軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第566話、帝国解放

ヴェク城、皇帝の間。ソウヤはブロン皇帝――その偽物皇帝の前に立った。

「ニーウ帝国皇帝陛下の要請を受けて、化けの皮を剥がしに参りました」

にっこりと笑うソウヤに、偽皇帝は一瞬目を剥き、そしてその真意を悟った。

ニーウ帝国皇帝とは、自分のことではない。本物の皇帝の要請を受けてきたのだ。

そして化けの皮とは、クレンツォの正体を明らかにするために現れたを意味する。つまり、この場の救援ではなく、始めから『敵』として現れたのだ!

「曲者! 近衛! こやつを捕まえよ!」

皇帝の間に、偽物皇帝の声が響いた。これまで静観していた近衛騎士たちが動き出す。しかし――

「近衛騎士、そこを動くな!」

皇帝の叱責じみた声が響いた。

新たな声に一同の視線がそちらに集まる。見れば、白きドラゴンの入ってきたバルコニーから、ブロン皇帝が姿を現した。

家臣たちが驚愕した。

「皇帝陛下が、もうひとり――!?」

「なんと!?」

これには近衛騎士たちの動きも止まる。解放軍にもうひとりブロン皇帝がいる――その話は、当然の如く帝都中の噂となって聞こえている。

新たに現れた皇帝。それもいま玉座に座っている皇帝は魔族の変装だと主張しているのだ。

その顔が、まったく同じであれば、あの『噂は本当ではないか?』と家臣や近衛騎士を迷わせるに充分だった。

はっきりしているのは、どちらかが本物で、もう片方が魔族だということである。

「ええーい、何をしている近衛! 我に化けた魔族がおるぞ! 捕まえよっ!」

偽皇帝がヒステリックに叫んだ。だがその瞬間――

「偽の皇帝を捕まえるのは賛成だ」

ソウヤは目の前の皇帝――クレンツォに腹パンを食らわした。あまりの衝撃にクレンツォは意識を失い、倒れ込む。

これには近衛騎士たちが再度動きを止めざるを得なかった。玉座にいる皇帝からの命令を遂行しようとしたら、その皇帝が勇者に殴られたのだ。命令か、皇帝の身か――どちらが本物かわからず戸惑っているのが、優先順位を狂わせた。

――まあ、オレからしたら、どっちが本物かわかってるからな。

ソウヤはひょい、と偽皇帝の体を担ぎ上げ、本物のブロン皇帝のほうへと歩み寄る。サフィロ号から後続でやってきた兵たちが、皇帝の間に展開し、この場にいた家臣や近衛騎士は、ますます動けなくなった。

「こいつか……!」

ブロン皇帝は、気絶している偽皇帝を憎悪のこもった目で睨みつけた。

「皆の者、よく聞けい! 我になりすましていた魔族は捕らえた! 帝都に展開する軍を戻らせよ。そして帝都の住民を中央広場に集めるのだ! 皆の前で、この魔族の化けの皮を剥がし、首を刎ねてくれるわ!」

・ ・ ・

かくて、ニーウ帝国を弱体化させる魔王軍の企みは水泡に帰した。

本物のブロン皇帝が帝都に凱旋。そして帝国民の見ている前で、魔族工作員の正体が明かされた。

ここ最近の、民を顧みない政策は、魔族の仕業であることが明るみに出た。そして入れ替わっていた魔族――クレンツォは、ブロン皇帝の手によって斬首された。

ヴェク城の来賓用の部屋に、ソウヤはいた。皇帝からの差し入れというワインを頂いたが、飲んでいるのはリッチー島傭兵同盟を指揮する我らがクレイマン王、ジンだったりする。

「他の入れ替わり魔族もある程度、逮捕されていたが、ここからその残党も狩り出されて、じきに元の帝国に戻るだろう」

「とりあえず、一仕事終わったかな」

「ああ、お疲れ様」

乾杯。ソウヤも一口、赤ワインを飲んだ。

「ミストがヘソを曲げてた」

「暴れる気満々だったのに、皇帝の間では君ひとりでケリをつけてしまったからね」

老魔術師は苦笑した。

ミストドラゴンに乗り、ソウヤが皇帝の間で、問答をしている間、彼女は再び船に戻り、今度はブロン皇帝本人とその護衛を乗せた浮遊ボートを誘導した。

結局、ソウヤも偽皇帝をぶん殴った以外に、その力を振るうことはなかった。

「あの場にいたのが皇帝陛下の家臣たちだから、本当は戦っちゃいけない相手だったからな」

魔王軍の魔族兵ならまだしも、本来なら敵ではない家臣や近衛騎士を傷つけたり倒してしまうのは、さすがに遠慮したかった。

「貴族の入れ替わりを捕まえる時は、護衛を相手に立ち回ることもあったから、出番があると思っていたみたいだけど――」

「実際、君がうまく立ち回ったから、流血沙汰にはならなかった。だが場合によっては、鎮圧のために戦闘が起きていたかもしれない」

「どうやったら、双方に被害を出さずに偽皇帝を捕まえるか、色々考えたもんな」

ソウヤはもう一口飲む。

魔術師たちが睡眠魔法を使うとか、カリュプスメンバーを中心にした暗殺者たちに、近衛騎士を制圧してもらうとか、サフィロ号で直接バルコニーに乗りつけるなどなど。

とはいえ、そこまで大きなことをやれば、本物のブロン皇帝が場を制するまでに、異変に気づいた城の兵が駆けつけてきただろう。そうなれば、本格的な戦闘は不可避となり、双方に犠牲者が出たに違いない。

「まあ、何はともあれ、君の英雄譚がまたひとつ増えたな」

「よしてくれ。オレはただ魔王軍の企みを潰しただけだぜ?」

「いやいや、あの場で剣も抜かずに事を収めたのだ。謙遜しなくていい」

「別に謙遜しているわけじゃねえんだけどなー」

そこへ扉がノックされた。入ってきたのは帝国の文官。

「失礼いたします。陛下が参られました」

ソウヤが頷くと、ブロン皇帝が姿を現した。ソウヤとジンは席から立ち上がるが、皇帝はそのままと身振りで示すと、開いている席についた。

「勇者ソウヤ、そして魔術師ジン。貴殿らのおかげで、帝国を魔族の手から取り戻すことができた。礼を言う」

「もったいなきお言葉」

ブロン皇帝は、帝国を取り戻すことに貢献した銀の翼商会とリッチー島傭兵同盟に改めて感謝を表明した。

「この短期間で、それも帝国民の犠牲をほぼなく、事を収められたことは驚嘆に値する。普通ならば、いまだ我らは辺境にいて、解放軍の旗揚げをしたところだっただろう」

目を閉じ、感慨深げな顔になる皇帝。

「そして帝都の解放までに民同士が殺し合い、魔王軍の狙いどおり、人間同士で消耗していただろう。疾風迅雷。貴殿らの働きは、奇跡と言っても過言ではない」

それは過言ではないか――ソウヤは思った。

だがこの手の国を揺るがす内紛において、犠牲者がほとんど出なかったのは、古今例がなかった。

「貴殿らには大きな借りができた。本当にありがとう」

ブロン皇帝は深々と頭を下げるのだった。