軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談32話、ネガティブ騎士 ――メリンダ

銀の救護団は、聖女レーラが始めた人々への救済活動を行う団体だ。

しかし、実のところ、レーラ自身は、そんな大きな話になるとは思っていなかった。はじめは自分にできることを、ということで、被災した土地を回って聖女の力で、怪我や病などから人を救う、程度しか考えていなかった。

個人でできることでは限度がある。あれもこれもと欲張ることはできない。

だが、聖女の一人旅など、周りが許すはずもなく、メリンダやカマル、カリュプスメンバーらがレーラを守るべく行動を共にすることになった。

そうなると、一人で行動するよりも色々できることが増えた。

被災地で不足する物資の調達、壊れた建物や設備の修繕などで、元暗殺組織カリュプスのメンバーたちの一般社会スキルが大いに役に立った。

食事を作るにも、工作をするにも、元暗殺者たちはその力を発揮し、力仕事も、被災地の警備などでも活躍し、次の土地へ移動する時は、現地住人からこのまま残って欲しいと懇願されることもしばしばあった。

そんな中、一団にあって、一人密かに悩んでいる者がいた。

メリンダ・カーライル。元パルラント王国の騎士、別名『百人殺しのメリンダ』と呼ばれた女傑だ。

もっとも、一見すると異名ほどの貫禄はなく、見た目も割と中性的な雰囲気だが、比較的笑顔も多く、人当たりもよい印象を与える。結構ストレートな発言をしてしまう辺りは、体育会系なところがあるが、真面目。ややネガティブな思考に走る傾向にあった。

勇者ソウヤと共に戦った元勇者組であるのだが、どうにもそこらにいる線の細い騎士にしか見えない。

「……で、今度は何に落ち込んでいるんだ?」

勇者パーティー組であるカマルが、メリンダに声をかけた。かつての仲間として、他のメンバーに比べれば仲のよい関係だ。

「なに、顔に出てる?」

「出てる。お前はわかりやすいからな」

エンネア王国の諜報員であるカマル。勇者パーティーで仲間にならなければ、おそらく付き合いなど一生なかっただろう男であるが、これが職業柄か鋭い。

「いや、お前の顔なぞ、諜報畑の者でなくともすぐにわかる」

呆れた顔になるカマルである。聞こえていたらしいレーラが、メリンダに控えめな笑みを向けてくる。……聖女様もお見通し、という顔である。

「で、何を考えているんだ、メリンダ?」

「なに、あんた。私のおかんか?」

「割と世話焼きだと言われることはある。父親でも母親でもないんだがな」

カマルは、どこまでも皮肉的である。

「家族のことを考えていたのか? それとも故郷?」

「うっ……」

「図星か?」

「……図星じゃないけど、思い出したくないことを思い出させてくれて、どうもありがとう」

メリンダにとって、故郷や家族の話は考えたくない事柄だ。カマルももちろん知っているのだが、折をみて故郷の話へと持っていきたがるのだ。メリンダの家族は生存しているのだが、彼女が家族と顔を合わせようともしないのが、カマルには気になってしょうがなかった。

「家族でも故郷でもないなら、何を悩んでいる?」

「それを話さないとダメなん?」

「お前、レーラ様の護衛だろ?」

カマルが視線を合わせ、睨んでくる。

「警護対象に心配させるな、と言いたいだけだ」

「あ……」

メリンダははたとなる。レーラは持病を抱える老人に癒やしの力で手当てをしていたが、振り返ってメリンダを見る。そして『私は気にしていないよ、本当だよ』という笑顔を向けた。

これはよろしくない。カマルに指摘された通り、護衛のためにいるのに不安にさせるなど言語道断である。何をやっているんだ、私は!――自分を殴りたくなるメリンダである。

「ちょっと付き合ってくれる?」

「デートか?」

「バカ!」

メリンダは、レーラに少し離れます、と言ってから、その場を離れた。しかし視界の中に、ちゃんと警護対象は収めている範囲内である。

そこまできて、メリンダはカマルに話した。

「悩みというか、私はこのままでいいのか、ということを考えていた」

「ほう? ……続けてくれ」

「私は騎士で、レーラ様をお守りするために、ここにいる」

「そうだな」

「ただ……私ってお役に立てているのか、いまいち自信がもてないのよ」

ガルやオダシューらカリュプスメンバーは、メリンダと同じく聖女を守るためについてきた。しかし、被災地となれば、レーラが必要と感じた作業を率先して行動した。

警護だけでなく、被災者の手当てだったり、瓦礫の後片付けだったり、炊き出しだったり。食料確保のために、魔獣退治に向かったり、調達に出かけたりを手分けしてやっている。

それに対して自分は? レーラの警護以外、特に何もしておらず、ただ彼女の周りにいて周囲に睨みを効かせている。

「……なるほど。周りが手を動かしているのに、自分だけ立っているだけで、無駄飯を食っている、と」

「無駄飯……」

ズーン、とメリンダは沈んだ。こういうところは、本当にネガティブなのだ、彼女は。カマルは頭を掻く。

「カリュプスの連中が、他の作業をやれるのも、お前がレーラから離れずしっかりガードしているからだろうが」

「へ?」

わかっていない様子のメリンダの間抜け顔を見やり、カマルはため息をついた。

「いいか? お前が立ってなければ、ああして作業しているカリュプスの誰かがレーラの護衛についていた。そいつが住民のためにできていた作業ができずにな。お前はどうせ護衛しかできないんだから、それでいいんだ」

「けっ、一言余計だっつーの」

メリンダが片眼を閉じた。

「でもまあ、私も役に立っている。それで間違いないわね?」

「うんまあ……役に立っている……かな?」

「そこははっきり言いなさいよっ!」

まったく、とメリンダは嘆息した。しかし「まあいいか」と思考を切り替える。そこでカマルが真顔になった。

「それで、ついでだから聞くけど、お前、パルラント王国の方はいいのか? 一応、騎士なんだろう?」