軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第438話、特許と信用

商業ギルドで、浮遊トレーラーの特許を申請した。

銀の翼商会は、十年間、浮遊トレーラーに関係する権利を独占する。その上で、バッサンの町と、浮遊トレーラーのライセンス契約を結ぶ。

要するに、バッサンの町から浮遊トレーラーの使用料、ロイヤリティーを銀の翼商会は受け取る。バッサンの町はトレーラーを作って販売できる、ということになる。

ゴールデンウィング二世号に戻ったソウヤは、そこでジンとレーラに顛末を話した。

「あまり馴染みがありませんね」

お茶を用意しながらレーラは首をかしげた。

「特許、ですか」

「発明された技術の保護というやつだな」

ジンは机の上に広げた紙に、図を書き込んでいる。

「レーラ嬢も、魔術師たちが自分の魔法を秘匿しがちであることは知っているね?」

「はい」

「何故だかわかるかね?」

「自分が苦労して習得した魔法を、他の魔術師に真似されたくないから……ですか?」

「その通り。一族とか流派とか、それらの魔術は、簡単に他者に使われたくない。未知の魔法は、それだけで周囲に対する優位にも繋がる。また他の人間が使うことで、弱点を見つけられてしまうからね」

老魔術師は、魔法を使う人間にとってわかりやすい言葉を選んだ。

「商業やその他分野の発明においても、似たようことになるわけだ。せっかく発明してお金を稼ごうとしたのに、それを他人に真似されて商売されてしまうと儲けがなくなってしまうからね」

個人ではできないことも組織だと簡単にできてしまう。相手が、発明した人間より製作、量産に優れた能力を持っていれば、発明者は苦労だけして得をしない。

「特許は、そんな発明者の権利、利益を守るものだ。人間誰しも、いいところ取りされて悔しい思いをしたくはないだろう?」

「なるほど……」

「保護されれば、次の発明の意欲も増す。手柄を横取りされることが続けば、発明を世に出さず、せっかく人の発展に寄与するはずだったものも意味をなくしてしまうかもしれない。魔術師たちのようにね」

「そういえば、ジン様が魔法を教えると言った時、魔術師たちは喜んでいましたね」

特にイリクなどは、その高度な魔術が開陳されることを賞賛。いや激賞した。

「隠されていた魔術が公開されることは、魔術の発展にも繋がる。そういうことだ」

「そういうことですか。……あ、でもそれだと、発明者は特許で保護されますけど、その人だけが独占してしまっては、結局は発展に繋がらないのでは?」

発明者のみ守られて、せっかくの技術が広がらないのでは、とレーラは首を傾げる。ジンは鷹揚に答えた。

「特許は、特別な例を除けば、数年で自由に他の者も利用することができるのだ。レーラ嬢の言う通り、ただ独占したのでは世間に広がりにくいからね」

つまり、その期限内に発明者はしっかり稼いで、苦労を吹き飛ばしてくださいね、ということだ。

「実際、数年も経てば、より優れた発明が生まれることもある。いずれは模倣されるものだが、模倣されるされない関係なく陳腐化する技術もある」

ジンは笑った。レーラは手を挙げた。

「もうひとつ質問よろしいですか?」

「どうぞ」

「その発明者はどうやって稼ぐのですか? もとからそれを作っても、世に普及しなければせっかく認められても稼げないのでは……?」

「個人では限界があるね」

ジンは顎髭を撫でた。

「元から力のある組織、大きな商会なら、それらを大量に作る設備や人員、素材の確保もやりやすい。だから、発明者はその発明をそれを活かせるところに売るんだよ」

権利の譲渡。つまり――ソウヤは言った。

「オレたちがトレーラー製造をバッサンの町などに作っていいよって契約を結ぶ。そうすればバッサンの町はトレーラーが売れれば儲かるし、契約内容次第だがこちらにもお金が入ってくる寸法さ」

いわゆるライセンス契約である。レーラは知らないだろうが、実際のところ浮遊バイクについてはもうそれをやっている。

「ま、こちらに一言入れるあたり、バッサンの町は真面目だな。オレたちに黙って、自分たちで作ることもできただろうに」

特許でないものなら、見よう見まねで製品化しても、自分たちのものだと言い張って特許を取ることもできた。もちろん、そんなことをすればオリジナルである銀の翼商会との関係は最悪なものになるだろうが。

ジンが顎髭を撫でる。

「我々が浮遊バイクやトレーラーだけではないからだろう。こちらが他にも色々儲けになりそうなネタを持っているから、関係断裂より、仲良くしておいたほうがいいと判断するのが自然だ」

「長い目で見たってわけだ」

目先の利益だけにとらわれず、将来を考えての選択ということか。

世の中には、人の苦労の証をかっさらい、自身の手柄にしてしまう奴もいる。人の発見や発明を奪い、力や法を盾においしいとこ取りするような悪党も。

――まあ、バッサンの町が黙って浮遊トレーラーを作って自分たちの発明どうこう言っても、オレは別に言うつもりはなかったんだけどな。

商人としては失格だろう。だが実際のところ、ジンが言った通り、トレーラー以外にもいくらでも特許の種がある。その中のひとつや二つ失ったとしても痛くもかゆくもない。

「いずれは、飛空艇に絡みたいと思っているかもしれないな」

ジンの言葉に、ソウヤは我に返った。

「何だって?」

「バッサンの町さ。浮遊バイク、浮遊トレーラーときて、浮遊する乗り物を考えるなら、やがては飛空艇の建造も目指すかもしれない」

「かもしれないな」

ソウヤは、レーラのいれてくれたお茶をすする。

「でも、バイクとトレーラーだけで手一杯になるんじゃないかなって思う」

全国的に普及するまでどれくらい掛かるかはわからない。数年はバイクとトレーラーの生産以外にやる余裕はないのでは、とソウヤは思っている。

「確かに彼らは街道の安全性から飛空艇に関心があったけど……。オレだったらルガードークに話を持っていくな」

「ルガードーク」

「ドワーフたちの町ですね」

レーラがお茶で唇を湿らせた。

「機械に強い種族でしたね、ドワーフは」

「あそこじゃ、飛空艇のパーツを作っているからな。飛行石がないことを除けば、船を作るに充分なパーツを揃えることはできるだろう」

例の低空飛空艇案の実現のためにも、一度、ルガードークに寄るのもありだとソウヤは思った。

もっとも、その前に、王都に浮遊バイクを輸送する仕事をこなさなくてはいけない。