」

ガルの冷めた目に、さらにゾクゾクと身を震わせるルフである。オダシューはもはや言葉もなかった。

ここまでの彼女を見る限り、ペルスコット家でも有力な存在で、他の者たちに指示していたから上位だと思っていた。……実はペルスコット家の表のボスであることを、部外者であるオダシューらは知らない。ともあれ、そんな上位の人が、まさかこのような変態だったとは。

――そりゃこの界隈、人を殺しすぎて、おかしくなるヤツなんて珍しくないけどさぁ……!

それでもこれはない、と思うのだ。

「冗談はここまでにして――」

「あら、私は本気ですよ」

ルフはガルを遮った。

「いいですか? 今回のヤマは、これまでのそれと格が違うんですよ。明日のこの時間、すでにこの世にいないかもしれない……」

「殺し屋界隈では、普通だ」

ガルは淡々としている。そういう生き方をしている。殺し殺される世界だ。空気を吸うように当たり前なのだ。銀の翼商会や銀の救護団にいた頃の、明日が来る方が不自然だった。

「だからこそ、頭首様の血を私に残していきませんか?」

「ペルスコット家は血筋じゃない」

「では、強い人の子が欲しい。これでどうですか?」

「それなら理解はできる」

本当か?――オダシューは、部外者を決め込みながら、ガルの受け答えに疑問を持つ。このイケメンに女性心理がわかるのか、と思うのだ。

「明日、俺は死んでいるかもしれないから、その前に、ということなのだろう?」

――そうなんだけど、そうじゃないというか、そうというか……。

オダシューは席を外した。船室を出て、外の空気を吸えば気分も変わるだろう。そう思って出たら、殺し屋臭のひどいペルスコット家の船員たちを見かけて、気分が晴れることはなかった。

・ ・ ・

目的地の上空は、ごつごつとした山岳地帯だった。カラスノス号から、ボート型小型飛空艇に乗り換え、地上に上陸する。中型艇では降りられないから、という単純な理由だ。

「で、ガル。お前、あの女とシたのか?」

「……」

ガルは答えなかった。周りが怪訝な顔をするので、オダシューはそれ以上追求はしなかった。

微妙な空気を感じたか、ムードメーカー的存在のアズマが口を開いた。

「それにしても、おっかない船だったぜ。ペルスコット家ってああなのかねぇ」

「そうか? オレは逆の印象を持ったね」

グリードが言った。

「これはオレ個人の幻想だったかもしれないが、ペルスコット家ってもっと伝説的で、オレたちみたいな同業者も、瞬きの間で殺せるプロフェッショナル集団だと思っていた。でも何と言うか……オレらと変わらないというか。言い方悪いけど、チンピラ以上ではあるけど、伝説的な暗殺者集団には見えなかった」

「あ、それ、おれも感じた」

アズマは同意した。

「おれたちが勝手に神格化していただけで、実はそこまで格が高い集団じゃないかも。名前が一人歩きして、周りが勝手に凄いものって扱っただけっていうか」

「あのー、それをガルさんの前で言っちゃいます?」

トゥリパが恐る恐るという調子になる。当のガルは涼しい顔だった。

「実を言うと、呼び出された時、俺もそんな風に感じた」

子供の頃は、もっと厳格で、上等だった気がするが、大人になって見え方が変わったのかもしれない。

小型艇は、地上を通り越して地下へ通じる横穴を斜めに降っていった。途端に周りが闇に包まれる。船上の照明でかろうじて視界は確保されている。

「いよいよだ」

ガルは、カリュプスメンバーを見回した。

「敵地だ。暗殺者としてはらしくない正面突入になる。……この中の何人か、あるいは全員、太陽の下に戻れないかもしれない」

「覚悟の上だ」

オダシューが言い、仲間たちは全員頷いた。命ならとうに捨てている。銀の救護団での安穏な日々は終わった。暗殺者集団カリュプスに戻る日が、ついにやってきたのだ。