軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後日談22話、その後の話――ナールの証言

トド・アンダールは物書きである。二十三歳。細身だが、旅慣れていて足腰は強い。彼は旅をしながら、そこで見聞きしたものを書き留め、旅行記にまとめて本にしていた。

そんな彼は、かの有名な銀の翼商会と遭遇した。

勇者ソウヤが、新たに現れた魔王軍を壊滅させ、魔王と相討ちをしてしばらく経っていた。勇者はいなくなったが、彼の起こした商会はまだ活動をしている。

これは遠出するチャンスだと思った。トドは、銀の翼商会と交渉してしばらく同行する許可をもらった。

しかし、ただ一緒にいるだけというのも、物書きとしてなんなので、折に触れて商会の話を聞いてみた。

・ ・ ・

魔王は勇者ソウヤがその身と引き換えに討伐した。しかしこのことは、ソウヤを知る者たちには大きなショックをもたらした。

「ショックなんてもんじゃなかったよ」

そう語るのは、銀の翼商会で料理を担当していた元盗賊のナールである。何でも魔族に心臓を取られて操られていたという、いささか信じがたい過去がある男だ。銀の翼商会に救われて、以来行動を共にしているという。

「商会内の衝撃は凄まじかった。まさかソウヤの旦那がくたばるなんて、誰も思っちゃいなかったからな」

だから、どうやら相討ちしたらしいという話が周囲に伝わる一方で、銀の翼商会の面々はソウヤたちの生存を信じていた。

だがソウヤにミスト、クラウドドラゴンが消えたこと、その後のアクアドラゴンの行動を見て、その消失が現実となって押し寄せた。

『魔王は死んだ。それは間違いない。ソウヤたちの反応もない。おそらく生きてはいないだろう』

アクアドラゴンが銀の翼商会を離れた。影竜もまた、その事実を受け止め、子供たちに言い聞かせた。

「それからが大変だった。最初に泣き出したのは子供ドラゴンのフォルスだった」

父親のように慕っていたソウヤの死に、子供ドラゴンが感情を爆発させた。

「もうそれでしまいよ。これまで気丈にも旦那の生存を信じていた商会メンバーも、現実を直視するしかなくなった」

セイジは、その日は作業に手がつかなかった。ソウヤやミストと親しかったソフィアが泣きじゃくり、彼女を慰めつつ、自身も茫然自失になりかけた。

聖女レーラ、そして妹のリアハはそれぞれ自室にこもった。

「リアハ姫の部屋からは嗚咽が聞こえてきた。可哀想ではあったよ。あの人、旦那に好意を持っていたからなぁ。でも心配になったのは聖女様のほうだ」

何せレーラの部屋は、物音がほとんどしないほど静かだったからだ。

「これ、もしかして部屋で自殺してるんじゃないかって騒ぎになりかけた。オダシューが確認して、きちんと生きていたからよかったけど……あんときゃ肝が冷えたね」

聖女の身を案じたカリュプスのオダシューらが確認して安堵したのもつかの間だった。そのカリュプスメンバーらも、ソウヤの死亡は動揺となって広がっていたからだ。

「あいつら殺し屋集団の生き残りだろ? 人の死で動揺するなんて微塵も思っていなかったから、あれにはオイラも驚いたね」

暗殺者たちには、後悔の念が重くのし掛かっていた。その時の心境は、ガル曰く――

『俺たちは、もっとソウヤの近くにいるべきだった。魔王との戦いでも彼と共に戦い、身代わりになってでも彼を守るべきだった……!』

ガルやカリュプスメンバーは、ソウヤに強い恩義を感じていた。自分たちはいつ死んでもおかしくない暗殺者。社会の中で、忌み嫌われる殺し屋。だがそんな彼らをソウヤは、受け入れてくれた。

どこかで彼は死なないと思っていた。その油断が、最期の瞬間に立ち会えず、まして盾になることもできなかった。これに、ガルたちは強く憤った。主を先に死なせるなど、暗殺者の恥だ。

「ガルの奴は、本気で自決も辞さねえほど荒れた。いつもの冷静さが嘘のようだった。そんなあいつを止めたのは、同じカリュプスのオダシューだった」

『おれらは、まだ死んじゃあならねえ。何故なら、おれたちが命を賭して守らなきゃならない方がもう一人いる!』

それはレーラ。カリュプスメンバーの呪いを解いてくれた聖女である。彼女への恩義もまた、ソウヤと同じくらいあり、その女神のような慈悲は、暗殺者たちの心にも平穏を与えた。差別しない彼女、そしてソウヤとの関係もあったから、亡き勇者のため、聖女は何としても守らなければならない――それでカリュプスメンバーたちの心は決まった。

「もし、聖女さんがいなければ、おそらくガルは早々に命を絶っていただろうなぁ」

古参メンバーたちは打ちのめされていたが、所属して比較的日が浅い者たちもまた、沈痛な空気の中にいた。

「ふだん、人の死にも動揺しなさそうな古参連中が、人が変わったようにショックを受けていたのは、オレら新参にも影響していたよ。社長と一番親しかったセイジとかリアハ姫はまあわかるが、ふだんから前向きなライヤーなんかも、自室で酒くらって泣いていた」

厨房でも、ロイとシェーラもお通夜状態。おかげでほぼナールが一人で切り盛りする状況だったが、メンバー全体に食欲がなかったから、それほど大変ではなかった。

「メシを何杯もおかわりするような奴らでさえ少食になっていた。一番大変だった頃は、まだロイとシェーラが使い物になっていたからなぁ。銀の翼商会にとって不幸だったのは、ソウヤの旦那と、中心に動かしていたミストとジン爺さんの不在も大きかったと思う」

商会の先頭を行っていた者たちが、ごっそりいなくなってしまった。あの老魔術師は、魔王軍とファイアードラゴンの眷属をまとめて倒す作戦の中、異世界の穴に引き込まれて行方不明。ミストは、クラウドドラゴンと共に、ソウヤと同じく消えた。

「じゃあ、誰が仕切るんだって話になるが、歳からいってライヤーだが、あのザマだったし、オダシューはその忠誠を聖女様に向けて、カリュプス組を何とか持ち直させていた。商会どころじゃなかったんだ。じゃあ、銀の翼はどうなるんだよ、ってことになる」

ナールは手を振った。

「オイラはただの料理番。商売の話なんてわからねえ。……で、ああだこうだ言っているうちに、銀の翼商会最古参に決めてもらおうって話になった。そう、二代目社長になるセイジさんだ」

セイジは、一番商会の仕事に精通していた。だからこそ、ソウヤ無き銀の翼商会でできることとできないことを素早く分けて、商会の縮小を決めた。

「まあ、できねえことは逆立ちしたってできねえからな。その辺、社長はよく働いたよ。本来、支えてもよさそうな元勇者組も動揺していたし、そもそも銀の翼商会の仕事もあまり関わっていなかったから役に立たなくてなぁ。……あー、オイラ? オラぁ、いつでもメシを作るだけさ。人が生きていくためにゃ、腹が減ってはなんとやらだからな」

当初の混乱をセイジが引き継ぐことで、再び回り出した。少なくともソウヤが不在になり、銀の翼商会存続、というか自壊を阻止したのは、セイジの働きだと、ナールは証言した。

「そんな社長だから、オレらもついていったんだ。まあ、オイラの場合は他に行くあてもなかったしな。……感謝しているよ。セイジ社長にはね」