軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第69話、借金返済のシナリオ

金貨100枚で借りて、150枚。借用書にあった返済期限を過ぎた際の損害金だと思うが、さすがに三日遅れでその額は異常ではなかろうか? それとも日付関係なく固定でそれだけ増えたのだろうか?

――こういうのは、ちゃんと借用書に予め書いておけよ……。

「どうした? 払えないのか?」

マイオ・フランコは淡々と言った。自分は何も悪くないという顔をしている。

借用書は、タルボットとマイオ・フランコの商会で正式に結ばれたもの。今さらその内容について、どうこう言えるものではない。マイオ・フランコの厚顔なのも、その点の強みがあるからだろう。

「150枚……めちゃくちゃ高い損害金だな」

「貸した金は、返してもらわないと、こっちも迷惑なんだよ。高かろうが何だろうが、損害出した分、きちんと出してもらおうか」

「……150枚?」

ソウヤは渋い顔になる。マイオ・フランコは大きく頷いた。

「150枚、きっちり払ってもらう。払えないって言うんなら帰りな。タルボットから取り立てるだけだからな」

「本当に150枚でいい?」

「しつこい! 150枚だ。ないんならとっとと帰って、タルボットの野郎に、パパに泣きついて頼めと言って――」

それ以上はマイオ・フランコは言えなかった。ソファーを挟んだ真ん中の机の上に、ソウヤがドンと袋を置いたのだ。紐をほどけば、袋は広がり、金貨の山が出てくる。

ソウヤは金貨を10枚ずつとって、積み上げていく。

「150枚でいいって言ったよな? 待ってろ、150枚分、取り分けてやるから」

「馬鹿な……」

マイオ・フランコは目をパチクリさせている。本当に150枚の金貨が用意されているとは思っていなかったのかもしれない。損害金の額が無茶苦茶な自覚はあるようだ。

150枚分を分けて、残りは袋に戻した。ソウヤは片方の眉を吊り上げて、マイオ・フランコを見た。

「金貨150枚だ。ほら、おたくが持っている借用書を出すか、返済の証明書を書いてもらおうか!」

マイオ・フランコは固まっている。全額返済されるとは思っていなかったのだろう。

しかし、損害金分も含めてお金を得たのだから、そのまま受け取ればいいのに、何故、思いがけないといった表情のまま動かないのだろうか。

何か悩んでいる。このまま受け取ってはいけない何か理由が、彼にはあるのか?

ソウヤは、マイオ・フランコが黙り込んでしまったのが気になった。ここで返済完了されて困る何かがある?

たとえば、何だ? タルボットに直接払わせたい? いや、家に泣きついてお金をどうこう言っていたから、実家に払わせたいとか?

何故そんなことを……? 金の経緯は気にしないとか言っていたが。

仮にタルボットが実家から金を工面して借金を返した場合、何が起こる? フランコ・アイアン商会にとっては特に特別なことはない。貸した金が返ってくる、それだけだ。

だが、タルボットにとっては違う。家を飛び出して醤油作りをしていた彼は、支援をまったく受けられなかった。そこで頭を下げて借金を返した場合、実家の損失分、そちらで働くなりすることになるだろう。醤油作りは、そこで潰える。

――いや、むしろ、実家はそうなることを望んでいるのでは……?

借用書。返済期限が過ぎた場合の一カ月の猶予。正確な金額の記載がない損害分。――これは、そういうことなのか?

ソウヤは気づく。

タルボットの実家と、フランコ・アイアン商会は今回の件で繋がっているのではないか?

タルボットを実家に戻したい。だがそのために醤油開発は邪魔。だがあからさまに妨害するわけにはいかず、考えた結果、弱味に付け込む事にしたのだろう。

借金を立て替えることで、実家に貸しを作らせ、それと引き換えに醤油作りを諦めさせる。言って聞かない頑固者も、借りや恩には弱い。

大方、実家の支援もなく、新たな調味料開発がうまくいくとは思っていなかったのだろう。遅かれ早かれ、資金繰りに困り、金貸し業者を頼るとふんで、先手を打って業者と繋がりを持っておく。

今回のフランコ・アイアン商会にとって、貸した分の金が戻ってくるなら、タルボットの実家の思惑に乗っても問題はない。あるいは協力したら、報酬が出る約束でもしているのかもしれない。

だから、タルボットが実家を頼るように、マイオ・フランコは持っていきたかったわけだ。

……醤油蔵を少々壊したのは、期日になっても一向に実家にすがらないタルボットにしびれを切らしたと考えれば、納得できる。

商売道具を破壊したら、返すものも返せなくなる可能性もあるのに、それをしたのは、醤油作りをやめて、さっさと実家に帰れと促すのも含まれていたのかもしれない。

だから、だ。

目の前に借金と損害金を詰まれても、ソウヤからは受け取れない。タルボットの実家からのお金でなければ、彼を家に帰属させられないのだ。

状況と想像からの推測だが、マイオ・フランコが、このまま金を受け取らない事態となれば、その時点で、タルボットの実家とグルであることは確定だろう。

――さあ、どうする? さっさと受け取ってくれると、面倒がなくて済むんだが。

ソウヤは、じっと固まっているマイオ・フランコを見やる。金貸し業者は、しきりに首を捻っていた。まるで適当な言い訳を考えるように。

馬鹿正直に待つこともあるまい――ソウヤは、行儀悪く、机の上に足を投げ出した。

「ほら、さっさと受け取れ。こちとら忙しいんだ。ちんたらやってたら日が暮れるぞ」

「あぁ……うん……うーん」

歯切れ悪く、マイオ・フランコは腕を組んで考えるポーズ。その瞬間、ドンと床を激しく踏む音が一回響いた。

ミストだった。

「失礼」

怒りながら笑顔を浮かべるという器用なことをする彼女だが、明らかに早くしろ、とフランコに行動を迫っていた。……コワイ!

――仕方ない。少し早いが、こちらから動くか。

ソウヤは小さく頷くと、机から足を下ろした。

「時間がかかるようなら、こっちの用件を先に済ませようか。返済うんぬんは別にして、あんたには用があるんだ」

「俺に用事だと……?」

かすかに驚くマイオ・フランコ。ソウヤは口元を引きつらせた。

「オレらが、タルボットの借金を返すお使いのために来ているとでも思ったか? 金を返すだけなら、タルボット本人で済んだだろうが」

目の前の魔獣を威圧する時と同じく、ソウヤの視線が鋭くなった。いかにもこちらは怒っています、という顔を作る。

「あんたの部下は、うちが仕入れる予定だった商品を台無しにしてくれた。フランコ・アイアン商会さんには、その損害金を払ってもらわないといかんのよ」

「そ、損害金!?」

マイオ・フランコは、愕然とした。いったい何を言っているんだ? と言わんばかりに。