軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第45話、勇者の背中

ひとつだけ挙動が違うヒュドラの頭。はて、そんなものあっただろうかと、首をかしげるソウヤに、ミストは小悪魔めいた笑みを向けた。

「再生できない奴は被弾を恐れて攻撃に加わらない。そりゃそうよ、死ぬのはヒュドラだって嫌だもの」

「確かに」

他の頭はやられても再生するなら、捨て駒特攻してもどうにでもなる。だが再生できない奴はそうではない。

ソウヤが勇者時代に倒したヒュドラは、聖剣による遠距離斬撃で、複数の首を刎ねていくのを繰り返したから、そこまで深く観察しなかった。

――うん、悪くない手だ。

頷くソウヤだが、そこでふと、会議中だった冒険者たち全員が、ソウヤとミストに注目していることに気づいた。

――あれ? いつの間に。

「なあ、聞かせてくれ、銀の翼の……ソウヤよ」

ドレイクが、大仰な態度で言った。

「貴様は、ヒュドラと戦ったことがあるのか?」

「……」

ソウヤはミストと顔を見合わせる。

「ソウヤよ、こっちを見ろ」

ドレイクは重ねて言った。

「貴様、十年前に魔王を討伐した勇者と同じ名前だな。まさかとは思うが……貴様は、その勇者か?」

「馬鹿な!」

驚く周囲の冒険者たちだが、声を上げたのはガルモーニだった。

「勇者ソウヤはもう死んだはずだ!」

驚きがざわめきとなる中、ソウヤは首を傾けて、ドレイクを見据えた。

「うーん違うな……。オレは勇者ソウヤのファンだ」

「ファン?」

「あんまり言いたくはないが、名前が同じで歳も近かったから、勇者になろうと努力して……まあ駄目だった口さ。偽物なんてなじられたこともあったけど、オレも勇者ソウヤの伝説には心揺さぶられたからな。彼のことなら何でも知ってるって豪語できるくらい調べたもんよ」

と、設定をつらつらと語る。そうとも、ソウヤの名前を出して、勇者に因縁のある乗り物などを乗るにあたって、一生懸命考えた設定だ。

「当然、勇者ソウヤが戦った伝説の魔獣や、今回のヒュドラのことも、彼の仲間たちから聞いたんだ。だからオレが知ってるのは、実際の彼らの経験談なんだが……」

そこでソウヤは、斬鉄をアイテムボックスから出して、肩にかついだ。

「『まあ、任せてくれ。大丈夫、何も問題はない』」

ポカンとする冒険者たち。ソウヤは内心ムズッとしたが、敢えておどける。

「おいおい、今のは勇者ソウヤの物真似で、しかも決めゼリフだぞ? もちっと反応してくれよ!」

お、おう――冒険者たちは顔を見合わせ、苦笑している。本物の勇者に会ったことない者ばかりだろうから、似ている云々言われてもわからないだろう。……だからこその自称ファン設定でもあるが。

苦笑いする冒険者のひとりが言った。

「でもあんた、商人だろ?」

「失敬な、これでも冒険者と兼業さ」

「ヒュドラと戦うっていうのか? ランクは?」

「Dランク」

「おいおい、冗談だろう? 相手はA……いやSランクのモンスターだぜ?」

「いやいや勇者ファンを舐めるなよ。これでも相当、鍛えたからランク以上に強いぜ、オレは」

冒険者たちがドッと笑った。別にジョークのつもりはなかったのだが。

「ベヒーモスくらいは倒せるぞ」

ソウヤが言ったら、周囲が首を横に振った。

「いやいや、そんな――」

「信じてないな? なら、こいつでどうだ?」

アイテムボックスから取り出したのは、霧の谷で倒したベヒーモスの頭――

これには一同、固まった。

「ベヒーモス……?」

「これが、そうなのか?」

「マジかよ!」

クリストフが、大きなベヒーモスの頭から視線をソウヤに向けた。

「さっき、勇者になろうとして失敗したって……」

「そりゃそうだろ。勇者なんて簡単になれるわけないだろ?」

ソウヤは面白い冗談だと笑みを浮かべた。

「だが勇者にはなれなかったが、それでもこれくらいはできるようになったんだ」

だから――

「ヒュドラだって倒してやるさ。勇者ファンの名に懸けてな」

しんと静まり返る。冒険者たちはどう反応していいかわからないという調子だった。無理もない。

ランクが低い、ほぼ新参で、しかも商人をやっているような男が、超危険な高ランクモンスターを倒すなど、誰が鵜呑みにできるだろう。ガルモーニは難しい顔で考え込んでいるし、ドレイクも困惑している。

だが誰もそれ以上言えなかったのは、ソウヤからにじみ出る絶大な自信と見えない確信。この男は、もしかしたら本当にそうしてしまうのではないか? 勇者の模倣が、本当の勇者そのものに見えて、冒険者たちの心を揺るがした。

そんな中、ミストが一歩、前に出る。

「まあ、ワタシはヒュドラを倒すほうに賭けるわ」

ここにも不敵な自信を覗かせる少女がひとり。

「いいのよ。ワタシとソウヤで、あのドラゴンもどきを始末するから。あなたたちは、魔族が邪魔しないように、後ろを守ってなさい」

「あのなあ、ミスト。お前、言い方ァ」

さっさと歩き出すミストに、ソウヤも斬鉄を振り回して肩をならす。見慣れない棍棒のような大剣を軽々とぶん回す姿に、何人かの冒険者がビビった。

「ソウヤ!」

ガルモーニがその背に声をかける。ソウヤはヒュドラへ歩を進めながら、首を巡らす。

「ま、オレらで何とかします。最悪、やられたら犠牲はオレらだけで済みますし。オレらが戦っている間に、地上に連絡係を送るとかやってくれてもいいんで」

そのためにカエデというシノビを連れてきたのだ。とはいえ、その辺りのことは、ギルド長らに任せる。ソウヤは、ヒュドラを倒すほうに集中する。

「……でもね、ソウヤ」

ミストがボソリと言った。

「ベヒーモスの頭を出すのはやり過ぎよ」

「説得力を出すには、あれが一番かな、と思ってさ」

――出してからは、反対の声は出なかっただろ?

「ソウヤさん!」

「セイジ、じゃ、ちょっと行ってくるわ」

左手を振りつつ、視線は前へと向く。

「帰ったら、ヒュドラ肉でステーキだ!」