軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談90話、セイジ、催促される

「ところで、セイジ君。ひとつ聞きたいのだが」

「何でしょうか、サジーさん」

銀の翼商会の二代目社長であるセイジは、妙に真面目な表情のサジー・グラスニカ――ソフィアの兄と対峙している。

エンネア王国での行商で、立ち寄った王都。グラスニカの屋敷が王都にもあるので、ソフィアがそちらへ顔を見せに行ったが、入れ違いで、サジーがやってきたのだ。

銀の翼商会の拠点である飛空艇『ゴルド・フリューゲル号』で、サジーに対応したセイジ。

しかし、サジーの表情はどうにも硬い。いつもこんな感じではあるが、それでもその差違がわかる程度には、親交はあった。何といってもソフィアの兄なのだ、彼は。

「王国魔術団の方で、何かあったのですか?」

そうセイジは切り出した。サジーが所属している組織で、何かトラブルがあったか、あるいは仕事の依頼か。

しかしサジーは、真顔のまま言った。

「いや、そうではない」

どうにも、歯切れの悪さを感じた。どこか言うのを躊躇っているような、言い方に迷っているように受け取った。

見た目大柄で、表情に乏しく、とにかく真面目なサジーである。ここ二年近くの商売の中で、人の表情や反応で考えを推し量ることに慣れたセイジであったが、この人については、やはりわからないと思った。

「君とソフィアは、いつ結婚するのだ?」

「え……?」

完全に面食らうセイジだった。サジーの思わせぶりにためて、そこから唐突に投げられた言葉に、絶句してしまう。

「もうかれこれ、二年だ。君とソフィアが付き合いはじめてから」

サジーは指摘した。エンネア王国の魔法大会、その三日目の優勝で、セイジは大観衆の前でソフィアに告白した。

「父上も、まだかまだかと落ち着かないご様子だ」

ソフィアの父であり、貴族でもあるイリク・グラスニカは、娘とセイジの仲を認めている。

というより、王の目の前で、認めさせられたというか。何の思惑もなく、ただ真っ直ぐにセイジが告白したのを、多くの者が見ていて、もはや引くに引けないところまで、話が進んでしまった。

身分だとか、そういう貴族としては当然のそれも、無理やりどかされてしまい、あの場では、もう認めるしか彼にできることはなかった。父イリクは、王の前で、二人の関係を認め、言質もとられてしまっている。

平民出であるセイジだが、魔法大会で名を馳せた結果、その実力は広く認められた存在だ。銀の翼商会で、勇者ソウヤの弟子だったとか腹心だった――これは2代目社長になったところからの推測だったが――などもあって、身分のことは置いておいても有望な青年という扱いとなっていた。

だから、イリクとしても、結婚するなら早くしなさいと思っていたのだが……。

「ソウヤ殿が魔王を倒してから二年近くだ。君は、あの方の後を継ぎ、商会を支えてきた。忙しいのはわからなくもないが……もうそろそろ、いいのではないか?」

「あー……ええっと、はい、そうですね」

セイジは視線が泳いでしまう。

商会内でも、去年くらいまではよく言われたものだ。ティスなどは『まだケッコンしないのか?』と言われ、カエデからも『もうそろそろいいんじゃないですか?』などと言われた。ここ最近は、時々思い出したように、ナールが聞いてくるくらいになったが、それ以外では聞かなくなって久しい。

「なあ、セイジ君。もしかして――」

サジーは、やはり真顔で言った。

「ソフィアと仲が悪くなっているとか……? それで未だに」

「いえ! それは、ないです! たぶん――」

不仲とか、喧嘩などはしていないはずだ。

「――たぶん?」

「大丈夫です。仲はいいです、はい」

セイジはコクコクと頷いた。演技ではなく、ソフィアとは仲はいいと思っている。普通にお喋りし、一緒に仕事や訓練などをしている。

同じ部屋で寝ている。……ただし、ベッドは別で。これは二人とも、肉体関係は結婚してから、というのを素直に守っているからだ。

最初の頃は、好きという感情のコントロールで苦労したものの、人間は慣れる生き物で、ここしばらくはお互いに苦にならなくなっていた。

「仲はいい、それは関係が進展しているということでいいのかな?」

率直に聞くサジーである。

「それでは、いつ結婚するか、そのことを話し合ってはいるわけだな?」

「……」

セイジは、いたたまれなくなって視線を逸らした。サジーは、僅かに眉をひそめる。

「していないのか? 二人の間で、結婚の予定について、まるで立てていないのか?」

「予定というなら……はい、まだ」

セイジもまた正直な男である。グラスニカ家が公認している仲である。ここで話題に持ち出してきたことから、催促と見ていい。

プレッシャーを感じながら、セイジは呼吸を整えた。言わなければならない。隠していい相手ではない。

ソフィアの肉親には、知る権利もあるだろう。結婚したら、一応、義理の兄弟になる相手だ。

「一度、ソフィアとも話したんです。そろそろ、結婚を考えてもいいんじゃないかって」

「ほぅ……」

腕を組み、サジーは続きを促した。

「ソフィアの答えは……今はまだ、そんな気分じゃない、って」

「気分?」

ここにきて、はじめてサジーの表情が傍目にわかる程度に動いた。

「気分だと? ソフィアがそう言ったのか、セイジ君?」

「気分、というか、そういうニュアンスだと思います。ソウヤさんが魔王と相討ちになって、ミストさんも失って、周りが色々変わって、彼女も大変だったと思います。ジンさんもいなくなってしまいましたし」

「ああ……師を二人も失ってしまったわけだからな」

サジーは同情した。魔法を封じられていたソフィアが、六色の魔術師と呼ばれるまでになったのは、ミストとジン、二人の師匠の教えのおかげだ。

「……しかし、セイジ君。言い方は悪いが、それはもう二年近く前の話だ。気持ちの整理はついていてもおかしくないと思うのだが……」

疑問を口にするサジー。

「確かに最初の頃はソフィアも気落ちしていた。意外に長く引きずっていたが、今年になって普通の――もっとも私も彼女の普通をよく知らないが、少なくとも立ち直っている風に見えるのだが。……これはどういうことなんだ?」