軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第587話、追跡調査

エルフの女性アガタの件は、謎が深まる結果となった。

「で、結局どういうことなの?」

ミストは問うた。ソウヤは肩をすくめる。

「見た目はエルフだ。そしてカーシュやダルのよく知る女性の姿をしている。……ただ、それだけなんだ」

ゴールデンウィング二世号の船室。いるのはソウヤとミスト、そしてリアハである。

「記憶がない。でも記憶喪失ではないってフラッドは言っている。そもそも失う記憶すらなかった」

「でも、名前は覚えていたんですよね?」

リアハはお茶をすする。ソウヤは首を横に振った。

「それも怪しい。覚えていたのではなく、誰かにその名前で呼ばれたから、そう名乗っている感じだ」

「誰よ?」

ミストが唇を尖らせた。

「その、あのエルフにアガタって名乗らせたのは?」

「それがわかれば、苦労していないよ」

そもそも推測の域を出ていない話である。本当は名前を覚えていた、という可能性も無きにしも非ずなのだ。

「魂の記憶すら空っぽなんだ。ある日突然、何も知らないまま世界に放り出されたような」

「でも、会話はできるんですよね?」

リアハが指摘し、ソウヤは手を上げた。

「それもわからないんだよな。何もかもまっさらに見えて、会話はできる。じゃあ、どこで覚えたのって話になるけど、それもわからない」

「つまり、何もわからないってことじゃないの!」

ミストが憮然とする。

「そ、何もわからない。ただフラッドによれば、魂までまっさらなのは異常だ。生まれてあの姿になるまで、少なくとも数十年は経っているはずで、そこまでほぼ魂にも記憶がないってのはおかしいって」

「お爺ちゃんには聞いてみた?」

困った時のジン・クレイマン。もちろん、フラッドの診断の後、彼にも相談してみた。

・ ・ ・

『普通のエルフに見えるね』

ジンは言った。

『ホムンクルス、あるいはクローン。その類いなのかもしれないなぁ』

人工生命体――老魔術師はそう指摘した。

『魂の記憶とやらですら引き出せない仕組みでもない限り、私もフラッドの言うように、彼女は作られた存在で、過去などないという意見になるな』

・ ・ ・

「爺さん曰く、体はエルフ。アガタをベースにしているが、カーシュたちが知っているアガタとは別人だってさ」

ソウヤが言えば、ミストは首を傾げた。

「エルフで間違いないの? 何かが化けているって可能性は?」

「シェイプシフターですか?」

リアハが考えて言えば、ミストは頷いた。ソウヤは微笑する。

「体はちゃんとエルフだったよ。シェイプシフターでもドッペルゲンガーでもない。魂の記憶は嘘をつけないからな」

シェイプシフターの可能性はソウヤも思ったから、ジンに調べてもらった。だからそっちでは違うことが判明している。

「それで、アガタさんはこれからどうなるんです?」

「カーシュが、しばらく面倒を見ると言っている」

つまり、銀の翼商会にしばらく置いておくということではある。最初にアガタを連れてきた時、そう申し出て、ソウヤも許可したからそこは変わらない。

「今、ダルとオダシューが、王都セーラに戻って、例の悪徳商会の関係者から、どういう経緯でアガタを連れていたのか聞きに行っている。それで何かわかればいいんだけどな」

あるいはその業者――モンテ商会が何か重要な情報を持っている可能性もある。

ミストは鼻をならす。

「聞いてると、そのアガタってカーシュの知っている彼女とは別なんでしょ? よく面倒を見る気になるわよね」

「親しい人と瓜二つとあれば、他人とは思えないんでしょうね」

リアハは俯いた。

「勝手な想像ですけど、私も十年、姉のレーラが生死不明でした。それが突然、現れたなら、たとえ記憶がなくても姉ではないかと思って、面倒をみたと思います」

その十年、アイテムボックスでレーラを預かっていたソウヤとしては、少し滅入る話ではある。

生存を信じる家族からすれば、そういうものかもしれない。

「でも、別人よ?」

「それは今回、フラッドさんたちがいたからわかっただけで、普通なら、本人と思ってお世話すると思いますよ?」

死んだあの人じゃないか――カーシュは、なおもそれを引きずっているかもしれない。フラッドやジンが否定しても、頑なに愛したエルフ女性ではないかと信じたいのではないか。

――いや、カーシュにもそれがわかっているが、一度守ると言った以上、騎士として約束を果たそうとしているだけかもしれない。

「どっちにせよ、何か放置しておくのは気持ち悪い案件だ」

「調べるの?」

ミストが聞いてきた。ソウヤは頷く。

「別人だったとしても、何でアガタの姿をしているのか? それも名前まで一致しているとなると、ちょっと偶然が過ぎるんだよな。もしかして、オレたちが知らないだけで、他にも同じように、死んだと思っていた人が彷徨っているなんてこともあるかもしれない」

「何だか怖い話ですね……」

「だな。それで、爺さんとダルの提案なんだが、一度アガタの出身地であり埋葬した場所でもあるクルの森に行くことにした」

そこでお墓を調べるのが、手っ取り早い。仮に本物のアガタだったとすれば、墓は空っぽになっているはずだ。

現状、現場を直接見たほうが、ある程度はっきりすることも多い。

「何かの陰謀じゃないといいんだけどな……」

「まさか、魔王軍の――」

リアハが視線を鋭くさせる。ソウヤは手を振った。

「何でも魔王軍の仕業って考えるのはよくないが……。万が一にもそういうことがあれば、やっぱり見過ごせないよな」

どうか魔王軍は関係していませんように。――だとしても、どの道面倒な予感しかしないが。