軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談118話、宴会とドラゴン

竜玉は無事だった。

ヴァンパイアたちは、歩国の王族の力で封印を解き、あと一歩のところで古代の秘宝を手に入れるところだったが、駆けつけたソウヤやナダ――正確にはドラゴンたちによって阻まれた。

「字面にすると、なんかこう、おかしな表現だ」

などと、老魔術師のジンは言うのである。

「いったいどこからドラゴンたちが現れた?」

「竜玉絡みじゃね?」

ソウヤが適当な調子で言えば、ジンは頷いた。

「そうだった。秘宝が一応、ドラゴンにまつわる品だった。それならまあ、何とかなるかな」

「何とかって?」

「言ってなかったかもしれないが、私はこれまでも記録を残していてね。魔王軍残党に関わる君たちの活躍はもちろん、今回の件もしっかり記録するつもりだ」

「へぇ、爺さん、そんなことをしていたんだ……」

素直に感心するソウヤである。

老魔術師といえば、何やら難しい魔術の本を読んだり書いたりというイメージがあるが、そのイメージにぴったりなこともしているのだ。

「私の人生は長いからね。人の記憶というのは案外いい加減なものだから、きちんと記録しておかないと、どんどん忘れたり、事実改変が起こる。人間とは、自分の都合のいい解釈の上で生きているのだ」

「そんなもんかね。……でも爺さん、ここは歩国でも秘密の場所で、ここで起きたことって書けないんじゃね?」

「それはこの国での話であって、世界的、歴史的視野からすれば、やはり記録しておくべきことだと思うよ。……そもそも、表に公開するつもりはないから、記録に残したとして、誰にもわからないよ」

「でも記録に残るんなら、誰かがそれを閲覧することもあるんじゃね?」

「何百年か、何千年か、はたして数万年先か……。その頃には機密解除になっていると思うよ」

ジンは、さも当たり前のように答えた。個々の人生を超越した時間の中で生きている者ならではの視点だった。

ともあれ、王族一行を救ったことで、歩国の王から、ソウヤやドラゴンたちに感謝の言葉を頂戴した。

ナダにとっては数年ぶりの帰還だが、王たちはそれをそっちのけで、古のドラゴンたち――アクアドラゴンやクラウドドラゴンへの崇拝にも似た感謝と歓迎を示した。

「さあさ、ドラゴンの方々。どうぞ、我が国の歓待をお受け取りくださいませ!」

王城での大祝賀会が開かれ、ドラゴンたちには大量のお酒と食事が振る舞われた。……ドラゴンは下から敬われることに悪い気がしない種族だから、そこは機嫌よくのっかっていた。

ドラゴン最強、それ以外の種族がドラゴンに敬意を示すのは当たり前――そういう古い考え方のドラゴンは多いが、実際にそう歓待される機会は多くない。

だから、実際にその場に出くわすと調子に乗るわけなのだ。

なまじ人間だったソウヤなどは、ドラゴンたちがあまりに調子に乗り過ぎないか、むしろ心配になるくらいである。

「完全に保護者ヅラというやつだね、ソウヤ」

ジンは呑気なもので、酒をちびちびとやりつつ完全に他人事を決め込んでいた。

「あんたは不安にならないのか?」

「それを言ったところでどうにもなるまい? 四大竜の皆様がご機嫌斜めになって大暴れしたって、それはそれ、だ。私には関係のない話だ」

「……どれだけ生きたら、そんな簡単に割り切れる?」

「君は勇者歴が長かったから、つい気を回してしまうのだろう。こんなものは考え方一つでどうにでもなるものだよ。……君は意外と繊細なんだな」

「意外に、とはなんだ」

「戦場ではその豪腕を以て敵を砕くパワー系だからね。一見すると、気を回すタイプには見えないわけだ。まあ、そこがギャップでもあるわけだが」

「ギャップってなんだよ……」

ソウヤも酒を口にしつつ、視線を巡らす。ミストとフラムはとても美味しそうに食事を楽しんでいて、フォルスや影竜も笑っていた。

クラウドドラゴンは優雅に酒を嗜んでいたが、アクアドラゴンなどは羽目を外しかけていて、樽でもってきた酒をカブ飲みしていた。……青髪美少女が、樽で酒を飲むとか、これこそギャップではないか、とソウヤは思った。絵面は酷い。

ジンは苦笑する。

「水にまつわるドラゴンは、酒に目がないからなぁ。とことん飲み尽くしたら、イビキをかいて寝るぞ」

「酷いギャップ……」

「首を取るなら、その時だぞ」

「とらねえよ! 爺さん、あんた酔ってるだろう!」

「そう見えるかね?」

「……見えねぇ」

いつもと同じ顔色。本当に酒を飲んでいるのか? 歩国の酒は、米を使った日本酒のような酒なのだが、実はただの水を彼は飲んでいるのではないか。

「そういや、酒に酔って寝込んでいるところを討ち取られたドラゴンの昔話があったような……」

「その手の逸話は、古今どこの世界にもあるものだが……。君や私のルーツから考えれば、あれかな、八岐大蛇の伝説とか」

「そうそう、それそれ。ヤマタノオロチを倒すと、剣とか手に入るんだっけ?」

「大蛇の尻尾を切ろうとして、剣があって自身の剣が欠けたとか折れた、という話じゃなかったかな。……アクアドラゴンの尻尾には何があるのかな?」

「肉と骨とウロコじゃね」

他愛のない冗談を飛ばしつつ、ソウヤは目の前の料理を見下ろす。

「歩国ってかなり和風な国だと思っていたけど、こう改めてみると日本的だよな」

なんの肉かはわからないが、刺身。この世界で生食は、ほとんど見られない。

「懐かしいか?」

「いや、刺身ならオレら、たまに食べてるじゃん」

この世界の人間たちは火を通さないと肉や魚は食べないが、ジンの浮遊島にいるドラゴンたちは、そもそも獲物をそのままバリボリ食ってしまう種族だから、生でも抵抗はない。それもあって、ソウヤは時々、刺身を食べる。

和やかな空気が流れる。魔族の脅威が去って、歩国の王族も家臣たちも大喜びであった。

後は……敢えて逃がしたヴァンパイアがアジトに戻って、魔王軍の残党たちがこれからどう動くか、である。

まだ竜玉を狙うのか。それともドラゴンの介入を知り、手を引くのか。

――まあ、どちらにしろ、こちらから攻め込むから関係ないか。

ソウヤは赤身の刺身を一口。と、その時、視界の端で、こそこそと退席するナダの後ろ姿が見えた。