軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第422話、念話と通信機

「何やら皆、玉遊びに夢中らしいな」

ライヤーは周囲のバスケブームにも我関せずという空気だった。単純に興味がなかったのだろう。

アイテムボックス内食堂――銀の翼商会メンバーが一気に増えたことで、多人数が同時に食事ができる場所を作ったのである。

その食堂で、ソウヤのもとにやってきたライヤーが、料理担当であり食堂スタッフであるロイに声をかける。

「握り飯定食!」

「はい、すぐ用意しますー!」

この男は――

「相変わらず、素手で食えるもんばっかなんだな、お前って」

「いいじゃんかよ。さっさと食べられるっていいことだぞ」

「ここの食堂の料理は美味いんだぞ」

「知ってる。だからちゃんとこうして、食べにきているじゃないか」

銀の翼商会の料理は庶民的だが美味しい。それは商会メンバー全員の共通した認識である。

「どうかな。お前さん、本当は飛空艇を操縦しながら飯を食いたいとか思ってるだろ?」

「好きなんだよ、空にいるのがさ」

ライヤーは笑った。ソウヤは苦笑する。

「ちゃんと休む時は休めよな。気持ちが楽、とか楽しいから気づかないこともあるけど、結構疲れるものなんだからな。肝心な時に動けないじゃ洒落にもならん」

「わかってるよ、ボス」

『――握り飯定食ですー』

「おっ、きたきた!」

お握り四つに、味噌もどきスープ、卵焼き、ピクルスのセットである。

そこへジンがやってきた。

「ここにいたか」

「お、ジイさん。例のモノはできたのかい?」

ライヤーが近くの席を促せば、老魔術師はソウヤの隣の席についた。

「例のものって?」

「これさ」

ジンはテーブルの上に、ブローチのようなものを置いた。

「いったい何だこれ? アクセサリーか」

「魔力式通信機」

「通信……!」

ソウヤは目を丸くした。

「マジかよ? 通信機? なんでまた」

「遠方でも相手とやりとりできるのは便利だろう?」

老魔術師は言うのだ。

「事実、今回のデュロス砦の件は、通信機があれば、かなり楽だっただろうなと思うところが多々あった」

ゴールデンウィング号とのやりとり。砦に入ってからの指示や連絡。ソウヤは船とのやりとりはもちろんだが、同じ砦にいたジンと話すだけで砦を出たり入ったりをした。

通信機があったなら、かなり時間も節約できたに違いない。このロスが生死を分けるような事態も今後起こりうるだろう。

「そいつは同感だ。あるにこしたことはないが……。でも魔術師たちは魔力念話が使えるだろう?」

魔力を飛ばして遠方の相手と交信する魔法だと聞いている。ソウヤは使えないが、相手が飛ばしてきた念話については、向けられていれば使えなくても受け取ることはできる。

「だが君は、念話で返事ができないだろう?」

「そりゃそうだが……」

「独り言を言っているみたいでしんどいのだよ。そもそも相手がきちんとこちらの念話を受け取っているかわかりづらいからね」

ジンは、うんざりしたような表情を作ってみせた。

確かに相手が反応してくれないと話を聞いているのかはわからない。どれだけ話しても、相手が聞いていなければ虚しい。

「ソウヤ、君はひとこと魔力念話と言ったが、魔術師たちが必ずしも念話を使えるわけではないんだ」

「え、そうなの?」

「そうなんだ。使えても、その飛ばし方や効果範囲は意外とバラバラだ。銀の翼商会の魔術師たちには、改めて念話の教育をしているところだ」

「何でそんなバラバラなんだ?」

魔法には詳しくないライヤーが質問した。

「相手と話すだけだろ、念話って」

「理由のひとつに、魔法の教育環境が挙げられる」

老魔術師は顎髭を撫でた。

「魔術は師から弟子へ、個々に教えるものだからな。学校などの統一された機関で一斉に同じ内容を学べば別だが、現実はそうではない」

師匠の能力、考え方、指導によって弟子の習得する魔法にも違いが出る。

ジンやミストの教育を受けたソフィアが、他の魔術師を圧倒する魔法の使い手になってしまったのも、一例にしてもいいかもしれない。

同じファイアーボールの魔法でも、射程距離や数、誘導能力など、使い手によって差があるのだ。王都での魔法大会を観戦しているソウヤにも理解は早かった。

「そもそも、念話の飛ばし方から違う」

ジンは眉をひそめた。

「魔力式レーダーのように魔力の波に言葉を乗せて、話したい相手に飛ばす者もいれば、念話を飛ばしたい相手を想像し、その相手のみに聞こえるように飛ばす者もいる」

「どっちが正しいんだい?」

ライヤーが問えば、ジンは肩をすくめる。

「飛ばしたい条件にもよるが、どちらも間違いではない。前者のパターンは、相手が見える範囲で特に効果を発揮するが、同時に対象以外にも範囲内にいれば聞かれてしまう」

「多人数に同時に知らせたい場合は有効そうだな」

ソウヤが顎に手を当て考えると、ジンは頷いた。

「ただし、秘匿性に限れば欠点ではある」

「すると、相手を想像して飛ばすほうは――」

ライヤーが最後のおにぎりをかじった。

「その相手にしか聞こえないから、秘密のやりとりをするには打ってつけか」

「それに、どういうわけか相手が見えないところにいても届くことがあるから、遠距離での交信ができる場合もある」

ジンはしかし首を振った。

「もっともこれも個人差があって、どこにいるかわからないにも関わらず念話が届く場合もあれば、距離によって届かない場合もある」

「相手がどこにいるかわからないのにその相手のみに届くって凄いなぁ」

「まさしく魔法の所業だ。科学的には説明できない」

ジンは笑った。

「まあそんなわけで、魔術師たちに念話技術の共通化を図らせているが、念話を使えない者たちでも通信できるように作ったのが、この魔力式通信機だ」

テーブルの上の小さな魔道具がきらりと光った。