作品タイトル不明
後日談126話、その時を待っていた者たち
待ちに待った時がきた。
ガルにとって、宿敵ブルハの所在がわかった。自分にとっては『家』と呼ぶに相応しい組織だったカリュプスを壊滅に導いたサキュバス。その復讐を果たせる日がきたのである。
すぐにでも向かいたいところだが、事はそう簡単ではない。まずはやらなくてはいけないことがあった。
その一つは、元カリュプスメンバーへの説明だ。
組織を潰され、ブルハに復讐したい者は、ガルだけではない。情報を持ってきたルフ・ペルスコットを同席させ、銀の救護団に所属する暗殺者たちに、ガルはそれを告げることにする。
「――で、そのお嬢さんは?」
仲間が全員集まるまでの暇つぶしとばかりに、先に現れたオダシューが聞いた。ルフは礼儀正しく頭を下げた。
「ルフと申します。私とガル様の関係は、恋人――」
「妹だ」
ガルが遮るように淡々と言った。やってきたアズマが噴き出し、グリードがとぼけた顔になった。
「オレにこんな美少女な身内がいたっけかな」
アズマがさらに笑い、ハノ、トゥリパが近くの席に座った。ルフはガルを笑顔で睨んだ。
「せめて姉にしていただけませんか? 私の方が年上ですよ、多分」
「どうかな、俺の方が年上かもしれない」
真顔で軽口らしきものを叩くガルをみて、巨漢のニェーボがやってきながら笑った。
アフマルは例によって無表情無言。スナーブがやってきて、全員が揃った。
「彼女のことは、俺の身内ということで、察してくれ」
ガルは言わなかったが、それで暗に『ペルスコット家』の者という意味は、暗殺者たちには伝わった。そういう業界である。だから察したら、それ以上、追求する声は上がらなかった。
「ブルハの所在が判明した」
ガルの一言に、一同の顔から笑みは消えた。暗殺者特有の緊張感が漂い、作戦会議が始まったとばかりに真剣味が増す。
地底城と、ペルスコット家が収集した情報が語られ、一同はガルに賛同。報復行動に出ることに異存はなかった。
「とりあえず、全員一致だ」
オダシューが代表して言った。
「だが問題はあるぞ」
「問題って?」
アズマがそれを聞いた。オダシューは答える。
「おれらが全員、ここを離れたら、レーラ様を誰が守るんだ?」
「あ、そうか。それは問題だなぁ」
銀の救護団を始めた聖女レーラ。彼女を守ることを誓った元カリュプスメンバーたちは、自分たちの宿敵を粛正しに行くことにかまけて、聖女の守りを疎かにすることはできない相談であった。
だからといって、レーラを魔王軍残党の拠点に連れて行くわけにもいかない。聖女の癒しの力は、戦う者たちの助けにはなるが、ガルたちにとっては、自分たちの私怨に巻き込んでいい存在ではなかった。
だが、間違っても、ペルスコット家に預けるなんてこともできない。暗殺者界隈でも秘密主義な者たちに、聖女を預けるなど不安しかないのだ。
ガルは口を開いた。
「そちらの方は、カマルに話をつけてある。……俺たちに何かあった時、レーラ様の身を守れるように」
「カマルって、ソウヤさんの仲間だったあの……?」
スナーブが聞いてきた。銀の翼商会とは別行動が多かったために、あまり勇者ソウヤの友人たちには詳しくないのだ。
「そうだ。情報通で、裏界隈にも詳しい。それに、あの人はメリンダとも結婚したしな」
メリンダ――以前、銀の救護団におた女性騎士。レーラを守ることに関して、彼女に不安はなく、むしろ安心して托せる。
仲間たちも頷いた。グリードが首をかしげる。
「ガル、お前の口ぶりからすると、レーラ様にはこのことは黙って行くつもりなんだな?」
ハノ、トゥリパが気まずそうな顔になる。ガルは首を縦に振った。
「言わない」
言えば、あの人の性格だから、必ずついてこようとするだろう。連れて行くつもりはないのに、声をかけたら絶対にきてしまう。彼女はそういう人なのだ。
巻き込むつもりがない以上、このこともレーラには打ち明けるわけにはいかなかった。重苦しい空気になる。
皆も、レーラのことを知っているから、巻き込みたくないのは共通している。だが暗殺者にも分け隔てなく接する聖女のことを思えば、黙っていくのも後ろめたさが込み上げてくるのだ。
かつての暗殺者だった頃は、それでも構わず目的を果たそうとしたはずだ。だがこれまでの付き合いで、それだけ感情を揺さぶらせる存在に、レーラはなっていた。
オダシューは手を打ち合わせた。
「そうと決まれば、さっそく準備するか!」
敢えて元気よく振る舞った。裏切っているのではないかという思いを振り払うように。古参リーダーとしての立場が、オダシューにそのような態度を取らせた。
仲間たちが退席し、部屋には、ガルとルフだけになった。
「道案内するのと、場所を教えるのと、どちらがいい?」
「選んでもよいのですか?」
ルフは視線を動かすことなく言った。ガルは肩をすくめる。
「これは俺たちの問題だ」
当主権限でペルスコット家の暗殺者たちに魔王軍残党の居場所を探させてはいたが、その討伐にまで、彼らの力を借りるつもりはなかった。
「面倒なら、俺たちで現地に行くが」
「ご案内しますよ」
ルフは、ふっと息をついた。
「というより、もうすでにこちらから先行部隊を露払いに投入しました」
「何?」
ペルスコット家の戦闘要員が動いているという発言に、ガルはメイド姿の部下を睨む。
「そんな指示は出したおぼえはないが」
「出された記憶はございませんが」
ルフは平然と返した。
「魔王軍残党の居場所を探り、それでおしまい、なわけがないじゃないですか。出来る部下は、その結果どうなるか察して行動するものです」
先ほどの、ガルが仲間たちにブルハの居所を告げ、乗り込むと語ったが、ルフは驚かなかった。この展開を予想していたからだ。
「では、参りましょうか」
ルフは不敵に微笑む。もうすでに動いているのは仕方ない――ガルも席を立つのだった。