軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第424話、問題はあれど、必要とされるもの

商品化したら売れるのではないか。ソウヤの発言に、ジンは頷いた。

「売れるだろうね。通信技術の発展は文明を加速させる。連絡など、さまざまな分野で活用されるだろう」

ソウヤが行商にスピードを求めたように。

「中継局を置けば、より遠方とのやりとりも可能になるだろう。通信機もこんな小さいものではなく、より大きく機能も強化する必要はあるがね」

「オレが勇者だからってわけじゃないが、将来的に魔王軍と戦うことは避けられない。この通信機は、素早い命令の伝達や報告に役立つ」

「的確なタイミングでの命令。狼煙よりも格段に早く、伝令を待たずして、より部隊の行動がスピーディーになる」

ジンが付け加えるように言えば、空席に座る者が現れる。

「その話、おれにも聞かせてくれ」

カマルだった。諜報畑の人間には、俄然興味深い話と言える。

そこでジンが魔力式通信機を見せて機能を説明した。

「それは素晴らしい。ぜひ量産して普及させるべきだ! 我ら諜報員にとっても役に立つ!」

「ところが必ずしも、そう上手くはいかんのだよ」

ジンが顎髭を撫でた。

「と、言うと?」

「まず、量産体制が貧弱なことだ。バッサンの町で浮遊バイクの工場を作らせただろう? あれと同様、数を作るなら、製造できる者と工場を作ったほうがよいだろう」

工場を作って、人を雇って、お金を落として経済を回そう。

「次に材料の問題だ。現状、魔力式通信機は魔石を材料に使っている」

「魔石かぁ……」

魔獣の中には魔石を持っているモノもあるが、基本はダンジョンなどからの採掘が主である。入手が命懸けな分、割高であり、商品化した際の価格に影響してしまう。調達資金が高くなれば、数を揃えるのも厳しくなる。

「現状、魔石は魔法武具に優先され、その基準に満たないものは魔石灯などに使われている」

通信の有効性を認められなければ、通信機用に魔石を確保するのが難しいだろう。

たとえば攻撃力優先主義者たちなら、通信機で直接人は殺せない、魔石は実際武器に使うべきだと主張するだろう。

「いや、迅速な命令伝達のできる通信機は軍を動かす。場合によっては百の武器より強いと思うぞ?」

カマルは情報の重要性を認識しているからそう言った。ジンは苦笑する。

「その通りだ。だが世の中には、目に見える破壊力こそ最強と信じている者もいるのだよ」

昔話をしよう、と老魔術師は言った。

「かつて、とある世界で、敵の位置が分かるレーダーを軍に採用させようとした。だがその軍の担当者は渋った。何故なら、レーダーは電波を放つから、それを拾われて敵に存在を気づかせてしまうから、と」

夜中に明かりをつけて歩いているようなもの、と言ったそうな。

「そうなのか?」

ソウヤは問うた。ジンは皮肉げに眉を動かした。

「確かに電波を拾われて存在は敵にバレる。だがそれだけだ。向こうから電波が飛んできているから敵がいるんだろうなとわかっても、正確な位置などはわからない。だが相手側はレーダーによって位置や数などを把握していた。……どちらが有利かはわかるだろう?」

「れーだーが何なのかはわからないが、位置も数も把握していたほうが有利なのは間違いない」

カマルは断言した。

「奇襲には向かないが……いや待て、そのデンパを拾われれば存在がバレると言ったが、それを囮にすれば、敵を欺けるのではないか?」

「要するに使い方の問題だ」

ジンは頷いた。

「話が脱線してしまったが、量産化を図れば現在の魔石の供給量と、そこから生まれる魔石を使った製品の生産にも影響が出るものと思われる」

「最初はそんなに慌てて大量生産しなくてもいいんじゃないかな」

ソウヤは率直に言った。

「ぶっちゃけ、使っていればその有効性に気づいて、放っておいても数作れってなると思う。重要度があがれば、武器よりも通信機に魔石を回すようになる可能性も充分あると思う」

そこで、ソウヤは含みのある笑みを浮かべた。

「それにな、いいものは売り込まなくても、勝手に売れるもんだ」

「どういうことだ?」

訝るカマル。ソウヤは言った。

「たとえば、カマル。お前、俺の使っているアイテムボックス欲しいか?」

「欲しい。もらえるものならな」

「やらん。つまりはそういうことだ」

売る気がなくても、欲しいと人は認めるものもあるのだ。

「人ってのは面白いものでさ。人が使っている道具を見て便利そうだなって感じたら、黙っていても、欲しがるものだ」

譲ってくれ、売ってくれ、どこで手に入れたんだ、などなど。噂が噂を呼び、気づけばひとつの流行になっていて、それを欲しがる者がさらに増える。

醤油、浮遊バイクなど。銀の翼商会が開発に関係した品は、現在注目され、注文が殺到しているらしい。

「通信機も人前で適当に使っていれば、その便利さに気づいて遅かれ早かれ、ヒットするよ。それは間違いない」

ソウヤは、ジンとカマルを見た。

「それまでに商品化の準備と運用面の問題などを洗い出していくべきだと思う。爺さんの作ったこの通信機は、銀の翼商会の仲間内で使う分にはいいが、外で販売した場合、範囲内にいたら通信内容が丸聞こえになってしまうだろ?」

「確かに。あくまで商会メンバーが使うことを前提に設計したからな」

ジンは頷いた。

商会の情報ダダ漏れはもちろん、購入先のやりとりも聞こえてしまうのはさすがにまずい。

ソウヤはカマルへと視線を向けた。

「戦場で通信機を活用するにしても、現状の仕様だと混信がひどいことになると思う。五百人の兵に通信機を持たせたとして、それが一斉に喋ったら何が何だかわからんことになるし」

「そういうものなのか……?」

まだ通信機を使ったことがないカマルは首をかしげた。

「まあ、これは運用の問題でもある。全員に持たせるんじゃなくて、指揮官と小部隊にひとつか二つだけ持たせるとかすれば、そういう混信も避けやすくなると思う」

要するに声が届く範囲なら通信機に頼らずそのまま喋りなさい、ということだ。

「奥が深いな」

感心するカマルに、ソウヤは首を横に振った。

「先人はそういう苦労を乗り越えて、モノを発展させていったんだ」

というわけで、通信機関係については商品化を目指しつつ検討と研究を重ねるということで一致した。

魔王軍との戦いが不可避な情勢になっている中、これら通信の軍事利用は人類側の強化にも繋がる。

「ま、軍事以外にも、使い道はそれこそ山ほどあるんだがね……」