軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談127話、魔王軍残党幹部会

「さてさて、そろそろ潮時ですかねぇ」

吸血鬼のカネールは、幹部会の集まりで、そんな発言をした。

会議のテーブルは、席はあれど、座っている者はほとんどいない。そもそもの話、会合の出席者が数えるほどしかいなかったのだ。

カネール、魔術師のインモルタル、変化族のメレオー、ゴーストのシュストペンの四人がいるのみ。他に20近くある席は空である。

「何とも寂しい幹部会だ。昔は、各種族ごとに代表者がいて、幹部会の席を巡って種族間で争ったりしたものなのに」

「……何が言いたい?」

インモルタルは陰気な声を発した。カネールは肩をすくめる。

「説明して欲しいですか?」

「……手短に」

「クイーンは、信望がない。以上」

饒舌なカネールは、それだけ答えた。彼の長話は周囲を辟易させるが、短くしろと言われると本当に最低限のことしか喋らない意地の悪い吸血鬼であった。

「……」

「……」

メレオーは、トカゲ顔の魔族だが、何を考えているかわからない顔で、その場にいる。シュストペンもまた、いるのかいないのかわからないほどの空気のなさで、口を閉じている。

これだ、とカネールはテーブルを叩きたくなった。

この期に及んで、残っているのが話し甲斐のない奴らばかりである。

――昔語りがしたいわけではありませんが、昔は、とある代表者が発言すると野次がうるさかったものです。

カネールはしみじみとしてしまう。

『おい、誰がてめぇに発言を許した?』だの『オレより先に言うんじゃねえ』だの、種族によっては、仲の悪い相手をディスり出して、もう大騒ぎであった。口論という名の悪口合戦が始まったり、なんともまとまりが悪く、会議進行の妨げになったりした。

そこをピシャリと収めるのが、魔王様だったり、四天王と呼ばれるトップ4……。

――いや、四天王も仲が悪かったですねぇ。

火に油を注ぐこともしばしばで、やはり魔王様の一喝が全てに勝った。

今の魔王軍は、その四天王の唯一の生き残りであるブルハである。夢魔一族のトップ。先代魔王にも仕えた、今では最古参の幹部だが、その凋落ぶりは見るに堪えない。

――強いんですけどねぇ、あの人。

熱狂的な魔王信者。その情熱的なまでの忠誠心は、配下の鑑であろう。しかし一軍を率いる才があるかと言われると、疑問符がつく。

好き嫌いがはっきりしているというか、あまりに魔王様が中心過ぎて、それ以外に関心が薄いというか何というか。

その魔王様が没して三年。魔王軍の残党がいまいち勢力を拡大できず、その構成人員が失われていくのに、何ら有効な手を打てずにいる。

人間たちの残党狩りは非常に緩やかだったが、一方でドラゴンの逆鱗に触れたせいで、かの一族が魔族の命の取り立てを行う始末。不干渉を決め込めばよかったのに、どこぞの馬鹿どもがドラゴンにちょっかいを出したために、この不始末。

幹部会の構成員が、数えるほどになった原因も、容赦ないドラゴンたちの掃討戦の結果も関係している。ブルハを見限り、各々で動いた結果、出る杭は打てとばかりに片づけられてしまった。

熱意に溢れた奴から死んでいく――カネールは瞑目した。

今残っている者たちは、ブルハの指示だから動いた程度で、自ら派手に動こうというものはいない。

――異性としては大変魅力的な姿をしているのは、サキュバスだからなんでしょうけど、ここから大逆転の目はなさそうなんですよねぇ。

東の国での騒動も、ブルハお得意の策謀で仕掛けたにもかかわらず、失敗。得意分野で駄目なら、他で勝てる要素あるの?――カネールの中で、急速にやる気がしぼんだ原因である。

――何より私が我慢ならないのは!

バン、とカネールはテーブルを叩いた。

「皆さん、話を聞いていましたかっ!」

「……」

三者、無反応。

「私は、上官を批判したんですよ!? これが正常な幹部会なら『なに言ってんだテメェ! 殺すぞ!』と非難と批判の大合唱ですよ! それが何ですか! この席は、お通夜ですか! 棺桶で寝る時間ですか!」

「……」

「そこは『吸血鬼じゃないんだ。棺桶で寝れるか!』とか、『勝手にシんどけ!』とか言うところでしょうが! やる気あるんですかっ!?」

スゥー、とメレオーが変化族の迷彩を発揮して姿を消す。さらにシュストペンも幽霊らしく消えた。残るは陰気なインモルタルしかいなくなった。

「……カネール、ああいうのはよくない」

「やっと喋ったらそれですか。……本当、この幹部会も落ちたものですね」

ため息をつく吸血鬼。インモルタルは言った。

「それで、お前はここを出て行くのか?」

「引き留めてくれます?」

「しない。勝手にすれば」

「寂しい……」

これが今の幹部会。もう終わりだ、魔王軍。

『カネール』

「わっ!?」

すっと背後にシュストペンが現れた。ゴースト族は、時々とんでもないタイミングで驚かせてくるから心臓に悪い。

「なんですか!? 去ったんじゃなかったんですか!」

『城に侵入者』

「へ……?」

侵入者、とは。この地底城に、魔王軍以外に侵入者とは一体。

「何ですとーっ!? で、一体どこの誰ですか? 魔王軍残党に志願する魔族ですか? それとも一度抜けたけど寂しくて出戻りしてきた元同志ですか?」

『人間』

シュストペンは答えた。こいつはあまりに言葉が少な過ぎていけない。インモルタルが席を立った。

「人間ということは、敵だ」

迎え撃たねばならない。シュストペンと共に去る魔術師を見送り、カネールは肩をすくめた。

「やれやれ、この地下の城にまで攻め込まれたとなれば、本当におしまいですね。色ボケサキュバスの女王様は、まだまだお楽しみの最中でしょうか。……まあ、最後に義理は果たすのが礼儀というやつでしょうかねぇ」