作品タイトル不明
第568話、今の戦力は――
ジーガル島の魔王軍大軍港を叩く。
ニーウ帝国が 一(いち) 段落ついたと思った矢先にこれである。ソウヤは静かに息をついた。
「そういや、あったな」
魔王軍は多数の飛空艇を建造、準備をしている。10年前の世界侵略を再び。
「連中の大陸侵攻軍を叩いたから、しばらく静かになると思ったんだがな」
「当面、大人しくなるだろう」
ジンは認めた。
「だが、それも今、建造している兵器が完成し、前線に配備されるまでだ。魔王軍が人類への復讐を諦めたのでなければ、猶予期間が伸びただけに過ぎない」
人類側が、魔王軍の侵攻に対抗できる戦力を獲得するための時間稼ぎ。
老魔術師は腕を組んだ。
「魔王軍の捕虜の話でもあっただろう。次の魔王と目されるドゥラークは、自らの足固めを行っていると。それが終われば、彼らは本格的に人類に牙を剥く」
「もう、ちょっかいを出されてるんだよな」
ニーウ帝国は、知らないうちに魔族の手に落ちかけていた。
「本気を出す前にこの体たらくだよ。ドゥラークがその気なら、今頃、人類はこの大陸の半分以上を奪われ、なお劣勢だっただろう」
何せ空からの攻撃を防ぐ手段が圧倒的に不足していたから。為す術なく占領された国も多かっただろう。
ソウヤは表情を引き締める。10年前に勇者として戦った人間として、その光景は見たくはなかった。
「戦争というのは、相手がいることだ」
ジンは強調した。
「一方の都合だけではどうにもならん。相手が攻撃の意思を向けてきた時点で、こちらは準備ができていない、戦いたくない、など通用しない」
「わかってるよ」
ソウヤは微笑する。
「爺さんは、かつての王様だ。オレなんかより、よっぽど世界ってもんが見えているだろ。そんなあんたが言うんだ。たぶん間違ってない」
ただ――
「オレは元勇者だが軍隊全体の動きってものは、まだわかってねえ。もし手間じゃなけれりゃ、オレにもわかるように説明してくれないか?」
「君のそういう謙虚なところは、私は好感を抱いている」
ジンは顎髭を撫でた。
「謙虚か?」
「ああ。『オレは勇者だ。オレの力で何とかできるから黙ってろ』とか、『オレが魔王を倒した。お前たちはオレより弱いから、オレの言うことを聞いていればいい』とか言わないからね。謙虚だと思うよ」
「オレ、そんなこと言ったか?」
「世の中には、そういう勇者もいたんだよ。……君も知っているだろうが、私はいくつも異世界を渡った人間だからね」
老魔術師は笑った。
「間違っても、君のことじゃないから安心しろ」
「そうならないように気をつけよう」
そういうところだぞ、とジンは思った。他人のことなのに、自分のことのように受け止め、教訓とする。オレは違うからー、で流さない。
「それで、オレたちは魔王軍の大陸侵攻軍の拠点を潰した。足掛かりを失い、時間は稼いだと思ったが、このタイミングでジーガル島を攻略しようって意図は?」
「なに簡単な話だ。人類側が空からの攻撃に耐えられるように準備を整えている間に、魔王軍も戦う準備を進めている」
時間は敵味方関係なく流れている。こちらだけ流れて、相手が止まっているなんて都合のいいことは起こらない。
「敵にはすでに10の戦力がある。そしてなお準備中だ。こちらがようやく10の戦力を揃えた時、敵は戦力が20になっている」
猶予を得たと喜んでいたのも、つかの間。仮に人類側で飛空艇軍団を運用できるようになった時には、魔王軍は倍以上、さらに数倍にもなっているだろう、という推測である。
「いま、T工房の遺産を配っていることで、人類側は戦力化までの時間短縮を行い、魔王軍との遅れを取り戻そうとしている」
船を一から建造しなくていい分、その時間はショートカットできた。だがそれを運用するための施設や人員、乗組員の練成には時間が掛かる。
「元から準備期間では魔王軍が一歩も二歩も進んでいた。この差を縮めるのは簡単ではない」
駅伝みたいなものだ、とジンは、この世界の住人には通じない例えを出した。出だしで躓いている分、先頭の魔王軍と後続の人類側では差が開いている。
「ではどうするか? 相手の足を引っ張ればよい。つまり、転ばせるのだ」
魔王軍の準備の邪魔をしてやる。
「すでにある10に加算されるだろう次の10を除外してやれば、こちらが10を揃えた時、向こうも10だ」
10と10なら五分五分である。
「もっとも数字はあくまで例であり、現状でもおそらく魔王軍のほうが飛空艇を沢山保有しているだろう」
「つまり魔王軍への妨害をしないと、こっちが数を揃えても、向こうはさらに数が増えて、手に負えなくなると」
「そういうことだ」
ジンは頷いた。ソウヤは首を捻る。
「話はわかるが、ジーガル島を叩けるのか? オレたち、一度攻撃を諦めているだろう?」
銀の翼商会の戦力では攻略できない。エンネア王国の飛空艇艦隊でも足りないから、各国の航空兵力を増やそうと、銀の翼商会が飛空艇販売という行商活動をして回っているのだ。
「今はニーウ帝国と、我らがリッチー島傭兵同盟がある。我々が提供した船は無理だが、すでにそれぞれの国の前線に配備されている船を結集すれば……どうかね?」
「……!」
銀の翼商会に5隻。エンネア王国に10隻。グレースラント王国は無理として、ニーウ帝国に12隻。そしてリッチー島傭兵同盟の遊撃部隊に大小合わせて16隻。
合計43隻。
もちろん、エンネア王国とニーウ帝国が現有戦力の全艦艇を投入することはないだろうが、これに近い数字の船を出してくれたなら、飛空艇戦力については充分、ジーガル島へ攻撃を仕掛けることができるだろう。
「いけそうだ。数字の上では」
「そう、数字の上では」
ジンは深く頷いた。
「実際、各国が我々の考えるように動くとも限らないし、複数国家が関わる以上、指揮権の問題や連携について、解決しなければならない問題も多いだろう」
だが、と老魔術師は不敵な笑みを浮かべた。
「魔王軍に対抗する上で、各国連合軍の問題は遅かれ早かれついて回る。早いうちに提案して、各国の尻を叩いておくべきだと思うね」