作品タイトル不明
第541話、リッチー島に戻ったら……
グレースランド王国の王族とは極めて良好な関係を築きつつ、銀の翼商会は夕食会の翌日には、同王国を離れた。
リッチー島へ戻り、グレースランド王国用の飛空艇を運び、さらに戦力化までの間、王国の空を守る飛空傭兵団を連れてくるためである。魔王軍飛空艇の領空侵犯があっただけに事は急ぐに限る。
「爺さんは、うまくやったかな?」
ゴールデンウィング二世号のブリッジで、ソウヤは呟いた。操舵輪を握るライヤーは軽い口調で言う。
「あの人のことだ。心配いらねえだろ」
ゴルド・フリューゲル号で、先行したジン・クレイマン王である。傭兵団の準備を進めるとも話していたが、果たして……。
「そういやライヤー、お前は大丈夫なのか?」
「二日酔いか? おれは全然大丈夫さ」
昨晩は、飲酒していた者が多かったが、ライヤーもかなり飲んでいた。しかし当人はそんな様子もなく、平常通りである。
「まあ、真っ直ぐ船を飛ばしてくれればいいさ」
「旦那も結構飲まされていたようだが、平気なのかい?」
飲まされていた、に思わずソウヤは苦笑する。
「オレ? まあ、体質のせいだろうが、酷いことにはならない」
勇者体質というべきか、体に悪影響のある状態になりにくい。ほろ酔いまではともかく、二日酔いは経験したことがないソウヤである。
昨日は大いに飲んだためか、今朝は体調不良が続出した。
カーシュやダル、特にメリンダが酷く二日酔いで唸っていた。ヴィオレットら魔術師組や戦士組も唸っている者も少なくない。
「だが一番飲んでいたドラゴンたちが平然としているのは驚きだな」
ライヤーは笑う。ソウヤも皮肉げな顔になった。
「ドラゴンはオレたちと体の出来が違うからな」
人間なら腹を壊すものでも平気な種族である。飲酒で酔うことはあっても、その後、飲み過ぎが原因で具合が悪くなることはない。
「アクアドラゴン様は、たいへん幸せそうにまどろんでおるでござるよ」
「よう、フラッド」
リザードマンの戦士フラッドがブリッジへと上がってきた。魔獣使いのコレルも一緒だ。ふたりは昨日の夕食会には参加していなかった。
「どうした? こっちへ来るのは珍しいな」
「アイテムボックス内は、二日酔いだらけでござるからな」
チロチロと舌を覗かせるフラッド。
「傍にいると、こっちまで伝染するでござる」
「大牙たちが、酔っ払いどもの臭いを嫌ってな」
コレルは不満そうな顔をした。甲板を見れば彼の従魔たちの姿があった。
「そいつは大変だったな」
苦笑するしかないソウヤである。一部酔っ払いたちを乗せて、ゴールデンウィング二世号は行く。
・ ・ ・
リッチー島へ到着すると、ソウヤたちは面食らっていた。
島中央の発着場付近に集落が出来ていて、さらに見慣れない飛空艇が何隻も見えたからだ。
「なあ……ここ、リッチー島だよな?」
ライヤーが目を疑うのも無理はない。
少し離れただけなのに島の雰囲気が変わっていた。前は、孤島に忘れ去られた古代遺跡だったのに、今では一種の港町のようですらあった。
「人の姿が見えるが、どこから湧いてでてきた?」
「これも全部、爺さんとこの機械人形か……?」
ブリッジ脇から島の様子を眺めるソウヤ。発着場には飛空艇が並んでいるが、降りてもいいのだろうか?
「ゴルド・フリューゲル号がある!」
知っている船の姿に安堵したのもつかの間、操舵輪脇の通信機が鳴った。
『あーあー、ゴールデンウィング二世号へ。こちらリッチー島傭兵同盟。応答せよ』
知らない声。しかし、こちらを呼び出している。どうする?――という顔をするライヤーに、ソウヤは頷いた。
「こちら、ゴールデンウィング二世号」
『発着場は見えているな、銀の翼商会。着陸は7番――おたくの船、ゴルド・フリューゲル号の横に降りてくれ、以上』
「了解、リッチー島傭兵同盟。7番に着陸する」
通信を切る。ソウヤはライヤーを見た。
「7番だってよ。降りてくれ」
「大丈夫かねぇ。前とはまるで雰囲気が違うぜ?」
「爺さんの仕業だろ」
ソウヤは大地を見下ろす。
「こっちのことが分かっているなら、話は通ってるってことだ。でなければ今頃、不審船だって追い返されていたかもしれねえし」
「魔法で化かされてんじゃね?」
「ああ、浦島太郎の気分だ」
「ウラシマ……何だって?」
「海の底に行って帰ってきたら、地上は数百年経っていてビックリしたって昔話だよ」
ゴールデンウィング二世号は、銀の翼商会保有のゴルド・フリューゲル号の隣に下りる。
「さあて、爺さんよ。説明してもらうぜ」
・ ・ ・
「いつ外部の人間と接触してもいいように、島を整えていたんだ」
我らが老魔術師は、そう言ってトルドア造船所へソウヤたちを導いた。
「リッチー島傭兵同盟。とりあえずはそう名乗ることにしたよ」
このリッチー島周辺の島々は、海は魔物で危険なため、古くから飛空艇を運用していた。またワイバーンなどの外敵と戦うために武装した飛空艇を多数保有している……という設定らしい。
「海の魔物がヤバイのはわかるが、ワイバーンだってヤバイんじゃないか?」
設定として無理があるのでは、とソウヤが指摘するが、ジンはまったく気にする素振りもなかった。
「電撃砲は空中の敵には使えるが、海の敵には使えない。そういうことだよ」
対抗武器があるだけ、空路が優先された、ということらしい。
「なるほどね」
「最近までブラック・ラムという海賊船団と戦っていたが、そいつらを銀の翼商会と共同で撃滅し、島の傭兵たちに手が開いているので、出稼ぎに出てきた……という設定を考えた」
「ブラック・ラム……」
「知らないところで、うちの商会が活躍してることになってる!」
ソウヤが頭を抱えると、ジンは顎髭を撫でた。
「銀の翼商会がリッチー島傭兵同盟とどこで知り合ったか、きっかけが必要だろうからね」