軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第47話、ヒュドラを倒したら凱旋だ

「ソウヤ、まずは礼をいう。よくヒュドラを倒してくれた。おかげで我々は、ダンジョンを脱出することができる」

ギルド長ガルモーニは、事実だけを述べるような調子で言った。手放しで喜んでいるわけでないのは、その顔を見ればわかる。

「その、正直困惑している。勇者マニアが、まさか本当に勇者さながらヒュドラを、たった二人で倒してしまうなんて」

首を振るガルモーニに、隣で腕を組んでいるドレイクも頷いた。

「まさに。商人で、Dランク冒険者が、Sランクの魔獣を仕留めてしまうなど……。目の前で見ていなければ信じられんところだ」

「勇者に憧れて、腕を磨いた結果ってやつですよ」

ソウヤは平然と嘘を吐いた。

「でも信じられます? 本物の勇者はもっと凄いんですよ!」

「……」

無表情で、いかついおっさん方の視線を浴びるのはつらい――ソウヤは苦笑する。

「一度、君とはきちんとお話する必要があるだろうな」

ガルモーニが言えば、ドレイクも口を開いた。

「その際は、私も同席させてもらいたいものだ」

――えー、なに、事情聴取ってやつぅ……?

面倒だな、と感じつつも、ヒュドラにまつわることも含め、色々話したいのは、冒険者ギルドの長としてあるだろうことは察するソウヤだった。

「ところでソウヤよ」

ドレイクが声の調子を変えた。

「このヒュドラの死骸、さっさと回収しないとダンジョンに分解されてしまうぞ。これは希少な魔獣であり、その鱗や肉、ありとあらゆるものが高値で売れる。商人として、これは見逃せないのではないかな?」

「あー、そうですね」

ダンジョンというのは、不思議なことに魔物などを生み出すが、同時に死体なども放置しておくと、ダンジョンによって吸収されて消滅してしまう。

何とも不思議な現象だが、ともあれ、基本的にダンジョンには、ゾンビなど以外には腐った死体は存在しないことになっている。

「取り分はどうします?」

「むろん、ヒュドラを単独で倒した『白銀の翼』の総取りだ」

ドレイクが言った。――おう、こっちで全部持っていっていいらしい。

「だがこれだけの巨体だ。消滅してしまう前に解体を手伝ったら――」

彼が続けるのをよそに、ソウヤはヒュドラの死骸に触れてアイテムボックスへ収納。一瞬で巨大なドラゴンもどきの死骸が消滅して、冒険者たちが驚いた。

「え、何か言いました、ドレイクさん?」

「いや……いや、何も」

黙り込むドレイク。ガルモーニが、ポンとソウヤの肩を叩いた。

「ソウヤ、お前、いまアイテムボックスにヒュドラを入れたな?」

「ええ、死体をアイテムボックスに収納するのは割とある話では?」

ソウヤのアイテムボックスは生きているものも入れられる特別製だが、一般的なアイテムボックスも、容量の差はあれ、動物の死体など、生きていなければ収納はできる。

「うん、お前が回収したヒュドラ素材、いくらか冒険者ギルドに売ってくれると助かる」

妙に威圧感のあるスマイルを向けてくるガルモーニ。何か地雷を踏んだ雰囲気を感じつつ、ソウヤは「もちろん」とコクコクと頷いた。

――いやだって、他にどうしようもなかったじゃん。ヒュドラ倒さないと、ジリ貧だって皆認めてたわけで、そこで誰か戦って死んだりしたら寝覚め悪くなるじゃんかよ!

そうこうしているうちに、入り口側通路で、様子を見ていた冒険者たちも現れて、こちらに合流。ガルモーニらとヒュドラ撃破の顛末を見ていたらしい彼らと話し合いになった。

が、そこでミストが皮肉げに笑みを貼り付けて言った。

「あんまりノンビリしている場合じゃないと思うけど? 魔族の連中が来るかもしれないんでしょう?」

「……そうだった」

ガルモーニは頷く。ヒュドラと挟み撃ちにされる格好で、追い詰められていた孤立冒険者たちである。

我らがギルド長は一同を見回した。

「とりあえず、今はダンジョンから撤収だ! 魔族のことは外で協議して対策を考える!」

冒険者たちは、粛々とその指示に従った。

外に戻れることに安堵する反面、ギルド長らのお話について考え、少々テンションの上がらないソウヤだった。

・ ・ ・

ダンジョン内で孤立していた冒険者たちが帰還した。当然、何もないはずがなかった。

魔族との死闘。駆けつけた白銀の翼こと、銀の翼商会、そしてソウヤとミストによるヒュドラ退治。

勇者に憧れた男と美少女魔法戦士のコンビの英雄譚は、たちまち冒険者の町に広まった。

冒険者ギルドの酒場では、生還した冒険者たちの口から顛末が語られ、それを聞こうと集まった冒険者たちが群がり、お祭り騒ぎになる。

ヒュドラの十本の頭をひとりで捌ききった男。

商人で、料理がうまくて、だが怪力無双。ベヒーモスさえ一撃で撲殺する男。

などなど、漏れ聞こえてくる声に、ソウヤは照れくさくてしょうがない。

「いや、オレはそんなんじゃねえよ」

「またまたぁ、謙遜しちゃってェ!」

「嫌味ですか」

などと生存者たちは、俺の評価を勝手に上げていく。

一方のミストもまた、ヒュドラにトドメを刺した可憐なる戦乙女と称えられていた。

「まあ、このくらいはね。あのヒュドラは大したことはなかったわ」

彼女はまったくもって正直だった。孤立組だった冒険者たちは、実際にミストが一撃で仕留めたのを見ていたが、酒場にいる連中は、本当に彼女がヒュドラを殺したのか、半信半疑のようだった。

無理もない。ミストの見た目がチャーミング過ぎるから。

「疑うなら、いつでも相手になるわ。その代わり、骨の一本は折れる覚悟はしてね」

おぉ……。

半信半疑の連中が、ジョークだとでも思ったか苦笑している。

それ本気だぞ、とソウヤは心の中で呟く。命知らずにも対戦を申し込む冒険者が何人かいたが、ミストはまったく涼しい顔だった。

中身ドラゴンに挑む愚か者たち。ヒュドラに挑むと同義であることがわからない者たちである。……合掌。

それはそれとして、酒場は大賑わいをみせ、酔っ払いたちによってソウヤたちの英雄譚は、いよいよ収拾が付かなくなってきた。尾びれも背びれもついて、よくわからない化け物みたいになっていくソウヤ像。

――ちくしょう、こうなったら、勇者ファンであることを強調しまくって、銀の翼商会の知名度アップに利用してやる!

今が推しどころ。ただでは転ばぬ。商会の宣伝に繋げてやろうと考えたソウヤ。しかし、そうは問屋が卸さない、とばかりにギルド長ガルモーニに呼び出された。

この場から堂々とエスケープできる理由ができたのに、手放しで喜べないのは何故なのか。

ソウヤは、惜しむ冒険者たちから離れ、ギルド長の執務室へと係の人に誘導された。

部屋に入ると机で書類の決裁をしていたらしいガルモーニが、近くのソファーを指さした。

「来たな、ソウヤ。座ってくれ、もう終わる」

ソファーにはすでにドレイクが座っていた。他にはいない。この場合、いないほうがいいのか、と思ったソウヤだったが、次の瞬間、扉がバンと開いた。

「聞いたわぁ、ソウヤ君! ヒュドラを倒したんだって~!」

丸焼き亭のおネエさん、もといアニータ店長が現れた。

――なんで!?