作品タイトル不明
第482話、隠れ家を探して
ダンジョン内に隠れ家がある。
ソウヤはジンからそう教わり、その隠れ家を目指していた。
テーブルマウンテン地下のダンジョンに、魔王軍の補給部隊やら連絡船がいつ来るかはわからない。
野営の道具はアイテムボックスにあるから、その気になれば野宿はできるが、ここはジンの弟子の作ったダンジョン。避難所やら施設が所々に作ってあった。
『へんなのー』
「フォルス、利用できるものは利用するもんだ」
地面の上で寝るか、柔らかなベッドで眠れるか。この差は大きい。
「自然児なドラゴンは野外上等かもしれないが、オレたち人間はか弱いんだ」
「か弱い?」
ミストが鼻で笑った。
――言うなよ、ミスト。オレだってまあ、平気だけどさ……。
聖女レーラやお姫様のリアハが、数日連続の野宿で無用な体力を消耗するのは避けたい。メリンダは騎士であるが、やはりどこかできちんと休める場所があったほうがいい。
レーラやメリンダは魔王討伐の旅で野宿は慣れているが、それでも町や村に極力立ち寄って消耗を抑えた。
そのメリンダが首を傾げた。
「これから行くのは、先日のダンジョンの制御する部屋?」
「いや、普通に見晴らしのいい隠れ家らしい」
湖にあった予備制御施設ではなく、小高い丘をくり貫いて作られた拠点らしい。
「オレらみたいな機械素人が使っても困らないところだってさ」
あの予備制御施設は、ガイドなしで奥に行くのは不可能だった。だが今回はそういう仕掛けはなしだと聞いている。
数日滞在するに不足ない避難所も兼ねているらしい。
ソウヤ、レーラ、メリンダを乗せた浮遊ボートと、翼を出した有翼人形態のミスト。ドラゴン姿の影竜とフォルスは飛ぶ。
「リアハとヴィテスちゃんは大丈夫でしょうか?」
レーラがここにいない二人を心配したが、答えたのは影竜だった。
『我が念話で誘導する。問題ない』
やがて、目的の丘についた。周りは森に囲まれていて、丘にも多数の木が生えていた。
「ぱっと見、拠点らしいものは見えないけど……」
メリンダが目を凝らす。ミストは口元を皮肉げに吊り上げた。
「本当にここで合ってる、ソウヤ? どこかと間違えてない?」
「広いダンジョンですからね」
レーラまで同情するような目を向けてくる。ソウヤは老魔術師から預かった手書きの地図とメモを見比べる。
「ここで間違いない。何せ隠れ家だからな!」
「で、どこに降りるの?」
浮遊ボートの舵を握るメリンダが問うた。周りには木が多く、小型のボートと言えども、降りられる場所は限られる。
「あの崖になっている丘の先端。あの上なら降りられるだろ。あそこの下が隠れ家らしい」
「わかった。……よいっしょ」
推進を担う舵の向きを変えるメリンダ。ボートはゆっくりと、切り立った丘の先――木が生えていない草地へと向かう。
「気をつけろ、出っ張りがある。右へ」
「んー」
やがて、浮遊ボートが滑るように草の上に着地した。ミストや影竜、フォルスも次々に降り立った。
「……へぇ。出っ張りの裏側って、入り口になってるのな」
ソウヤはボートを降りて、地形のでこぼこだと思っていたそれに驚く。民家の庭などにある地下蔵への階段口のようだった。
半地下。まさに隠れ家か。
人型になった影竜とフォルスもやってくる。
「中はどんなようすー?」
「まあ待て、今開けるから」
ジンから預かった鍵をポケットから出す。ジャラっと鍵が音を立てる。複数の鍵の束――はて、どれだろう?
入り口を封鎖している南京錠に鍵を当てはめる。ミストが覗き込んだ。
「もう、力でぶっ壊したら?」
「壊せるかな、というのもある。……で、何で密着した?」
「いけない?」
ミストがソウヤの背中にくっついて、肩越しに手元を覗いている。彼女の吐息が、耳をくすぐった。柔らかな胸の感触が押し寄せる。
「ちょっと、押しつけ過ぎじゃないか?」
「早くぅ」
「はやくー!」
違う意味でフォルスも煽ってきた。子供の煽りと、ミストの煽りは同じ言葉なのに、ニュアンスがかなり異なる。
ようやく鍵を探し当てて解錠。ソウヤは取っ手を掴み、扉を開いた。
「暗いな」
呟いたソウヤだが、その瞬間、近くで淡い光の玉が現れた。
「これでどうかしら?」
「サンキュー、ミスト」
照明の魔法で室内を照らしてくれた。フォルスがバッと目をかばった。
「ぎゃっ、まぶしー!」
「はしゃぐな」
影竜ママがコテンとフォルスの頭を軽く叩いた。言うほど眩しいわけではなく、明らかにフォルスがオーバーリアクションをとっただけである。
――子供って、時々イタイはしゃぎ方するよな……。
「思ったより綺麗だ」
洋風の、よくあるリビングという内装。机があって、ソファーがある。
「秘密基地っぽい隠れ家じゃなくて、ブルジョアな大人の隠れ家っぽいな」
休日は別荘で、のような雰囲気で、これでベッドなどがきちんと使えるなら、かなり快適な滞在ができそうだった。
「埃っぽくないわね」
ミストが辺りを見回し、試しに机を指先でなぞる。綺麗に整備されている。
「ここにも家妖精とかいたりしてな」
「いえよーせい? ソウヤ、いえよーせいって何?」
「家主には姿を現さないが、まあ幽霊ではないんだが、不思議な生物、存在? そういうの」
「よくわかんなーい」
「オレも上手く説明できん! 何かいないか探してこい!」
「探してくるー!」
ドタドタと室内とそこから繋がる部屋を見に走るフォルス。ソウヤはそれを見守りほっこりする。
どれくらい滞在するかわからないが、ひとまず拠点を確保するソウヤたちだった。