軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第632話、ファイアードラゴン・チェイス

プラタナム号の前方から、新たな飛行体が近づいてきた。その数、およそ50体ほど。

『来た』

クラウドドラゴンの声が、通信機を通してソウヤの耳に届いた。

ファイアードラゴン。伝説の四大竜のうちの1体。クラウドドラゴン、アクアドラゴンと同格とされる炎の大竜である。

「今さらだけど、ファイアードラゴンと会話――」

『ソウヤ、避けて!』

ミストの緊迫感溢れる警告に、ソウヤはとっさに操縦桿を傾けた。プラタナム号が右へとスライド回避。そのすぐ脇を極太の炎が通過した。

『装甲表面の温度、急上昇!』

「当たってないよなっ!?」

モニターに表示されている船体図には、被弾表示は出ていない。が、左舷側の外枠が赤くなっていく。その意味は、おそらく今の炎攻撃による船体表面が加熱していることを表しているのだろう。

『ギリギリでしたが、もう少し遅ければ、装甲表面が溶けていたかもしれません』

「ミスト、甲板は大丈夫か!?」

プラタナム号ですら、至近通過でダメージを負いかけた。むき出しの甲板にいたドラゴンたちは、その高温に少なからず晒されていたかもしれない。

『こっちは大丈夫よ』

『あっついーっ! あったまきた!』

ミストに続き、アクアドラゴンが吠えた。ソウヤは一息つく。生身の人間だったら危なかったも。

『後方の眷属、約30が、先ほどの熱線を浴びて消滅』

「マジかよ。ファイアードラゴン、自分の眷属もお構いなしか」

これは話ができない、とソウヤは思った。もうすでにプッツンされているようだ。

『警告、ファイアードラゴン、急速接近!』

「おらっ!」

グンと船体を急旋回。そしてあっという間に、赤い大竜とすれ違った。

「こっちにもドラゴンがいるってのに、ほんと容赦ねえんだな……」

『話し合うだけ無駄』

クラウドドラゴンの声。

『さっさと逃げる』

「了解!」

ソウヤはフットペダルを踏み込み、プラタナム号を加速させる。しかし――

『前方、約50の眷属』

「そうだった!」

ファイアードラゴンは通り抜けたが、それが引き連れていた眷属たちとはまだすれ違っていない。

『プラタナム、応戦だ! 突破するぞ!」

避けていたら、後ろからファイアードラゴンに追いつかれるかもしれない。

船首側の電撃砲が電撃を放った。さらに甲板のミストやクラウドドラゴンらが、ブレスを放ち、わらわらと近づいてくるファイアードラゴンの眷属を蒸発させていく。

「ちっ、数が多い!」

正面から突っ込んだから、プラタナム号は眷属らの間に入り込む。迎撃して何十体かが、瞬く間に消えたが、攻撃を受けなかった眷属が突っ込んでくる。

「揺らすぞ! 掴まってろ!」

回避機動。モニターに映る眷属たちの間を、右へ左へすり抜ける。プラタナムが船体にある電撃砲を総動員して、回避しながら反撃している。

時間にして数秒の出来事だった。プラタナム号は正面からきた眷属の群れを飛び抜けた。

『神回避です、勇者ソウヤ!』

「どうも、プラタナム。……甲板、全員いるか!?」

派手に動いたから、振り落とされた者がいないか心配になる。一応、全員ドラゴンだから、落ちても飛行できる。即死はないが、ファイアードラゴンと眷属の集団に追われている状況なので、それでも危ない。

『全員いるわよ。……何とかね』

ミストが報告した。

「何とか?」

『ヴィテスが落ちかけた。……フォルスが助けたから何とか、よ』

『ボク、お兄ちゃん!』

鼻息もあらく、フォルスの声がした。どっちが兄とか姉とかないと思っていたが、いつの間にあのワンパク子どもドラゴンは兄を自称するようになったのか。中身は、人間の知識を有するヴィテスのほうが、すでに成人以上の知識を持っているのだが。

『後方、熱源!』

「回避する! 掴まれ!」

ソウヤは警告と同時に、飛空艇を左旋回させる。熱源――ファイアードラゴンのブレスが駆け抜け、大地を削ると、火山の噴火の如き、大爆発を起こした。

――下に町があったら、いまの一発で全滅だ……!

伝説の大竜、その威力恐るべし。クラウドドラゴンだってジーガル島全土を大嵐に巻き込んだし、アクアドラゴンもタイダルウェーブで軍港を破壊しまくった。四大竜の力は、伊達ではない。

「甲板、無事だな? 子供たちは船内に。まだ派手に動くぞ」

成人ドラゴンはともかく、フォルスとヴィテスは落ちたらまずい。ソウヤはモニターをチェックする。

ファイアードラゴンとその眷属は、しっかり後についてくる。

「これはますます、ファイアードラゴンを浮遊城にぶつけたくなった!」

鬼ごっこは続く。プラタナムは、ドラゴンの眷属たちが続々集結しつつあると知らせてきた。

どうやら、ファイアードラゴンが呼び寄せたようだ。それは好都合。ウェルド大陸に散っていた眷属たちが集まってくれるのなら、真っ直ぐ魔王軍のもとまで引き寄せられるということだ。

「後は――」

プラタナム号を傾けて、回避。後ろから再び地獄の業火にも等しいファイアーブレスがすり抜けていった。

「こいつに当たらないように逃げるだけだ」

・ ・ ・

気に入らない。

ファイアードラゴンは怒りを滾らせていた。

暗黒大陸に引き続き、ウェルド大陸の蹂躙。無駄な抵抗をする愚か者どもがいたが、圧倒的なドラゴンの力の前に、灰となった。

弱き者どもが消えゆく様は、ファイアードラゴンの破壊衝動を大いに満たした。

だが、途中、不愉快なものを感じた。それは他の四大竜――自分と同格とされる忌々しい大竜の気配だ。

――風と水か。

それを感知した時、ファイアードラゴンは直属の眷属と共に進路を変えた。自分たちのテリトリーにいればいいものを、何故このような『誰のテリトリーでもない』場所で、奴らがいるのか。

――ここも自分のテリトリーだと言うつもりか? 気に入らない、気に入らないぞ!

かくて、ファイアードラゴンは、気配のもと、プラタナム号へと向かい、そして襲いかかった。

不愉快な他ドラゴンの気配を消すために。ファイアードラゴンは、一度たりとも、他の四大竜と言われる存在を同格と認めたことはなかった。