軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第430話、ドラゴンブレス

ミストドラゴンと影竜が怪獣大決戦ばりに睨み合う中、クラウドドラゴンは、いつもの灰色髪の美女姿になると影竜を睨んだ。

「喧嘩するなら外でやって」

止めてくれるわけではないらしい。激突を身構えていたソウヤたちである。クラウドドラゴンは続けた。

「ここに、ワタシは家を建てた。壊したら死なす」

淡々と、しかし伝説の四大竜と言われるだけの威圧はすさまじく、影竜の戦意を奪った。

アクアドラゴンはため息をついた。

『なんだ、せっかく面白くなりそうだったのに……』

こちらは決闘を楽しもうとしていたらしい。そんなアクアドラゴンを、クラウドドラゴンがひと睨みで黙らせる。

クラウドドラゴンはそこで、ずっと話の外にいるもう一頭の子竜ヴィテスを見た。

「アナタはずっと黙っているけど、何か意見は?」

ぶんぶん、とゆっくり首を横に振るヴィテス。元々口数の少ない子だったが、案外この争いにも興味がないのかもしれない。

クラウドドラゴンは小さく頷くと、視線をフォルスへと向けた。

「どれ、アナタがどんなものか、ワタシがテストしてあげるわ。その結果で、基礎ができていないというのであれば影竜の方針に従いなさい。逆に充分だとみたら、人間と一緒に勉強すればいい」

四大竜の一角、クラウドドラゴンが意見を出した。ちら、と一瞥されれば、影竜も反対はできなかった。

ドラゴンは最強種族と自負する影竜でさえ、ドラゴン内の明確な順列は理解している。クラウドドラゴンがそう言ったなら、そうなのである。

「では、フォルス。簡単なテストよ。ブレスを吐きなさい」

クラウドドラゴンは言った。

ドラゴンと言えば、必殺にも等しい強力なブレスを吐くことができる。ブレスを使ってこそドラゴン。古今東西、ドラゴンと名がつくものはほぼ習得している。

「……ブレスってなあに?」

フォルスは本気で首をかしげた。冗談ではなく、本当にわからないのだと、ソウヤは察した。

言い出しっぺのクラウドドラゴンは、しばし硬直した。この子は何を言っているの、と悩んだあと、すっと顔を影竜に向けた。

その影竜はあらぬ方向を向いている。

『そういえば、お主、どういうブレスを吐くのだ?』

アクアドラゴンが聞いた。先日のデュロス砦の一件で、影竜を除く成人ドラゴンが迎撃に飛び立ち、それぞれブレスを使用した。

アクアドラゴンは、その戦いに参加していない影竜がどんなブレスを使うか知らない。

ミストドラゴンが口を開いた。

『あんた、確かポイズンブレスを使えるわよね?』

初めて、影竜と遭遇したソウヤとミスト、ジンは、道中で影竜の毒ブレスを察知して回避した過去がある。

『まだ、教えてなかったの? ブレスの吐き方』

『……』

『何で黙っているのよ?』

影竜の様子がおかしかった。クラウドドラゴンの眼光が光った。

「教えてなかったのね、ブレス」

『……』

「影竜?」

ゴゴゴ、と音がしそうなほど、クラウドドラゴンの周囲の大気がざわついた。アクアドラゴンとミストドラゴンは、危険を察して素早く後退する。

「かーげーりゅーうぅ?」

クラウドドラゴンが無表情でぶち切れた。

「ドラゴンがいの一番にブレスを子に教えないとはどういう了見ンン? アナタ子育てなめてますぅー?」

・ ・ ・

影竜が子供たちにブレスを教えなかった理由。

過去、影竜自身が周りのドラゴンに、自分のポイズンブレスをバカにされたことが原因だった。

無色の毒ブレスは、目に見えない凶悪な攻撃だった。しかしブレスを吐く姿が、同族からは、『何を口を開けているんだ?』状態――つまりブレスを吐く格好で固まっているという間抜けな姿に見えたらしい。

それならば、ともうひとつ身体的特徴から吐けるブレスがあった。こちらは毒々しいほどの真っ黒な煙を吐き出すというもので、相手を咳き込ませ、視界を奪う効果があった。

だが、直接の攻撃力はないブレスであるため、威力の強さで評価されるドラゴン族のブレスからは、これまた侮られることになる。

ただ煙を吐くだけというのは、これまた目くらましにしかならないと、コケにされた。

『ププ、何という地味なブレス……』

アクアドラゴンが笑いを堪えようとしている。

聞いていたギャラリーたちは笑いこそしなかったが、微妙な表情を浮かべる。

その中で、カエデだけが同情のこもった目になった。

「……わかる気がする」

シノビとして育った彼女は、毒や煙の技について知識がある。影竜の負い目が自分のそれに近いから理解できてしまうのだった。

「中々面白いブレスね」

クラウドドラゴンの評価はむしろよかった。玄人好みのブレスなのかもしれない。

「影竜、子供たちにはきちんとブレスを教えなさい。話はそれから」

『はい』

影竜は頷いたが、がっくりしているようだった。

親として、トラウマのように感じてしまっているブレスを教えるのは、しんどいのかもしれない。

ミストがドラゴン形態から、いつもの黒髪美少女になりながら言った。

「とはいえ、ちょっと地味よねぇ。フォルス、毒ブレスと煙ブレスを覚えたら、私のところにきなさい。かっこいいブレスを教えてあげるわ」

『かっこいい?』

フォルスが飛び跳ねて喜んだ。

影竜が目を剥いた。

『何を言っているのだ、ミスト? ブレスを教えるとはどういうつもりだ?』

「言葉通りだけれど?」

『ドラゴンは持って生まれた特徴のブレスしか吐けないんだぞ!?』

影竜は大声を出したが、ミストは失笑した。

「は? あなた本気で言っているの?」

『!?』

「ブレスなんて所詮、魔力なんだから、魔法として応用すれば色んなブレスを吐けるわよ。……ああ、そうか、あなた人間の魔法には無知だったわね」

ミストは嫌味を込めて言うのだった。