軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話、アイテムボックスの中には……

「ホント、あなたのアイテムボックスって凄いのねぇ!」

ミストは楽しそうに笑った。

ソウヤたちは、霧の谷を出て、街道に合流。近くの王都方面へと歩を進めていた。天候は薄曇り。雨の気配はないが風が吹いていて、昼間だけあって心地よかった。

「まさか、あんな大きな船を収納しちゃうなんて!」

「あぁ、神の試練で手に入れた『何でも収納できる』特殊な魔法道具だからな」

「何でも?」

「何でも」

何せ、この手のアイテムボックスだと不可能なことが多い生き物だって、収納できてしまう。これまでも、希少な動物はもちろん、生きた人間を収納したこともあった。変わり種だと魔法とか、溶岩とかも……。

例外はあるが、多くの場合、俺がそれに触ればサイズや形関係なく収納できる。……溶岩とか魔法は、直接触らずにボックスに誘導する手間があったので、不可能ではないが難しかったりする。

そして今回、ミストの財宝――半分くらいがガラクタだったりするが――に加え、谷で見つけた飛空艇も、アイテムボックスに体育館ほどの部屋を作り、そちらに収納したのだった。

「壊れた部分の修理や腐ってる部品の交換は必要だけどさ。行商で色んなところに行くなら、乗り物ってあったほうがいいじゃん?」

それがなくても、飛空艇で自由に飛び回るというのは、ソウヤにとってはひとつの夢だった。

魔王討伐の最中、飛空艇に乗ったことがあるが、その時は行く先が決まっていて、『自由』に飛べなかった。だからこそ、特に行く先に縛られることなく、好きな時に好きな場所に行ける手段には憧れるのだ。

「ふうん、でもそれなら、ワタシがあなたを乗せてあげるわよ?」

「なに?」

「ほら、ワタシ、ドラゴンだから」

彼女は腕を広げると、ドレスの後ろから竜の翼を展開させた。

「……!」

美少女から翼が生える、なんて、知らなかったら、びっくりして腰を抜かすところである。知っていてもソウヤは驚いたのだが、同時に、彼女がミストドラゴンである、という話をもはや疑うことはなかった。

――待てよ、別に脱がなくても翼出せるんじゃないか!

脱がないと変身できない、なんて、脅かしやがって――ソウヤは谷ではからかわれたことに気づかされた。

それはそれとして。

「いいの? 乗っても?」

ドラゴンって、人を背中に乗せたがらないって有名な話である。誇り高き上級ドラゴン種が、馬などの動物と同じようなことができるか云々とか。

「乗りたいなら乗せてあげるわよ」

ミストは請け合った。確かにミストドラゴンなら、空もひとっ飛びだろう。ソウヤは頷いたが、すぐに思い直した。

「機会があればな。霧の谷の外で、お前がドラゴンの姿で飛び回ったら、いらぬ噂や騒動になりそうだから、よく考えてからになるだろうけど」

「それもそうね。面倒は嫌いだわ」

案外あっさりとミストは受け入れた。

「ところで、あなたの何でも入るアイテムボックスは生き物も入るって言っていたけど……人を入れたことはあるの?」

「あるよ」

ソウヤは認めた。だがわずかに口の中に苦いものがこみ上げてきて、顔をしかめる。

「今も、オレのアイテムボックスの中には人が何人か入っている」

「今……?」

ミストは怪訝な表情になった。無理もない。保存可能なアイテムボックス内に、今も人が入っていると聞いて、悪い方に考えない者はそうはいないだろう。……状況次第では、誘拐や監禁とも取られかねない。

「……どういう人が入っているのか聞いてもいいかしら?」

「ああ、死亡一歩手前の瀕死の人と、解除方法がわからない死の呪いに冒されている人」

ソウヤの顔は自然と強張っていた。ミストは、責めないように、そっとした口調になる。

「どういう経緯でアイテムボックスに?」

「魔王討伐の旅の仲間だな。究極の治癒薬とか極限回復魔法を使わない限り、あと十数秒ともたない人たち……」

アイテムボックス内に、時間経過を無効化する部屋を作り、そこに寝かせている。時間が止まった中で、死の一歩手前のまま、彼、彼女たちはまだ生きていた。

「つまり、医者や治療所に駆け込む時間がない重傷者を、収容したと?」

「そうなるな。……瞬時に回復できる手段があれば、治療してやれる」

ソウヤは歩きながら天を仰いだ。すっきりしない天候は、まるで自分の心を映し出しているようだと思った。

彼は、死にかけている仲間を数人抱えている。アイテムボックスに収容している間は死なないが、治療方法がなければ出ることもできない。彼ら、彼女らの意識も止まっているから待たされているとか、痛みとか、苦痛はない。

だがソウヤが何とか方法を見つけない限り、本当に助けたことにはならないのだ。

「オレが行商になって、色んなところを移動しようって思ったのはさ――」

ソウヤは視線を正面に戻した。

「アイテムボックスの中にいる奴らを助ける治癒薬なり、極限回復魔法の術者を探すためでもあるんだ。貴重な治癒薬は、ダンジョンから見つかることもあるし、商売やってれば商品としてそういう薬と接する機会があるかもしれねえからな」

「……重いわね」

ポツリとミストは言った。前を行くソウヤの背中を見つめる。

「あなたは勇者をやめても、その肩にまだ人の命を背負ってる」

「……助けが必要な人を放っておけない性分なんだ」

ソウヤは小さく笑った。

「まあ、できれば早く助けてやりたいが、手掛かりがないからな。でも簡単にはいかないが、いつか全員治してやるつもりだ」

それまで、あなたは解放されないのね――ミストは思ったが、口には出さなかった。そんなものは、彼ら、彼女らをアイテムボックスに抱えているソウヤ自身が一番知っているはずだから。

「焦ってもどうにもならねえ問題だからな。じっくりやっていくさ」

手掛かりがあれば、まずはそこへ、ってなるのだが、確実な情報はない。まずは一歩一歩、進んでいくしかないのだ。

「……何だか、お腹がすいてきたわ」

ソウヤの後を追いながら、ミストがそんなことを口にした。

「ソウヤ、何か作って」

「えぇ……。いや、いいけどさ」

無理やり話を変えて、沈滞しそうな空気を変えようというのだろうか。変に気をつかわせたかもしれない。

ボリボリと自身の髪をかきながら、ソウヤは空を見上げる。飯時には少し早いかな、と思ったのだ。

「ねぇえー、作ってよ。ワタシ、ソウヤの作る料理が食べたいの!」

「……しょうがねぇなー」

このまま歩いていれば、どの道どこかで何か腹にいれておかなくてはいけないのだ。

街道から少し離れ、ソウヤとミストはキャンプと洒落込む。

荷物をほとんど持っていないように見えて、アイテムボックスに必要なものは一通り揃っている。

ソウヤは私用日用品に分類したアイテムボックスから、愛用してきた品々を取り出す。この時ばかりは、勇者として仲間と旅をしていた頃の思い出がありありと浮かんでくる。

「っしゃー! やるぞー!」

というわけで、昼食の準備に取りかかる――前に必要なものを出してしまう。