軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第594話、新・魔王と天空城

古代文明の遺産、天空城。

逆三角形の浮遊島の上に建てられた城だった。無数の突起が左右に張り出していて、全体的に奇妙なシルエットを形成している。

それが暗黒大陸をゆっくりと移動し、魔王軍の飛空艇艦隊へと近付きつつあった。

魔王軍第一親衛飛空団の飛空艇。魔王軍の幹部であるサキュバス・クィーンであるブルハは、向かってくる天空城を憎々しげに睨んだ。

「ナールトゥめ。どこまでもドゥラーク様に逆らって……!」

先代魔王の死から十年も経ち、一向に復活させることができない先代魔王を諦め、新たな魔王の座につこうとする者たちによる内乱となった魔族世界。

人類への復讐のために準備された力や軍備を用いて、魔族同士の衝突が繰り広げられる中、新・魔王ドゥラークは、魔族統一を開始。着々と反抗勢力の討伐、魔族の再統合が進められていた。

「――ナールトゥは、降伏しないか」

「ドゥラーク様!」

ブルハはひれ伏した。

「実に申し訳ございません。敵は、こちらからの降伏勧告に応じず――」

「『天空城で踏み潰してやる』だったか……。私も彼の返事は聞いたよ」

銀髪の青年姿であるドゥラークは、薄く笑った。

「私が新たな魔王である――それを言ってもわからない無能は、魔王軍には必要ないな」

「はい」

ブルハは同意した。

「しかし、あの天空城は強力な魔法障壁があり、こちらからの攻撃を受け付けません。それ故、奴は強気なのでしょう……!」

自称、魔王の後継者ナールトゥは、先代魔王の配下ではあったが、直接的な血の繋がりはない。上級の悪魔族ではあるが、種族の頭目というわけでもなく、ただ己が手にした力に酔いしれているのだろう。……この力があれば魔王になれる、とか何とか。

「あの天空城、欲しいな」

ドゥラークは笑みを浮かべた。

「あれならば、飛空艇艦隊の空飛ぶ港としても使えそうだ。何より見た目がよい」

見る者に畏怖を与える形状。これが空に現れれば、地上の人間たちは恐れおののき、絶望するだろう。

――ああ、まさに魔王とはこういう存在でなければ。

一目見ただけで理解させる圧倒的な力。それこそ魔王だと、ドゥラークは思う。

「壊してしまうのも惜しい。あれを手に入れる」

「はい、陛下。ですが、どのように……」

困惑するブルハ。ドゥラークは歩き出した。

「私が直接乗り込む」

「陛下!?」

ブルハは慌てた。

「まさか、お一人で――」

「当然だ。私は魔王なのだからね」

ふわりと浮き上がるドゥラーク。

「新参者たちの目もある。ここは、私に任せてくれたまえ」

飛空艇の甲板を離れたドゥラークは、灰色肌の蛇竜に姿を変えると、風のように天空城へ飛んだ。

見えない魔法の壁が、その侵入を阻む。……否、阻めなかった。

障壁は砕け、天空城の外壁の一角が崩れる。そのまま壁を破壊し、ドラゴンは城の中枢へと乗り込む。

「な、何事だーっ!?」

天空城玉座に収まっていた上級悪魔のナールトゥは、突然の振動に驚いた。王の間の強固な壁があっさりと崩れ、そこにひとりの青年が現れる。

「きっ、貴様は、ドゥラーク!」

「ごきげんよう、反逆者君」

ドゥラークは悠然と玉座に近づく。ナールトゥは慌てた。

「者共、侵入者だ! 殺せぇー!」

警備についていた魔族兵のほか、わらわらと兵が集まってくる。

「ナールトゥ君」

その瞬間、ドゥラークが飛んだ。瞬きの間に、ナールトゥは左肩を蛇のような腕に噛みつかれ、銀髪青年の顔がすぐそばにあった。

あまりの早業、高速移動に、ナールトゥは相手を知覚してからにして、ようやく肩に痛みを感じだした。

「やはり君は馬鹿だな」

ぐぐぐっ、と左肩に凄まじい力がかかり、牙がめり込む。肉が、骨が砕かれて潰されていく。

「あがががががが――」

「どうした? 君も魔王を名乗るのならば、この程度では困るのだがね」

「グアアアアアアァァー!」

左肩を砕かれ、ナールトゥはドゥラークの腕に飲み込まれた。魔族兵らは呆然と立ち尽くす。

ドゥラークは平然と玉座に座った。

「さて、諸君。私が誰かなどは言わずともわかっているだろう。ただちに障壁を解除し、我が軍を迎えよ」

「……」

魔族兵らは困惑して、お互いに顔を見合わせる。ドゥラークが上司のように振る舞っているが、兵たちは、先ほどまでナールトゥに従っており、いわば敵なのだ。まるで自分の部下に対するようなドゥラークの態度が、どこまで本気なのかわからなかった。

「どうした? お前たちは誰に従っているのだ?」

ドゥラークは言った。

「忠勇なる魔王軍の兵士諸君」

「! ……ドゥラーク陛下、万歳!」

とある魔族兵が声を張り上げて敬礼した。

「魔王様、万歳っ!」

「魔王様、万歳っ!!」

兵たちに伝染したように『万歳』の声が、玉座に響き渡る。

それは保身だったのか。しかし魔族兵たちは、自分たちの主が、魔王の息子であるドゥラークであることを思い出したように、声を絞り出した。

万歳の声は天空城中に伝播した。やがて城を守っていた障壁が解除され、魔王軍の飛空艇艦隊を迎え入れた。

玉座の間にやってきたブルハは、膝をつき、頭を垂れた。

「お見事です、魔王様」

「ふむ。……あと残る反乱者は何人いたかな?」

「はっきりわかっている者は、あと2名でございます。奴らを討伐すれば、すべての魔族は、魔王様にひれ伏しましょう。その後は、人類を――」

着々と地固めと戦力増強が進む魔王軍である。復讐の日は近づきつつある。