軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第464話、森の加工場

ジン曰く、ダンジョンの木を加工する施設があるらしい。

老魔術師が浮遊ボートを操り、その加工場へと向かう。途中、湖の近くを通過。大木が岸辺近くの水面から伸びている光景を目の当たりにした。

「木が湖から生えてるー!」

メリンダが素っ頓狂な声を出した。ソウヤもそれを眺める。

――マングローブ……じゃないな。すげぇな、マジで湖の中から木が伸びてるみたいだ。

レーラがよく見ようと腰を浮かせた。

「あれは何という木ですか? ジン様」

「さあ、私は知らない」

老魔術師は穏やかに言った。

「かつての友が独自に開発したものだろう。……もしかしたら、腐らない木の研究をしていたから、それに関係があるかも」

「腐らない木、ですか?」

レーラが目を丸くすると、メリンダが口を開いた。

「木って雨とかに濡れるとだんだん腐っていきますもんね」

「いや、別に水が腐らせているわけではないよ。その証拠に水の中に沈んでいた木はうん百年でも腐らないから」

ジンはやんわりと訂正した。

「そうなのですか?」

「原因は菌だ。繁殖した菌が木を分解してしまう。それが腐っていく原因」

「へぇ……」

ソウヤは改めて、湖に生えている木を見る。

「じゃあ、あの水の下は腐っていないのか」

「水面の下はともかく、水面ギリギリのラインはどうなのかはわからないがね」

ジンは笑った。

「ただ、そういう菌が腐らせないような木を作るというのが、テーマのひとつだったからね。もし完成したのなら、それはそれで画期的なものになるだろう」

遊覧飛行のように浮遊ボートはゆったりとダンジョンを行く。しばらく森の上を行くと、それが見えていた。

開けた場所に一軒家と、大きな屋根付きの作業場である。ジンが浮遊ボートを家の前に降ろすと、護衛のようについていたミストが辺りをぐるっと見回る。

「ミスト」

「ちょっと偵察してくるわ」

そう言ってミストが飛び去った。……何か見つけたのだろうか?

「それにしても……かなり年季が入ってるな」

ボートから降りるソウヤ。レーラが降りるのを手伝っていると、ジンは木造のくたびれた小屋を見上げた。

「そりゃあ数千年も前の代物だからね」

「その割に周りも含めて綺麗ですよね」

レーラのコメントに、ソウヤも頷く。

「確かに。草木がボウボウに生えてて、ここに建物があったかわからないようになってるんじゃねえか?」

「ここはダンジョンだからね。元の姿を維持しようとする力が働くものさ」

ジンは小屋へと歩いた。

「だから人が手を加えない限り、ダンジョンの環境はほぼ変わらない。我々がここにきたダンジョンの景色は、数千年からほとんど変わっていないのだ」

「ダンジョンの神秘」

玄関を開けて、小屋の中をジンが見回す。彼はひとつ頷くと振り返った。

「今でも休憩所として使えそうだ。どうするね、レーラ嬢。中で休憩もできるが」

「いいですね」

レーラが笑みを浮かべる。メリンダが小屋に近づいた。

「では、レーラ様が休まれる前に不審なものがないか確認します!」

女騎士は小屋に入っていった。すっかり聖女様を守る騎士だな、とソウヤは苦笑する。ジンが近づいてきて、作業場を指さした。

「では、ソウヤ、我々もここにきた目的を果たそう」

「何かするのか?」

「君がアイテムボックスに回収したダンジョンの木、トレントの残骸をあの作業場と、その脇に並べるだけ置いてくれ」

ソウヤは片方の眉を吊り上げた。

「集めた木を全部か? まさかこれから加工しようっていうんじゃ……」

「まさしくその通り!」

「マジか……」

思わず天を仰ぐソウヤ。ただでさえ巨木であるそれを、どれほど回収してきたというのか。

「どの道、加工しないと使えないんだ。言っただろう?」

「そうだけどさ……。オレは加工について詳しくないぜ?」

「安心しろ。私も素人だ」

快活に笑うジン。それは安心できないのでは――ソウヤは首を振り、言われた通りに巨木を並べていく。

物が物だけに作業場はすぐに埋まり、外の敷地もどんどん狭くなっていく。

「今さら言うのも何だけど、これ全部を業者に押しつけたら相手も困っただろうな……」

専門家任せにしようとしていたのだが、この大きさ、量はどんな業者も困惑だろう。それだけここのダンジョンの木が、樹齢ウン千年レベルの大きさの巨木だらけだったということだが。

「だろうね。だからこそ、ここで加工するのさ」

飄々とジンは言うのだ。ソウヤはとりあえず、回収したダンジョン木を並べ終わった。

「それで、ここからどうするんだ、爺さん?」

「何も。今日はこれで終わりだ。また明日だ」

「これがいわゆる乾燥ってやつか?」

木材の加工工程に乾燥があったはずだ。しかし、老魔術師は首を横に振った。

「少し違う。我々が離れている間に、ここの木をすべて加工してもらう。明日には製品ができているという寸法だ」

「……は?」

さすがにソウヤは耳を疑った。

「ただ置いておくだけ? それでモノ完成? 嘘だろ?」

「君は『小人の靴屋』というお話を知っているかね?」

「昔話か?」

「グリム童話だ。靴の材料を置いておいたら、次の朝には靴が完成していた、というお話」

ジンが言えば、聞いていたレーラが驚いた。

「材料を置いただけで靴が出来上がるんですか……?」

「小人の妖精が、人間が寝ている間に仕事を終わらせてくれるというお話だよ」

何とも都合のいい話だとソウヤは思う。

そういえば昔、父親が『妖精さんが仕事を終わらせてくれないかな』とか、『ソウヤの宿題も妖精さんがやってくれたらよかったのにな』などと言っていたことがあった。

――そこから発展して、『サンタクロース妖精説』なんて言っていたっけ。

懐かしい思い出である。

「つまり爺さん、ここに木を置いたら、小人だか妖精さんが勝手に加工をしてくれるってことか?」

ソウヤは腕組みして聞けば、ジンは得たりと頷いた。

「そういうことだ。言っただろう? かつて大量の木材を必要としたことがあると。木を作るだけではなく、加工もできなければ意味がない。その為の手段は用意済みだよ」