軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第557話、皇帝救出

目的の皇帝の姿を確認した。見たところ、怪我をしている様子はない。ソウヤは通信機のスイッチを入れた。

「ウィザード、こちらソウヤ。皇帝陛下を発見。保護する」

『――こちらウィザード。了解』

ジンの声が通信機に聞こえた。

『監獄内の制圧は順調に進んでいる。警戒は必要だが、急いで退避することはない。安全に留意せよ』

「こちらソウヤ、了解」

交信終了。ソウヤは、しげしげと様子を窺っているブロン皇帝へと視線を戻した。

「ご無事ですか、皇帝陛下?」

老人――ニーウ帝国の皇帝ブロンは、おおっと声を上げた。

「外が騒がしいと思えば、やはり救援だったか。大儀……であるが」

老皇帝は首を傾げた。

「そちたちは、何者か?」

「大変ご無沙汰しております、ブロン皇帝陛下」

ソウヤは片膝をついて、頭を下げた。

「相木ソウヤ。エンネア王国に召喚された異世界勇者、地獄から帰って参りました」

「っ……! なんと、ソウヤ――勇者殿か!」

驚きつつ、ブロン皇帝は近づいた。

「そちは魔王との戦いで命を落としたと聞いた。……夢ではないか? 本当にソウヤか?」

「まあ、正確には10年間昏睡していたので、死んではいなかったのですが」

ソウヤは顔を上げて苦笑した。

「お久しぶりです。皇帝陛下」

「おお……おお、何ということだ」

老皇帝の目に涙が浮かぶ。

「これは不意打ちだ。……よもやよもや、余を助けに現れたのが、死んだと思っていた勇者だったとは。誰が想像できようか……!」

監獄生活のせいか、以前面会したときの厳かな皇帝という雰囲気は薄かった。心なしかやつれて見えるのは気のせいではないだろう。

「レーラ、皇帝陛下に治癒魔法を」

「はい」

控えていたレーラが部屋に入ってきた。その姿にブロン皇帝は、再度驚いた。

「これは……聖女レーラか? そちも生きておったか!?」

「ご無沙汰です、陛下。いま、魔法をお掛けします」

レーラは癒しの魔法で、皇帝の心身の疲れを取り除く。

「これは驚いた。勇者殿は十年と言われて、なるほど年を重ねたと思うたが、聖女殿は、以前と姿が変わっておらぬのだな」

「陛下もお変わりないようで」

「いやいや、余はこの通り老け込んだ。あまつさえ、魔族に帝国を乗っ取られるとは……!」

憤懣やるかたなし、とばかりにブロン皇帝は顔をしかめた。

「それにしても、外の騒ぎからして、来たのは、そちたちだけではあるまい? どこの軍が……」

「恐れながら……。話は長くなりますが、私の商会とそれと行動を共にする傭兵同盟で、ここを襲撃しました」

「商会……傭兵……?」

自分の国の軍隊ではなくて、がっかりしたかもしれない。困惑しているブロン皇帝にソウヤは重ねていった。

「まずは陛下の国の領空を侵犯したことをお詫びいたします。魔王軍の秘密拠点があるという情報を掴み、『勇者特権』を用いて越境、これを攻撃しました」

勇者特権――魔王の討伐および、魔王軍を撃退することに限り、その国の審査も許可も関係なく出入国が可能になる、という勇者の権利である。

これを使う時、ソウヤは『勇者』であることを表に出す必要がある。自称『勇者に憧れているファン』や偽の身分は使えない。

魔王と魔王軍の脅威に立ち向かうための人類国家の決まりだが、中には渋々協力している国や、勇者をあまり好意的に思っていない国もあるので、特権だけで全て上手くいくわけではない。

「――捕虜にした魔族から、陛下の御身が危険に晒されていると知り、駆けつけた次第です」

「そうだったか。いや、改めて大儀であった。余のために駆けつけたのだな。ありがとう、勇者殿」

ブロン皇帝は頭を下げた。お礼の言葉はまだしも、頭を下げられるとは思っていなかったので、ソウヤは目を丸くしてしまう。

そこへ通信機が鳴った。

『こちらオダシュー。帝国の要人が収容されている区画を制圧しました』

『こちらウィザード、了解した。ソウヤ、聞こえたか?』

失礼します、とソウヤは、一言、ブロン皇帝に断りを入れてから、通話ボタンを押し込んだ。

「こちらソウヤ、聞こえた。ウィザード、監獄の制圧はどうなっている?」

『大方、制圧した。生き残りがいないか捜索中だ』

「了解」

それなら慌てて、監獄から脱出する必要はないだろう。

とはいえ、ここに囚われていたブロン皇帝はどうだろうか? 1秒でも早く離れたいというのなら、さっさと移動したほうがいいかもしれない。

・ ・ ・

場所を変えるか確認したら、ブロン皇帝は同意した。

「帝国の皇帝が住むには、この部屋は狭すぎる……」

広さ自体はそこそこあるのだが、物が置いてないから殺風景極まりない。

パルーチャ監獄の屋上に上がる。乗り込む際に乗ってきたボートの他に後続部隊があったようで、リッチー島傭兵同盟の突撃海兵たちの姿もあった。

退路確保のため浮遊ボートのそばに残したカーシュらも無事だった。ソウヤたちは乗ってきた浮遊ボートに戻り、さらに迎えにきたゴールデンウィング二世号へと移動した。

そのまま会議室へ向かう。狭さでいえば皇帝がいた部屋に比べてかなり狭いが、それについてのコメントは特になかった。

「どうぞ、陛下。粗茶ですが」

レーラがいつもの如くお茶を振る舞い、ブロン皇帝はそれを受け取ると一口飲んで、ホッと一息をついた。

「まともな飲み物というのも、実に久しぶりのことだ」

監獄暮らしに、相当疲弊したのだろう。向かい合うソウヤに、ブロン皇帝は静かに語り出した。