軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談116話、試練の道、とは

奥へといく道は、さほど広くなく、一列にならざるを得なかった。しかも人型種族の通行を意識している洞窟に、ドラゴンたちが元の姿に戻るスペースはない。

さて、そうなると問題は、誰が先頭に立つか、だが――

「はーい! 私! 私!」

アクアドラゴンが、無邪気な少女の顔で手をブンブン振るのだ。ドラゴンの姿だと、多少思慮深そうに話すのに、人間の姿だと極端に幼そうに見えるのは何故なのか。

先陣切りたがりのミストなどは、四大竜に敬意を表して譲る……ということもなく。

「ダメよ、アクアちゃん。この前、先頭は譲ってあげたでしょう?」

「忘れたのだー!」

「覚えてるじゃないのーっ!」

などと言い合いながら、先頭アクアドラゴン、次にミストが通路へ入っていった。ナダがソウヤを見た。

「ずいぶんと仲がよろしくなったようで……」

「そりゃまあ、三年一緒にいれば、な」

「ドラゴンにとって、三年なんて瞬き」

クラウドドラゴンが大人ぶる。影竜は口を開く。

「そのわずか三年も、子供の成長を見ていると早いものだ」

息子であるフォルスが、母である影竜の言葉を聞いても、はにかんだ。別に褒めたわけではないが、親の評価が気になるお年頃らしい。大人になるべく社会勉強期間だから特にそうなのだろう。

「……あの、若」

先ほどから、ずっと見守り役に徹していたナギが、恐る恐るといった感じでナダに声をかけた。

「わたしめも、ついてきてよろしかったのでしょうか?」

「まあ、緊急時だし。よいだろう。私が許す」

歩国の第三王子は、シノビの従者にそう告げた。そこまでは堂々としていたのだが、気になったことがあって、老魔術師であるジンにそっと声をかけた。

「……気になっておったのですが、そちらの女子はどなたですか?」

「ん?」

ジンは、ナダの視線を追う。そこにはフォルスと、ここにきてずっと沈黙している赤毛の少女がいた。

背丈はフォルスと同じくらい。常にぼーっとしていて、先ほどから会話に加わる気配がないが、時々フォルスのじゃれつきをあしらっている。

「ああ、フラムか」

「フラム殿と言うのですか。……ジン殿のお孫さんだったり?」

「いいや、ソウヤとミストの娘だよ」

しれっと真顔で告げるジンである。ビックリしたのはナダである。

「こ、子供ーっ!? ソウヤ殿とミスト殿の――」

「若!」

うるさいです、とナギが静かに、というジェスチャーをする。なお先頭ではアクアドラゴンが現れたガーディアンをワンパンで吹っ飛ばして高笑いを響かせていた。

「いやいやいや、しかしですね、ジン殿、ソウヤ殿とミスト殿はいつ結婚したのですか!? というか、もう十代ですよね!? そんな話初めて聞きました」

「まあ、結婚はしていないからね」

「結婚していない……」

「ナダ君、世の中、人間の尺度だけで測ってはいけないことはごまんとある。そもそもドラゴンに結婚なんて概念があると思うかね?」

「あー、それは……」

ナダは頷く。銀の翼商会にいた頃、それまでの常識を打ち壊すような事態に何度も遭遇した。この三年、自分は何をしていたのか――ナダは反省する。

「爺さん、あんま意地悪するなよ」

当のソウヤが淡々と言った。あらましを語った時も、ファイアードラゴン関係の話題は、フラムの前では控えていたから、ナダには説明していなかった。

「養子みたいなものだ。後は察してくれ」

養子、と聞いて、ナダも、ソウヤとミストの実の子供ではないというのは理解した。ソウヤのことだから、戦災孤児などを拾ったのかもしれないと、とナダは勝手に想像して納得した。

その間にも先頭組は、ズンズン進み、出てくるモンスターもなぎ倒していく。一行の足並みはほとんど止まらず、これについて経験者であるナダは微妙な表情になる。

「……武器を持っていれば敵が出てくるダンジョンとはいえ、こんなスムーズに行くものではないのだが」

「先頭を行くのは、伝説の四大竜様だぞ」

ソウヤは振り返るとニヤリとした。

「そこらのモンスターで止められるわけがない」

「これでは試練になりませんな」

「元から試練をやるつもりで来ていないからな」

からからとソウヤは笑った。相変わらず頼もしいのだが、緊張感が薄くなるとナダは感じた。

しかし客観的に見れば、このメンツではしょうがないとも思う。そこらのモンスターとはパワーが違う。

ソウヤは、延々と続く道を歩きながら、全体像を魔力の目で見る。この曲がりくねった道は、元の世界での中華の竜の体のようだと思った。基本、一本道であり、分岐は竜の手のようですぐに行き止まりである。

生命の反応は、その竜の頭――最深部に近いところへ移動しつつあった。こちらのペースも早いが、追いつくより深部に辿り着かれるほうが先かもしれない。試練のモンスターがどこまで足止めしてくれるかだが。

ナダが不安げに言った。

「敵は、すでに奥まで辿り着いたんでしょうか?」

「いや、ちょうどそれを見ていたんだが、まだ着いていない」

ソウヤが答えると、ナダは一息つく。

「それはよかった。では急がねば……」

「これ以上ないほどペースはいいんだけどな」

アクアドラゴンは快調そのものだった。楽しそうな笑い声が聞こえるのは、幻聴ではないだろう。

ジンが顎髭を撫でながら、遠い目になった。

「まあ、竜玉が敵の手に落ちれば、ドラゴンでも苦戦するモンスターが出てくるかだろうから、それでわかるよ」

「……そ、そうなんですか?」

ナダが引くが、前を行くドラゴンたちは一斉に振り返った。

「ほほぅ、それは楽しみだ」

「たまには本気でぶつかるのもいい」

アクアドラゴンに続いて、クラウドドラゴンも薄らと笑みを浮かべた。ミストや影竜もそうで、ソウヤは肩をすくめる。

「ほんと、うちのドラゴンさんたちは戦い好きでかなわない」

強い敵が出てくるかも、と聞いてアクアドラゴンがペースを上げた。強いのが出てくる前に、ではなく、強いのと戦いたいという心境なのだが、それならむしろゆっくり行くべきではないかとソウヤは思う。

だがナダの心境を思えば、そんなことは言えなかった。

そして、一行は最深部に到着した。魔族の一団が待ち構えていた。