軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第517話、永遠に彷徨う者

スケルトンは、動くものしか反応しない。

それはすぐに実証された。発見と同時に、機械人形たちは一斉に動きを止める。さながらマネキンのように、微動だにしない機械人形たちを、スケルトンは素通りした。

歩行ルート上にあって、ぶつかりそうになるスケルトンもいたが、それらも自分たちで避けた。一応、障害物は認識しているようだった。

「……恐ろしいほど鈍い」

最後尾のシンザが、通過していったスケルトンの後ろで手を振ったが、歩く骸骨たちは気づくことなく、進んで行った。

こうなると、もはやスケルトンは、ただの障害物でしかなかった。徘徊するそれらを避けつつ、フィーアたち4人は、奥へ奥へと歩いた。

「ここは地下墓地のようですね」

墓標が立っている部屋が幾つかあった。その周りをスケルトンがぐるぐると周回している様は、奇妙でしかなかった。

「彼らは何故こんな無意味な行動をしているのでしょうか?」

アマレロが言った。フィーアは思考回路に浮かんだ単語を口にした。

「呪い」

「呪い?」

「死してなお、永遠に歩き続ける罰」

「罰?」

「ライヤーから、地獄の話を聞いたことがあります」

フィーアは無感動な調子を崩さない。

「生前の罪を背負い、永遠に彷徨う罰……。いつからそうかはわかりませんが、ここのスケルトンたちは過去、そしてこれからもずっとこの遺跡内を歩き続けるのだと推測します」

「……」

4人は進み続け、三階層ほど地下へ潜った。そして、大きな部屋に到着した。

「ここが終点のようですね」

奥の壁に巨大な球体がはめ込まれていて、それが淡く光を放っていた。その球体の周りには浮き上がった血管のような盛り上がりがあって、天井へと伸びている。

「どうやら、動いているようですね」

ヴェルメリオは、正面の球体を睨んだ。

「あの盛り上がりの線は、エネルギー回路でしょうか。だとすると、造船所を稼働させた時のエネルギーが回路に沿って流れたことで、これが動き出した、というところでしょうか」

「睡眠効果の発生源でしょうか?」

フィーアが確認すれば、ヴェルメリオは答えた。

「睡眠効果がどのようなものかは、私たちでも観測できていないので、断定はできません。ただ、確かめる方法はあります。あの球体を破壊しましょう」

睡眠効果に関係しているなら、壊せばそれも止まる。ヴェルメリオは振り返った。

「シンザ、お願いします」

「了解」

灰髪のメイドは短槍を出した。

それは槍というには奇妙な物体だった。先端の穂先が丸身を帯びていて、刺すというより叩くか当てる武器のように見えた。

何より、シンザの持ち方が、槍とは全然違った。柄についているボタンのようなものを押し込んだ瞬間、ぼっ、と火と煙を吐いて穂先のような先端部分が飛んでいった。

直後、球体にぶつかり、先端部分は爆発した。

「……今の武器は?」

「ロケットランチャーです。ご主人様曰く、パンツァーファウストというらしいです」

爆発物を飛ばして、敵にぶつける武器という。直撃を受けた巨大球体だが、ヒビが入り多少焦げた程度で、まだ光っていた。

「ダメージは与えたようです」

「続けて発射」

「了解」

シンザは、柄だけになったそれを捨て、新しいパンツァーファウストを出した。おそらく魔道具で収納しているのだろう。まだまだ武器を持っているようだった。

「注意!」

アマレロが声を張り上げた。

周囲の壁から、小さな球体がいくつも飛び出した。

「アイボール!」

単眼の浮遊する魔物である。正確にはアイボールを模した球体だったが。その単眼から、光弾が放たれた。

それらの弾を、フィーアとアマレロは、ギリギリのところで回避した。機械人形の反応速度でなければ、おそらく直撃していただろう。

「迎撃!」

ヴェルメリオの声に、フィーアは両手のオーブガンを浮遊する球体に連続して撃った。球体は、反撃してくるとは考えていなかったか、フィーアの正確無比な射撃に次々と撃ち落とされていった。

しかし、数が多い。

ヴェルメリオは、防御障壁を展開して、球体からの攻撃を防ぎつつ、後ろのシンザを一瞥する。

「あなたは、大球体への攻撃を継続しなさい」

フィーアが敵を倒し、アマレロが囮をしている間に、シンザは続くパンツァーファウストを発射。2発、そして3発目でようやく巨大球体が完全に砕けた。

その頃には、小型球体は全滅し、辺りは静寂に包まれた。ここを守護するものは最早いないようだった。

ヴェルメリオは見回す。

「被害報告」

「異常なし」

すぐそばにいたシンザが答える。やや離れた場所にいたアマレロが立ち上がる。

「右腕が欠損。行動に支障はありません」

球体の攻撃の直撃を避けるために腕でガードした時に、吹き飛んだのだ。体内のオイルが腕から漏れたが、すぐにストッパーが働き、それ以上の損耗を防いだのだった。

「フィーア?」

「大丈夫。損傷なし」

これで終わったのだろうか? 辺りを眺めるフィーア。念のため深部を調べた後、これ以上何もないとヴェルメリオは判断。4人は元来た道を引き返した。

地下過ぎるせいか、しばらく通信機が繋がらなかったが地上に近づき、ようやくジンたちと連絡が取れ、奥の装置を破壊した旨を伝えた。

・ ・ ・

睡眠状態を引き起こす現象は消えた。破壊するものに間違いはなかったらしい。

眠っていたソウヤたちは、ジンが呼んだゴルド・フリューゲル号でやってきた機械人形やゴーレムによって地上へ運び出されていた。

船で待機していたレーラによって、眠っていた者たちも無事意識を取り戻した。

ライヤーは、フィーアは呼んだ。

「よくやったな。お前たちのおかげで、みんな無事だったぜ」

「それはよかった」

フィーアは淡々と答えたが、ふと疑問を口にした。

「ライヤー。私は地下で延々と無意味に歩き続けるスケルトンを見ました」

「ん?」

「それを見て、私はあのスケルトンたちと同じではないか、と思いました。人の命令に従うように作られた私」

あのスケルトンたちは、命令もなく、ただ歩き続けた。自分も、命令を与えられなかったら、あの骸骨たち同様、無意味に存在するだけではないか。

いつ作られたかわからない機械人形。ライヤーに会うまで、遺跡の中でずっと存在するだけだった自分。

「馬鹿だなぁ。お前とスケルトンどもは違うさ」

「見た目?」

「そうじゃねえよ」

ライヤーは笑った。

「お前さんは、考えることができる。でもあの骸骨どもは、考えることもできねえ。ぜんぜん、まるで、違う!」

お前が気にすることじゃねえよ、と、フィーアを拾った男は言った。